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32勝手目 霊感って何?(1)

「来ちゃったぁ……すごい土砂だよぉ……」


 情けない声を出しながら放り出された山を歩く。当たりには近藤さん達は居ない。大声で誰かいますかなんて叫んでも、声が虚しく反響するだけだ。


 勢いで来たの、本当に良くないよね。でも、後悔しても遅いんだよなぁ。

 そんなに歩いていないけれど、気が滅入って仕方がないので木陰に腰を下ろしてみる。

 流暢に休憩なんて言ってる場合じゃない状況だ。木は薙ぎ倒されてるし、岩も転がっているし、ボクも土砂崩れに巻き込まれたっておかしくないんだもん。


 ここで地震が来たらどうしよう。そしたらボクも土砂に飲まれて死んじゃうよね。嫌なもしもを考えると心臓がヒュンとなる。


 車より大きな岩がボクを目掛けて転がってきたら? 

 立っているところが突然崩れて、崖崩れみたいになったら?


 最悪な出来事は考えればキリがない。でも来てしまったんだから、洋さんは探さなきゃ。死と隣り合わせの状況なのに、なんだか現実味が無くて涙も出ないよ。


 だけど絶望が胸に影を落とす。目を瞑り、大きくため息を吐いた。

 そうしたら、また洋さんが木に引っかかっている姿が浮かぶ。パーカーのフード部分が木の枝に引っかかって、なんとか土砂に巻き込まれずに済んだ姿。


 昔からある特技というか、想像した事が本当だったりする事がある。

 例えば何か探している物があれば、目を瞑るとぼんやりある場所がわかるとか。ふと想像した芸能人が芸能ニュースで取り上げられて報道されるとか。


 どう考えてもただの偶然なんだけど、自分には何か特別な力があったりして! 

 なぁんて勘違いしちゃうんだ。実は今回もちょっぴりだけど、期待がある。


 でもねぇ、こんな山が無くなる様な災害を目の当たりにして、偶然にも木に引っかかって助かる事なんてあり得ないよねぇ。

 やっぱり可能性は0%なのかなぁ……と、また俯いてしまう。


「失敗したなぁ……帰りたいや。そういえばどうやって帰るんだろう……え!? どうやって帰るのぉ!?」


 ガラケーのメモ機能などに記載が無いかくまなく探してみる。地震活動が落ちついて静寂が訪れた。何も音がしないのが怖くて、慌ててネリーに電話をかけてみる。

 トランシーバーのような携帯だから、通話ボタンを押すだけで皆の会話に混ざる事が出来た。


「あ、あのぉ! 帰りたいんですけどぉ!」

『どちらかのチームと合流出来たんですか?』


 ボスがボクの声に反応してくれる。さっきの恨みは忘れないぞと思いつつ、ボクは誰とも会えていない事を伝えた。


『探してもないんですね?』


 嫌な言い方するなぁ。一語一句丁寧に大袈裟にゆっくり言う。ないはないでも、探してないの方だからなのはわかるんだけどさ。


「うん……だって歩くだけで怖いんだもん……」

『伊東、あまり洋斗を責めるな。帰って来づらくなるだろう』

「土方くぅん……!」


 なんて優しい副長なんだ! 本当の土方さんは鬼とか言われてるけど、こっちは温情に溢れてる。

 思わず立ち上がって、ペコペコとお辞儀をしながらお礼を言っちゃう。


『だがな、洋斗。沖田を回収しないと帰って来れない仕組みかもしれないんだ。恐怖が勝るのはわかるが、過去へ行った以上は頑張ってくれ』

「ぎっ!」


 体が石の様に固まって、ピシッとヒビが入る。どう足掻いても頑張るしかないんだ。


「じゃ、じゃあ怖いからこのまま誰がボクと話しててよ!」

『はは……ずっと私達と通じてるから大丈夫よ』

『洋斗、トテモ情けナイ』


 女性陣の呆れまじりのため息にさらに心を抉られる。もしかして今のボク、猛烈にダサい?

 帰るのは一旦諦めて、進めそうな箇所を行く。道なんてないし、歩いたところがいつ崩れるとか考えたら立ち止まって目を瞑ってしまう。


 数回、いや数十回繰り返していると土砂が滑り台を降りてきた様な場所に辿り着いた。これに飲み込まれたら一溜りもないやと喉を鳴らす。


 すると近くからガサガサと気を揺らす荒々しい音が聞こえてくる。鳥や小動物じゃない、もっと大きな動物の荒々しさだ。


 山にいる動物といえば狐、鹿、猪、熊――熊は不味い。熊だったらどうしよう。


 服のポケットをあちこち叩いても武器になりそうなものはない。出てきたのはガラケーとハンカチ、それから飴くらい。いっそ飴でも投げる?


