Connect ONE本部、ここでもグレシアラボラスの存在は観測されていた。
しかしあくまでデータ上のみ。
カメラで撮られた映像からはやはり普通の者には見えていなかった。
「本当にいるのですか?私には見えません……」
そう言っているのは参謀。
新生長官相手に疑問を問う。
「あぁ、もちろんそこにいるよ。第拾壱ノ罪獣がね……」
どうやら新生長官には見えているらしい。
見える者と見えない者の違いは一体何なのだろうか。
「やっぱインディゴ濃度か?」
「恐らくそうだろうね」
ライフ・シュトロームをエネルギー源とする兵器に搭乗するためにも必要とされるインディゴ濃度という適性。
その話題を時止主任と出していた、当然時止主任も見えていないような反応を見せている。
「一定の基準に達した者は姿を確認できるようだね」
そこで時止は思った事を新生長官に問う。
「じゃあやっぱTWELVEのみんなにも見えるって事か?」
そう、実際に兵器に乗って戦う彼らは当然インディゴ濃度が高い。
そのためグレシアラボラスの姿を確認できていると推測したのだ。
「聞いてみようか、場合によっては出動する事になるかも知れない」
「オッケー、じゃあ聞いてくるよ継一」
新生長官を下の名前で呼んだ時止主任は部屋を出て実働部隊TWELVEの隊員たちを呼びにいく。
そして部屋に残された新生長官は口元だけで微笑み、目が笑っていない状態で呟いた。
「懲りずに僕を下の名前で呼ぶか……」
その言葉と表情にはどんな意味が隠されているのだろうか。
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Connect ONE本部で館内アナウンスが響いた。
内容はTWELVE隊員たちを呼び出すものだった。
『緊急招集。実働部隊TWELVE隊員、直ちに指令室へ』
そのアナウンスにより集められた者たちは隊服も髪型も乱れていた。
本当に緊急だという事が伝わってくる。
「何すか突然、俺たちあんま表出ない方が良いんでしょ?」
欠伸を我慢しながら頭髪の爆発した竜司が問う。
名倉隊長はしっかりしているが陽は欠伸をしており蘭子は隊服すら身に着けず口にはドーナツを頬張っている。
「ちょっと満喫しすぎな気もするけどね……」
「だって待機はしてないとだしやる事ないし……」
言い訳する竜司の横で蘭子がようやくドーナツを飲み込む。
呼び出した時止主任を睨みつけて言った。
「大した用じゃなかったら蹴るからね、オンラインの仲間に迷惑かけてんだから」
蘭子はゲームの途中だったようだ。
「連れてくの大変でした……」
陽が無理やり引っ張って連れてきたらしい。
それでも蘭子は文句を言い続ける。
「だってあたし達もうダメでしょ、エゴサしても文句しか書かれてないし!」
どうやら世間で言われている事をかなり気にしているようだ。
「誰にも必要とされてない……っ!」
目に涙を浮かべた蘭子。
かつてeスポーツで自分を仲間外れにした者たちのトラウマが蘇った。
ゲームは彼女なりの現実逃避だったのだろう。
「……っ」
蘭子の言葉に歯ぎしりをする名倉隊長。
彼も誰かに認められたい一心で頑張って来たため現状に満足できていない一人である。
するとある男が口を開いた。
「だからって何もしないんですか……?」
それは瀬川だった。
彼も名倉隊長と同様にきっちり隊服を着て髪型も整えている。
「不満なら自分から変えようと努力しないと。現実から目を背けてちゃずっとそのままです」
まるで蘭子たちが怠けていると言うような発言をする瀬川。
その言葉は名倉隊長にも刺さる。
「(やはり俺は隊長失格だ……)」
部下ばかりがこのような発言をして自分は何も出来ない。
自衛官時代から何も変わっていないように思えた。
「時止さん、早く本題に移って下さい」
瀬川が時止主任を急かす事で話はようやく始まる。
「あぁごめんな、ちゃんと呼び出す程の話だから安心してくれよ」
そうして時止主任はモニターに映る現場の様子を見せた。
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モニターの映像を見た一同は驚愕の表情を見せた。
「え、罪獣⁈」
「それなら何でさっさと言ってくれないの⁈」
「は、早く出動……!」
そのような反応を見て時止主任と新生長官の二人は顔を見合わせ頷く。
「やっぱりね」
「インディゴ濃度が答えか……」
その発言に今度はTWELVE隊員たちが顔を見合わせる。
インディゴ濃度の話は何度か聞いてはいるが詳しくは理解していない。
「何なんですか……?」
その当然の疑問に対して時止主任は答える。
「この罪獣は君たちインディゴ濃度の高い者にしか見えないようなんだ」
