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第20界 ミテミヌフリ

#1

 Connect ONEと書かれた車両に無理やり乗せられた快。

 走り出すと同時に手錠をはめられた。

 彼らはゼノメサイアと言っていたためやはり快を警戒しているのだろうか。


「っ……」


 確かに恐れているような視線を感じる。

 快を攫う時も彼らに余裕は感じなかった。

 お互い恐れている状況で車両の助手席に座っていた男が振り向き話しかけて来る。


「ごめんな、手荒なマネして」


 その男とはなんと親友である瀬川だった。

 確かに彼はConnect ONEの一員であるためここにいてもおかしくはないが。


「え、瀬川……?」


 しかし今は親友が自分に対してこのような扱いをして来たという事がショックだった。

 厳密には直接拉致した者ではないがそこに加担していたのは事実である。


「何で……」


 思わず顔を落してしまう快。

 この場合真っ先に浮かぶ可能性は快の正体を知った瀬川が組織にバラしたという事。


「信じてくれ、俺はチクってない」


 それに関して瀬川はハッキリと否定する。

 しかし快を見る他の職員たちの不安そうな視線、それが伝染するように瀬川も冷や汗をかいているのが分かった。


「そう言われても……」


 完全に信じきる事は出来なかった。

 他に組織に正体を知られる原因が思い付かなかったからである。


「あー……」


 快の怯えながら落ち込む様子を見た瀬川は胸が痛くなる。

 今の彼には何も信じられない。

 それはかつて自分がこの組織に連れて来られた時と近い雰囲気だったのだ。


「何も信じられないよな、でも言わせてくれよ」


「……?」


「俺たちは味方だ」


 こんな事を言ってもまだ快は信じられないだろう。

 しかし今はこう言う事しか快に寄り添う方法が思い付かなかったのだ。

 車両は走る、曇り空の下を晴れぬ心のまま。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

 第20界 ミテミヌフリ






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 とうとう快を乗せた車両は都内にあるダムに扮したConnect ONE本部へと到着した。

