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#3

 新生長官からの話を終えた後、TWELVEの面々は快を連れて休憩室にやって来た。

 しかし当の快はトイレに行くと言ったきりなかなか戻って来ず、その隙を見た蘭子が快の印象について疑問を語り出した。


「何なのアイツ、新しいやつ入ってくる度こんな気持ちにならなきゃいけない訳?」


 瀬川がここへ入った時を思い出しながら語る。

 その瀬川を指差してあの時の気持ちを交えた。


「あんたが来た時も組織の信頼が危うかった。そんな時だから余計に気分沈んだしっ、今回も同じ!」


 しかし今回は決定的に違う点がある。


「でも今回はゼノメサイアだよ……?何となく分かってたけどさ、得体の知れない存在があんなだったら皆んなが沈む気持ちも分かるよ……」


 周囲の職員たちは無言だが共感しているのが分かる。

 しかし竜司が蘭子に一瞬だけ物申した。

 それでも蘭子はすぐに反論する。


「俺たちはそれ分かってたろ?ゼノメサイアは同じような存在だって、だから歩み寄れたって……!」


「だから分かってたって言ったじゃん、あくまでそれはあたし達の話!他の奴らのガッカリが伝わって来んのよ……」


 蘭子は周囲の空気が息苦しいようだ。


「ここだけじゃない、ただでさえ世間の目もあるしな……」


 そう言って納得してしまう竜司。

 これ以上何も反論は出来なかった。


「だんだん破滅に向かってる気がすんのよ……」


 抑圧されていずれ組織として世間や罪獣に負けてしまう未来しか想像できなかった。

 何も反論できない他の隊員たちは自らの不甲斐なさを痛感していた。


 ___________________________________________


 一方で快は一時の自由時間とも言えるようなタイミングを得たので誰にも気付かれないようにトイレに駆け込んだ。


「(誰もいないな……)」


 個室までしっかり確認し他に人がいない事を確かめてからスマホを手に取る。

 そしてメッセージSNSアプリから愛里の画面を開き急いで通話ボタンをタップする。


「出てくれ……」


 しばらく聞き慣れた着信音が耳元で鳴り続ける。

 応答してくれる事を願いながら待っていると遂にその時が訪れた。


『もしもし⁈大丈夫⁈』


 激しく心配するような声の愛里が応答してくれた。

 その声を聞けた事に快の心は少し安堵する。


「うん、ごめん心配かけた……」


 愛里も同じように快の声が聞けた事が安心のようでホッと胸を撫で下ろすような声が聞こえた。


『ねぇ今どこにいるの?酷い事されてない?』


 拉致される場面を間近で見てしまった愛里。

 当然黙っていた訳ではない。


『警察に相談しても何も教えてくれないし……』


 そこで快は新生長官が警察にも根回ししていると話していた事を思い出す。

 そのため愛里に自分の口から状況を伝える事にしたのだ。


「今はConnect ONE本部にいるんだ」


 その一言を告げてから愛里は少し黙る。

 車両の事から察してはいたがこうして現実を突きつけられると苦しいものがあるのだ。


「……大丈夫?」


『うん、ちょっと深呼吸してただけ……』


 そして愛里は本部での事を聞き出そうとする。

 ここから声が震え出した。


『何でそんな所に……?』


「連携を上手く取るためだってさ……」


『……ゼノメサイアだから?』


「……うん」


 グレシアラボラスの件でゼノメサイアとして愛里に触れた時、意識が彼女に伝わった。

 そのため遂に愛里にも正体が知られてしまったのだ。


「思ったより大丈夫そうだよっ、家には帰してもらえそうだし正体知ってた方が良いよねってだけだから……っ!」


 必死に安心させようと言葉を連ねる。


「ただヒーローとして思ってくれなかったのが残念ってだけで……」


 しかし愛里にそんな事は関係なかった。


『ううん違うの、これからも戦い続けるって事だよね……?』


「うん、だってヒーローだって示さなきゃ……」


 しかし愛里の反応は思っていたものと違う。

 本部で酷い事をされていないのなら少しは安心できるものだと思っていた。


『これまでもずっと罪獣と戦ってたのは快くんって事だよね……』


「うん、そうだよ……少しはヒーローらしくなれたと思ったけど……」


 すると愛里はまたしばらく黙り無言の時間が訪れる。

 そして快が口を開こうとしたタイミングで愛里も口を開いた。


『あのねっ!私やっぱり……っ』


 何か言いかける愛里。

 しかしこれ以上この話題の言葉が続く事はなかった。


「……?」


『ごめんなさい、何でもないの……』


 そして愛里は無理やり話を終わらせるような形で電話を切る。


『でも無事なら良かった、大変かも知れないけど頑張って』


「う、うん……」


 通話を終える音が聞こえて快は耳元からスマホを離す。

 愛里が何を考えているのか分からなかった。

 ・

 ・

 ・

 そして愛里は通話を終えた後、一人自室でうずくまっていた。


「……英美ちゃんっ」


