現れたゼノメサイア。
その姿を見た瀬川は心から思った。
「何で来たんだっ……⁈」
つまり快は結婚式を抜け出して来たと言う事。
それは瀬川にとっても快の夢を叶えてやれないと思わされる事実だった。
『(ごめん瀬川、みう姉が言ってくれたんだ……!)』
ゼノメサイアとして快は拳を構える。
頭に浮かんでいたのは先程の披露宴での美宇の手紙だった。
その内容を思い出しながらザガンと戦いに向かった。
『ゼェアッ!』
攻撃をされる瀬川たちを守るために動くゼノメサイア。
ザガンはまだ攻撃していない彼を敵とは認識していないらしく自由に動けている。
《最愛の弟、快へ。両親が死んでから貴方の親代わりになろうと必死でした》
TWELVEの面々を庇いダメージを受けていくが反撃せずに踏ん張っている。
あくまで今はサポートに徹するのだ。
《いつも苦しそうにしていた貴方に愛を与えようと焦り幼いままだと強く当たってしまう事もありました、それが辛かったんだよね》
快が守ってくれる事を最大限活かし瀬川たちはザガンの隙を作ろうと攻撃していく。
最後にゼノメサイアの火力で一気に仕留めるのだ。
《自分の至らなさを受け入れる余裕が無かったんだ、ごめんね。幼いのは私もでした》
分離したままで集結してくれないザガンに苦戦する。
このままではいくら鉄分拡散弾を撃ち込んでも残ってしまう。
《自分の事ばかり考えて貴方が愛を必要としてる時に歩み寄れなかった。心配だったの、このままじゃ貴方は成長できないと思った。親としての責任を私は果たせない》
そんな時、ザガン本体の背後から今まで停止していたウィング・クロウが現れる。
目が覚めたアモンは一度敵対認識が解除され近づく事が出来たのだ。
超至近距離で高火力レーザービームを放つ。
《でも貴方は私の知らない所で変わっていった、色んな出会いを経験して大人になっていったんだ。しかもそのきっかけは私がくれたって言ってくれたよね》
この距離でレーザーを受けるザガンは散らばせていた小型を一体に集めて一気に硬くなる。
その防御力でなんとかアモンの攻撃を防いだ。
《その言葉で私は救われました。あの時の貴方はまさしく私のヒーローです》
一体に集まったザガンの隙を瀬川は見逃さなかった。
一気に突っ込み鉄分拡散弾を放ち命中させる。
そのままザガンは悲鳴を上げ分離すら出来なくなってしまった。
《言ってたよね、歩み寄って心を救うのがヒーローだって。ヒーローにしてくれた事を感謝されて私もようやく貴方に心から歩み寄る事が出来たと思います》
快に向かって叫ぶ瀬川、呼応するように走るゼノメサイア。
死にかけのザガンへ近づきエネルギーを溜める。
《貴方の親にはなれなかったけどヒーローにはなれたかな?》
姉と親友の想いを受け取り立ち上がる。
《だから私はもう大丈夫。これからはもっと外に出て色んな人に歩み寄って、きっと貴方の救いを求めている人達がいるから》
拳をザガンに突き立てる。
《貴方にはきっと出来る事がある。今までの失敗で自信を無くさないで、愛してくれる人は必ずいます》
そのまま強くエネルギーを放った。
《そんな人たちに応えてあげて、私にそうしてくれたように》
ゼロ距離で放たれるライトニング・レイは思い切りザガンの体を焼却し再生を許さない勢いで破壊していった。
大爆発を起こし消滅するザガン、ゼノメサイアたちの歩み寄りの勝利だ。
《……貴方を愛しています。創 美宇》
空を見上げながらゼノメサイアは心を噛みしめていた。
___________________________________________
結婚式の翌日、快は瀬川と通話していた。
手紙の内容なども含めてゼノメサイアとして戦いにきた理由を察してもらうために話した。
「もっと外に出て愛してくれる人に歩み寄れって言ってたんだ、だからお前たちにも歩み寄れるよう頑張るよ」