 いつかTVで見た事があるその景色に快は本当に来てしまったと実感した。


「ゼノメサイア、到着しました。これより本部へ入ります」


 運転手が無線機を使い快の到着を伝える。

 すると前方にある巨大な鉄製の扉が大きな音を立てて開き、まるで彼らを飲み込むかのように内部へと誘った。

 車両はそのまま立体駐車場のようなエレベーターに乗せられ移動していく。

 車両の窓は前方にしか無いためその景色を見るために快は運転席の方を見る。


「勝手に動くな……」


 身を乗り出した快の服の襟を隣に座っていた職員が引っ張り姿勢を正す。

 一瞬だったがその手は少し震えていた。

 快もこのような扱いをされ恐怖を感じているのでお互いに恐れている事がより一層分かる。


「よし、降りるぞ」


 到着したようで運転手が降りるように催促する。

 心の準備が出来ぬまま無理やり立たされる快の恐怖は増すばかり。

 もしや体や変身のメカニズムを徹底的に調べ上げられ更に自由は完全に奪われてしまうのでは。

 そのようなネガティブな考えが止まらない。

 しかもそれに親友である瀬川が関与していると考えると余計に辛い。


「まさか本当に……」


 俯いたままの快だったがどこかで聞いた事のある声がして思わず顔を上げてしまう。

 すると隣では瀬川が敬礼をしていた。

 そしてその視線の先にはTVを通して見た事のある面々。

 実働部隊TWELVEの隊員たちだ、瀬川と同じ特別な隊服を着ている。


「はい、俺の親友です」


 彼らも他の職員と同様に驚いている顔はしているが恐れているような素振りは見せなかった。

 ただ純粋にゼノメサイアの正体が快のような弱そうな高校生だと知り驚いているのだろう。


「そうか……」


 するとその中心に立っていた男、名倉隊長が快に手を差し伸べた。

 それと同時に快はこの男が戦闘中にスピーカーで声を掛けて来たりTVで呼びかけて来た男である事を理解する。


「よろしくな」


 多少緊張はしているようだが誠意を見せて握手を求める名倉隊長。

 しかし快は瀬川の事や突然拉致された事もあってかあまり信頼できなかった。


「あ……」


 とりあえず握手をしようとしたが快には手錠がはめられていたため応じる事が出来なかった。

 名倉隊長もそれを忘れて手を差し伸べてしまった事を詫びる。


「す、すまないっ」


「いえ……」


 結局手を取り合えない事を暗示しているかのようだった。

 快の方から拒絶してしまっている現状を手錠が表していた。


「改めてだがこれから君の身柄は我々が引き受ける、着いて来てくれ」


 そう言った名倉隊長を先頭に快はTWELVE隊員たちに案内され本部の奥へと進んで行くのだった。

 その際、他の隊員たちに軽く挨拶をされた気がしたが重い空気のせいで快はそれに気が付かなかった。


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 TWELVE隊員たちに案内されConnect ONE本部を歩く快。

 どこに向かっているのか分からないが道中にすれ違う職員たちはやはり自分を見るなり快い反応はしなかった。

 誰もが快の存在を忌まわしく感じているのだと伝わって来る。


「おい、聞こえてるー?」


「え……?」


 ボーッとしていると声を掛けられていた事に気付き顔を上げる。

 するとTWELVEの隊員である竜司が快の顔を覗き込んでいた。


「あんま気にすんなよ、俺らも最初はこうだった」


 周囲の職員たちとは違い軽い雰囲気の竜司。

 その隣では小柄な女性である蘭子が歩いているが彼女は他とは違う根本的に不機嫌そうな表情をしていた。


「なぁ蘭子ちゃん?」


 その不機嫌な様子の蘭子に竜司はフランクに話しかけた。

 しかし当の蘭子は竜司の求めている答えは言わなかった。


「ふん、今回ばかりはアイツらの気持ちも分かるかもね。期待する立場になって初めて分かったよ」


 他の職員たちをアイツらと言い同情できると言うのだ。

 つまりは快を快く思っていないという事。

 今まで勝手に期待されては勝手に失望されて来たため竜司は蘭子にも快の気持ちを理解できると思ったがそれ以上に期待してしまう側の気持ちになってしまったようだ。


「あー、ごめんな……」


 予想外の蘭子の回答に謝る竜司。

 なるべく快を傷付けないように蘭子たちの思いを代弁した。


「悪気がある訳じゃないと思うんだ、ただでさえ今って組織のイメージ悪いからさ……みんなそれを覆せるような奴を期待してたってゆーか……」


 その言葉は自然と快を更に追い詰める。


「俺じゃ……」


 快のリアクションを見て竜司は自らの失言に気付いた。

 慌てて弁解しようとするがもう遅い。


「ごめん、君がダメって意味じゃ……」


 そのまま快との会話は途切れてしまう。

 何とか慰めようとしたがこれ以上の言葉が見つからず竜司は頭を掻きむしった。


「あークッソ……」


 竜司の努力も虚しく空気は更に悪くなっている。

 その様子に前方を歩く陽と名倉隊長は何も出来ずにいた。


「どうするんです隊長、このままじゃ……」


「後は彼に委ねるしかない、新生さんなら……」


 そして一同は遂に目的地へ辿り着いた。

 そこは厳重に守られている大きな扉である。

 IDカードをスキャンし扉を開ける名倉隊長。


「っ……?」


 開いた扉の内部を見た快は驚いて目を見開く。

 そこは先程までのSFチックな内装とは違い突然宗教的な教会のような内装だったから。


「ご苦労様、よく連れて来てくれたね」


 その中で蝋燭が灯る。

 そして一人の男がこちらに向かって歩いて来た。


「よろしくゼノメサイア、我らの救い主よ」


 その男、新生継一は快に優しく微笑みながら腕を背中で組んだのだった。

 決して手を差し伸べる事はなく。






 つづく

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