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第28話


「ぁあああ、よく寝たぁ…」


 時刻は午前五時。

 昨日はキミさんとこで飲んで、うちに帰ってからそのまま寝たから多分八時間は寝ただろうか。沈んでいた気分もすっかり良くなったし、やっぱりどうにもならない時は酒を飲んで寝るに限る。


 しかも、日曜日。


 これから何をしようと思案する。本当なら彼女たちを誘って、また霞城ダンジョンへ行こうと思っていたのだが。…うん。それは無理だと諦めよう。とりあえず、昨日ほったらかしにしていた装備の点検や掃除をするのが先か。


「ん?」


 顔を洗って歯を磨く。

 朝飯は適当にプロテインを摂ろうとシェイカーを振っているとスマホに通知が入っていることに気づいた。おやすみモードで制限していたから気づかなかったんだろう。


 …嫌な予感がする。そのまま知らんぷりして散歩にでも出かけた方がいい気がする。


 けれど、社会人としてそれはできない。しかも、万が一アオイさんたちからの連絡であれば無視するほど自分の立場が悪くなるということだけはわかる。仕方なしにスマホを握り、ロックを外した。


「…ガワさん?」


 予想外の人物からの連絡だった。

 美容師のガワさん。おれがドローンを借りた人である。


『至急連絡ください』


 メッセージはそれだけで、着信が何度も来ていた。しかも夜中の3時から。30分おきに来ているところがある種の恐怖を掻き立てる。

 ガワさんなんか怒ってんのか? 

 普段温厚な人ほど怒らせた時は半端なく怖い。けれど、心当たりがまるでなかった。ドローンを借りて昨日のダンジョン探索で使うことは伝えていたし…。


「まさか」


 そこで思い至った。そういえば、撮影した動画が保存されるクラウドはそもそもガワさんのものなのだ。だから、おれが撮影した動画をガワさんが見るかもしれないと事前に注意されていた。まぁ、ガワさんならどうぞとおれも承諾していたのだった。というか、配信の素人だからある程度立ち振る舞いなどを含めて見て欲しいと言った覚えもある。


 …あれ、見たんだよなぁ。


 頭が痛い。

 100%大人であるおれが悪いのだ。未成年にあそこまで負担を強いた時点で引率者として失格だ。しかも探索者でもないおれがダンジョンで探索者の心得を教えてたってんだから、現役の探索者からすれば一言物申したくもなるだろう。


 迷ったが、すぐに着信を入れた。物事には先延ばしして良いことと悪いことがある。


「あ、もしもしガワさんですか?」


『黒地さんっ! なんってもの撮ってくれたんですかっ!』


 怒号。

 普段のガワさんから想像もつかないほどの大声に思わずスマホを切りそうになった。けれど、堪えた。少なくともガワさんにはおれに対して言う資格はあるのだ。


「すいません。お見苦しいものを」


『何言ってるんですか!』



『こんな高度な魔力操作初めて見ましたよっ! これ、コーティングに流し込んでるんですよねっ? どうやったらこんな精度で流せるんですかっ!』


 あれ?




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