『なるほど、上手くはいったみたいだな』
「うん、お前らが守ってくれたお陰だよ」
『ちょっと照れるな……』
結果は上手くいったようで何とか安心する瀬川。
ある疑問が浮かんだので快に質問をする事にした。
『そいえばこれからどうすんだ?三人で暮らすとか?』
昌高も含めた三人で暮らすのかどうかと聞いてくる。
快は一つのある結論を出していた。
「それに関しては話が動いててね……」
一体どのような話が動いていると言うのだろうか。
・
・
・
そこから更に数日。
快は汗をかきながら段ボールを運んでいた。
「っしょ……」
小さめのアパートにその荷物を運ぶ。
そこには美宇や昌高、瀬川に愛里の姿もあった。
「結構狭いな」
「一人暮らしには十分なんじゃないの?」
瀬川と愛里がそのようなやり取りをしている。
「荷物も少ないしスペースは全然あるよ」
段ボールを置いた快が会話に参加する。
そう、ここは今日から快が一人で暮らすアパートの一室なのだ。
「でも思い切ったよね、高校生で一人暮らしって」
「みう姉もそろそろ自分の幸せを掴んでいいはずだから。俺も巣立ちしなきゃ」
そのような快の言葉に愛里が反応する。
「夢のために翼を広げて巣から羽ばたく、英美ちゃんと同じだね!」
そう言ってもらえて感謝した。
ようやく彼女にも近付けた気がする。
「快、荷物全部終わったよ」
すると美宇がやってきた。
全ての荷物を運び終えたのだという。
「ありがとう」
そして美宇は快の背中を叩く。
「よし!これから頑張るんだよ?困った時はいつでも相談して良いからね!」
快の少し大人になった表情を見て喜ぶ美宇。
それに応えるように快も返事をした。
「……うん!」
その姉弟のやり取りを見ていた愛里。
彼女もある決意を固めるのであった。
「(私も家族に歩み寄らなきゃな……!)」
仲の良くない家族の事を思い浮かべるのであった。
___________________________________________
愛里は快の引っ越しの手伝いを済ませた後、自宅に戻った。
すると両親が出かける準備をしていた。
「お兄ちゃんのところ行くの?」
「あぁ……」
素っ気ないいつもの態度に少し悲しくなるが彼女はもう決意を固めている。
自分の意思を素直に伝えた。
「今日は私も行っていい……⁈」
その発言に両親は驚いたような表情をするが悪い事はないと判断し了承した。
・
・
・
兄の入院する精神病棟に初めてやって来た愛里。
その外観を見て緊張を感じて来た。
「……っ」
中に入っても真っ白な空間に余計に緊張感が走る。
しかし決めたのだ、自分は家族に歩み寄ると。
「こちらです」
スタッフに案内されて面会室に入り兄が来るのを待つ。
その間は無言だった。
そして遂にその時が。
「お兄ちゃん……!」
スタッフに連れられて兄がやって来た。
やつれて火傷の跡が残っているがその姿はまさしく兄だ。
「え……?」
いつもと違い愛里がいることに不思議そうな顔をする兄。
それでも愛里は想いを伝えようとした。
「ごめんなさい、私……っ!」
すると兄が突然豹変した。
「あ、あぁぁぁぁっ!!!」
愛里を見つめたまま叫ぶ。
その瞳には恐怖が浮かんでいた。
「どうした⁈」
「大丈夫⁈」
慌てる周囲の大人たち。
必死に彼を落ち着かせようとする。
「あぁ、赤ちゃんが!赤ちゃんが!」
愛里を指さしながらもう片方の手で火傷の跡を搔きむしる。
「愛里がどうしたの⁈」
そう質問をする母に兄は答えた。
それにより愛里は絶望に叩き落される。
「赤ちゃんが火ぃつけた……!お家燃えた……!」
なんと彼は愛里が家に火をつけた事を知っていたらしい。
大人たちが一斉に愛里の方を見る。
「え……?」
その恐怖の視線に愛里は腰が抜けてしまうのだった。
つづく