そして新生長官がリモコンを取り映像をアップにして罪獣が建物に触れる瞬間を見せる。
「それに何にも触れられない。つまり君たち以外にはいつもの光景に見えているんだ」
「俺もその一人」
時止主任が手を挙げて言う。
彼にもやはり見えていないのだ。
「で、俺らにどうしろと……?」
自らの役割を問う竜司。
しかし返って来た言葉は冷たいものだった。
「触れられない以上は何も出来ない、今まで通り待機だ」
時止主任のその言葉に呆れる一同。
瀬川は思っていた事を口に出した。
「前の戦いで何も出来なかったからですか……?」
以前のザガンとの闘いでは結局ゼノメサイア頼みになってしまい自分たちは敵の力に圧倒されてしまった。
それが原因で謹慎に近い形を取られているのだと思ってしまう瀬川。
そこで新生長官が返事をした。
「そんな事はない、現に抗矢にだけ特別な任務を頼もうと思ってたからね」
瀬川に寄り添い肩を叩いてくる新生長官。
「何ですかそれ……?」
「今から伝えよう、君にしか出来ない事だよ」
その任務とは一体どのような内容なのだろうか。
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一方で件の大元である愛里は自室に籠っていた。
ドア越しに聞こえる両親の会話は絶望感を煽る以外の何者でもなかった。
「本当に愛里が火を点けたのか⁈」
「分からないわよ、あの時期のあの子よく分からなかったから……!」
両親は今後の対応や愛里とどう向き合っていくかを悩んでいた。
「この場合どうすればいい……?」
「あの子とどう向き合えばいいの……?」
そのように焦る両親。
兄もあのまま精神が不安定のため何とか解決させねばならない。
「パパ、ママ……」
すると愛里が扉を開けて出てきた。
その表情は死んでいるようである。
「私、警察いくね?罪を償わなきゃ」
そう言って何の荷物も持たずに家を出ていく愛里。
両親が止めようとしている気がしたがその様子に注意が払えるほど心に余裕はなかった。
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そのまま愛里は一番近い警察署まで歩いて向かった。
道中、飛び降りがあったらしく周囲には人だかりが。
警察もいたので署まで行く手間が省け愛里は自らの罪を告白する。
「あの、いいですか……?」
「どうした君……?」
明らかに顔色の悪い愛里を心配する警察官。
無理もないだろう、今まさに飛び降りの件を担当しているのだから。
「私、子供の頃に自分の家に火を点けました。そのせいで家族がバラバラに……」
しかし警察にとって今はそんな話をしている場合ではない。
もっと事件に関する話を聞けると思っていたのだ。
「子供の頃?そんな前の火事でしかも子供ってんなら今は相手してる場合じゃないかな……?」
出来るだけ優しく伝えたつもりだか愛里はかなり傷ついてしまったようで。
「そうですか……」
トボトボと一人で歩いて去って行った。
心配そうに見つめる警察官だったがすぐに目の前の事件に戻るのだった。
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愛里はひたすらに歩く、罰を求めて。
「あ……」
無意識に赤信号の中で横断歩道に出ておりクラクションが響く。
慌てて歩道に移りある事を考えた。
「(今轢かれてれば相応しい罰になったかな……?)」
そう考えてしまい自然とまた道路に吸い込まれていってしまいそうになる。
一歩踏み出そうとしたその時、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「与方さんっ!!」
その声に反応し我に返る。
何とか飛び出さずに済んだ。
「快くん……?」
背後から息を切らした快が走ってきて心配そうな目で愛里を見た。
「よかった、探したんだよ……!」
よく見ると快の手は震えていた。
疑問に思った愛里は問う。
「何でそんなになってまで……」
すると快は当たり前のように答える。
「だって俺ヒーローにならなきゃだから。みう姉にも約束したし、与方さんだって認めてくれたでしょ?」
そのまま姿勢を正し愛里に伝える。
「そんな人たちを失いたくないから……!」
快は何も変わっていなかった。
いつも通り接してくれる快の態度に思わず涙が零れてしまう愛里。
「うぅぅ……っ」
そのまま快の胸に顔を埋めて泣き続けた。
「えっ、あ……」
突然の愛里の行動に戸惑ってしまう快。
このまま抱きしめるかどうかを考えるがまだその勇気はなかった。
「ねぇ、話聞かせてくれる?」
「うん……」
そのまま二人は移動し語り合うのであった。
つづく