「ねぇ! 熊が居たらどうしたらいいのぉ!?」

『姿を見ても騒ぐな! 背中は絶対見せるなよ! 後ろ向きでゆっくり歩いて、目を逸らすな!』


 土方くんの言う通り口を手で覆って恐怖を抑える。音はすれども迫って来る気配はない。

 恐怖と興味が比べっこしたら興味が勝ってしまい、音のする方へと忍足で近づいていく。


 ちらりと見える茶色い爪先。もしかしてと足を早めると、瞼の裏に見えたまんまの洋さんが木の枝から降りようと足をばたつかせていた。


「あ……」

「居たぁ――! 居た! 居た居た居た!」

『沖田か!?』

「うんうんうんうん! 木に引っかかってるよぉ!」


 見つけた喜びと帰る事が出来る安心感に頬が緩む。やっぱりボクの特技は気のせいじゃないんだ。

 現代に居る皆も安心したような雰囲気だ。怪我はしてるけど、暴れる元気があるなら心配なさそう。


「見つけられてよかったぁ。これで帰れるね!」

「知らない! 早く降ろせ!」

「もぉ! 降ろして、でしょ!」


 助けてもらう側なのに横暴だ。洋さんを降ろそうと思ったけど、身長が足りなくて届かない。嫌だけど背に腹はかえられないから、ボクが背中を丸めて踏み台になって降りてもらう事にした。


 洋さんは容赦なくボクを踏み、不安定な地面へジャンプして着地する。


「ねぇ! ありがとうは!?」

「はい。どうもありがとう」


 早口で、言えばいいんでしょ? みたいな感じ。洋さんはボクを見もしない。


「全ッ然感情こもってないぃ!」


 ボクの事が嫌いなんだろうけどさ、この状況で感謝してくれないのはおかしいと思うんだよね!


『体はなんともないか? 寝てないからしんどいだろ』


 土方くんは洋さんを気遣った。ねぇ、ボクは?


「気を失ったらちょっと元気になった。でも晴太くん達と逸れた」

『僕と学さんなら大丈夫! 洋は藤堂さんと一緒に下山して!』


 洋さんはガラケーで皆と連携を取る。無事だとわかっただけで、土方くん達の声も明るくなるんだ。山崎さんは目が覚めて背中が痛いって言ってるみたいだけど、それでも声は元気そう。


「だってさ。行くよ」

「帰り道わかるの!?」

「わかると思ってんの?」


 指差す先には一面の土砂。ボクはまた困難がと項垂れる。洋さんは右手を腰に当てて、辺りを見渡した。


「どこに行っていいかわかんねぇや。とりあえず下に行く」


 慣れてるからこんな状況も平気なのかな。ボクにこんなにそっくりだけど、怖さとかないのかな。


 土砂に流されたのにこんなあっさりしてる?

それとも我慢してるだけ? テキパキしてるのが逆に違和感があるや。


「ねぇ待ってよ。怪我とかないの? どこか痛いとか、辛いとか」

「何? 別にないんですけど」

「でも怖かったとか、そういうこと言わないから心配なんだよ……ボクはすごい怖かった……いや、怖いもん! 洋さんもそうでしょ!」


 洋さんは顔を顰めながら目を細めてボクを睨む。


「アンタと一緒にしないで欲しいんですけど。アタシは余裕だから、1人でビビってれば!」


 喉が焼けるように荒々しく「イライラする」と吐き捨てて、逃げるように歩き始める。ボクはそれに遅れを取らないように横についた。


 さっきまであんなに怖かったのに、洋さんと会ったら少しホッとした。

 誰かと一緒に行動できるというのもあるけれど、それ以上に"何かある"が守れた気がして嬉しいんだ。


「土方ァ! なんでこんなよこしたの!?」

「何さぁ! ちんちくりんって! 聞いてよボスぅ! 洋さんってばね、ボクのこと踏み台にしてぇ――」


 ボクらは一つのガラケーに向かって言いたい放題言う。

 こんなに嫌がられてるのに、認められるというか、なんだか居心地がいいのはなんでだろう。

 やっぱり、いろんなところが似ているからなのかな。

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