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#2

 固く重い扉が開くと教会のような景色が広がっており、そこにはConnect ONE長官である新生継一が待っていた。

 彼は他の職員たちとは違い快を歓迎するかのような態度で挨拶をする。


「Connect ONE長官の新生継一だ、よろしくねゼノメサイア」


 そう言って近づいてくる彼に快はまた空気を読まずに握手を求めて来るのだろうと思った。

 両手には手錠がはめられており動かせないというのに。


「警戒するのは無理もない、ここ数日で君の心は激動したのだから」


 新生長官はそう言うとポケットから十字架の形をした鍵を取り出し快の動きを制限している手錠を躊躇いなく外した。

 明らかに他の者たちと違う行動に快は驚いてしまう。


「っ……⁈」


「酷く怯えているね。でも我々は幾度となく君と共に戦って来た、少しは信頼してくれると嬉しいな」


 震える快の両手を優しく包み込みその温もりを伝える。

 その手は非常に温かく快の震えも徐々に収まっていった。


「じゃあここに座って。君が連れてこられた理由を伝えよう」


 そして新生長官は快を会議用の机を囲む席に座らせ他のTWELVE隊員は背後で立とうとした。

 いつもの参謀たちの会議と同じ姿勢である。


「ホラ、みんなも座って」


 すると新生長官が彼らにも座るように勧める。


「え、いいんすか?」


 竜司を筆頭に驚く隊員たち。

 自らの身分をこれまでの扱いで感じていた彼らにとって参謀たちと同じ椅子に座るのは恐ろしい事であったから。


「他の人には内緒ね?」


 新生長官の優しさに素直に甘える事にした一同は各々の個性を出しながら椅子へ座ったのだった。


 ___________________________________________


 個性の出る座り方で席についたTWELVE隊員たち。

 名倉隊長は腕を組みながら机に寄りかかっており、隣で陽が緊張しながら背筋を伸ばしている。

 竜司は足を組みながらジッとしていられず、蘭子は足を机に乗せてリラックスしていた。


「まぁ座り方はいいとして……」


 そう言う新生長官は話を進める。

 一度快の方を見て説明を始めた。

 そんな快の隣には瀬川が自ら進んで座っていた。


「創 快くん、手荒な真似をしてすまなかった。僕は抗矢に説得して連れてきてもらおうと思ったんだけど」


 何故わざわざこのような事をしたのか伝える。


「どうにも君を警戒してる者が多くてね、ガチガチに備えて連れてくる事が条件になっちゃったんだ」


 そこで快は抱いた疑問を問う。


「でも目撃者がいます、その人が警察に伝えたりしたら……」


 愛里は快が拉致される瞬間を見ていた。

 その事を聞いてみる。


「それに関しては大丈夫だ、警察にその件は極秘で見逃すように伝えてある」


「そうですか……」


「ゼノメサイアの存在は世界を揺るがす程の大事だ、これくらいはさせてもらわないと」


 分かってくれと言うように新生長官は快を説得する。

 しかし快は身を案じ絶望するばかりでこれ以上受け入れる事は出来なかった。


「あの、俺をどうする気ですか……?家には帰れますか……?」


 心配しながら勇気を出して問う。

 手は再び震えだした。


「心配しなくていい、君には今まで通り我々と協力して戦ってもらいたい。求めるのはそれだけだよ」


「え……?」


 予想外の言葉に一瞬固まる快。

 次の言葉を待っていた。


「正体を知っていれば連携もより上手くいくと思ってね、我々の事も知って欲しいし君の事も知りたいんだ」


 そして新生長官はホログラムで資料を出す。

 その技術力を初めて目の当たりにした快は驚いた。


「我々の知り得る極秘情報だ、これを共有しよう」


 そして次の資料を見せる。

 そこには謎のゲームセンターにあるような機械が映されていた。


「そして時間がある時で良いから我々と共に訓練をして欲しい。これは訓練用の仮想世界を映し出すデバイスだ」


 そのような説明を終えると新生長官は立ち上がり快に近づいた。


「君を縛り付けはしない、あくまで同じ仲間としてこれからも共に戦って欲しい」


 そう言って頭を下げる。

 新生長官のその態度にTWELVEの一同は驚いた。


「新生さんっ、そこまでしなくても……!」


 声を上げたのは蘭子。

 しかし快の反応は辛そうだった。


「……考えておきます」


 あくまですぐに了承はせずに考える時間が欲しいと言ったのだ。


 ___________________________________________


 快とTWELVEの隊員が教会のような会議室を出て行った後、タイミングを見計らっていたかのように参謀たちが三人現れた。

 三者三様の反応を見せている参謀たち、最初に口を開いたのは自衛隊からの協力者である田崎参謀だった。


「何をお考えです?危険な存在をせっかく捕らえたというのにまた野放しにして」


 新生長官が先ほど言っていた信頼していない者とは彼を始めとした自衛官たちの事だろう。


「言ったでしょう、ゼノメサイアは捕らえ次第兵器として管理すると」


 そのような田崎参謀の発言に対し創世教の司祭である瀬川参謀が反論する。


「いいや、新生長官は正しいぞ。神の御子を我々のような未熟な人間が管理しようなどあってはならない」


 彼はやはりゼノメサイアを神の御子として崇めているようだ。


「まさか彼が器だとはな、抗矢も良い友人を持ったものだ」


 息子の友人がゼノメサイアに選ばれた事を喜ぶような表情を浮かべる瀬川参謀。


「これで私も報われる……」


 そして小声で独り言を呟いた。


「相変わらず訳の分からない話を……」


 一方で田崎参謀は瀬川参謀と新生長官の話に着いて行けず頭を悩ませていた。


「我々がこのような実態だから組織も纏まらないのだと思いますがねぇ……」


 そう言った田崎は新生長官に詰め寄った。


「この際ハッキリ言わせて頂きますよ。あなた方のやり方に職員たちはうんざりしています、彼らも納得のいく形で話を進めて頂かなければ罪獣より世界を守れません!」


 自らが率いる自衛官たちにより集められた職員たちは現状に納得できていない。

 このままでは士気に関わる事を伝える。


「何を言う!罪獣から守るだけではない、人類を新世界に導く事が我々の使命だと初めに話したではないか!」


 すると瀬川参謀が反発する。


「その話が胡散臭いのですよ。我々は罪獣と戦うという話があったから協力しました、その新世界とやらに興味はありません」


「ここまで来てまだ信じられぬか……っ!」


 睨み合い険悪な雰囲気を出す二人の参謀。

 それを仲介するかのように時止主任が割り込んだ。


「まぁまぁお二人とも!ゼノメサイアの正体が害のなさそうな青年ってだけで良かったじゃないですか!」


 組織内の士気が低い現状で参謀同士が言い争っていては不味い。

 そのため時止は何とか場を和ませようとする。


「それに参謀までこんな様子じゃそれこそ士気に関わりますよ」


「……それもそうですね」


 何とか田崎参謀を納得させた時止主任。


「ではそちらが譲らないようなので私は今後の器の対応を見させて頂きます」


 ゼノメサイアが共に戦う仲間に相応しいかを見定めるようだ。

 そう言い残し彼はかい会議室を去って行く。


「はぁ……まったく二人とも頑固だ」


 溜息を吐いた時止主任は残った二人に向かって言う。

 確かに彼らはあまりにも頑固すぎるだろう。


「……それが世界の真実だからね」


 独り言のように呟く新生長官。

 瀬川参謀も同じ事を考えているような表情を浮かべていた。






 つづく

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