 脳裏には英美が死ぬ直前の姿。

 自分が手を離したから彼女は死んだ。

 そしてルシフェルによる大虐殺も浮かぶ。

 罪獣によるトラウマが蘇りつつあったのだ。


「快くんも死んじゃう……っ」


 愛里は以前の出来事で快と英美を重ねた。

 快に救われた事により彼を英美のように思えたのだ。

 だからこそ快も英美のように死んでしまう未来が予測できたのだ。


「戦って欲しくないよ……」


 快に無理にヒーローをして欲しくないと思う愛里。

 しかし快の夢のために否定をしてはいけないというもどかしさを感じているのだった。


 ___________________________________________


 そして数日後。

 快を交えたTWELVEたちの訓練が始まった。

 バーチャル空間の中で快はゼノメサイアに変身する。


「これがバーチャル空間……」


 自らの手足を眺めて軽く動いてみる。

 すると前方にバーチャルのゴッド・オービスが現れた。


「よし快、今日は互いの力量を理解するための組手だ!」


 無線機を使い瀬川が快に声を掛ける。

 自分にも支給された無線機に戸惑いながらも声を聞く快の表情は明るいものではなかった。


「はぁ……」


 何か嫌な気分となり精神的に疲れ切ったような表情をしている。

 愛里との通話での歯痒さからまだ違和感を覚えており、更には根底にある組織への不満がそうさせるのだ。


「こうなった以上俺は全力でお前のサポートをする、今まで通りやってくれれば良い……!」


 快の本心、瀬川を疑っているという事は察しながらも今は全力でぶつかる事しか出来ない。

 そのためゴッド・オービスは構えの姿勢を取った。


「うぅっ……」


 快も仕方なく構えを取るがいつもよりかなり弱気だった。

 まるで組織に入ったばかりの頃の瀬川のよう。


「何だアイツ、本当にあのゼノメサイアなのか……?」


「いよいよ本当に終わっちまう……」


 観戦している職員たちはそのような言葉を呟いている。

 快の不安は伝染し元から募っていた職員たちの不安を更に高まらせるのであった。


「やるしかない……っ!」


 そして職員たちの高まる不安は更に快にも伝染し最悪の循環を形成していた。

 それでも快は無理やり自分を鼓舞し戦闘体勢に入るのだった。


「来いっ!」


 バーチャル空間での組手とはいえ親友同士の激突が幕を開けた。


「おぉらっ!」


 竜司の操縦する腕が拳を握って思い切り飛んで来る。

 ギリギリで反応できる快だったが今までの罪獣を相手にしているのとは違う人型の相手と戦う感覚に戸惑ってしまう。


「うわっ……」


 慌てて避けたが拳は背後の仮想ビルに命中し破片が飛び散る。

 その中に含まれるガラス片に映る自分の顔。

 仮想のゼノメサイアといういつもと違う姿ではあったが酷く怯えているように見えた。


「ぐっ……!」


 そのまま尻餅をついてしまい追撃が来るのを恐れる。

 上を見上げると予想通りに仮想ゴッド・オービスは次の攻撃の体勢に入っていた。


「フンッ!」


 今度は名倉隊長の操縦する脚部による蹴り上げだ。

 何とか両手で押さえ腹部への直撃は避けるが後方へ大きく吹き飛ばされてしまう。

 そのままビルへ叩き付けられた。


「はぁっ、はぁ……」


 バーチャルだというのに背中に破片が刺さるような痛みを感じる。

 何とかビルから降り膝をついた状態になった快は視線を仮想ゴッド・オービスに向けたまま固まってしまった。


「やばい、やばい……」


 パニック発作が訪れてしまったのだ。

 心臓の鼓動が速くなり寒気を感じ体が宙に浮いたような感覚に襲われる。


「どうした、来いっ!」


 アモンと化した陽が操縦する体と翼からビーム弾が放たれる。

 仮想ゼノメサイアはすかさず反応し地を這い回るように逃げた。


「うわぁぁぁっ……!!」


 その姿はまるでハイハイを覚えたての赤子のようでありこれまでのゼノメサイアからは考えられなかった。


「どうした、何でコイツさっきから……!」


 一気に突っ込む仮想ゴッド・オービス。

 そのまま竜司と蘭子の合わせ技が放たれた。


「行くぜ連拳ダダダ!」


 連続して拳を叩き込む。

 仮想ゼノメサイアは最初こそ無理やり腕を前に出し防いでいたが段々とそれも間に合わなくなり何発も拳を叩き込まれてしまった。


「「ダ ダ ダ ダ ダ ダ」」


「ごっ、ぶはっ……」


 思い切り吹き飛ばされる仮想ゼノメサイア。


「何でコイツ何にも……!」


 全く反撃もせずにひたすら弱々しく逃げ回るばかりの仮想ゼノメサイアに疑問を抱く。

 その中で瀬川だけが異常に気付いたのだ。


「あ、まさかアイツ……!」


 しかし他の隊員たちは気づかず攻撃を止めない。

 ウィング・クロウの砲台からレーザーを放つ準備が整った。


「いつまでも逃げてんじゃねぇぇー!!」


 そして放たれるレーザー砲。

 それとほぼ同時に瀬川の声が無線に響いた。


「中止!中止だっ!!」


 逃げ回る快の耳にはその"中止"という言葉だけが届いた。

 そのため一瞬動きを止めてしまう。


「え、中止……?」


 少し安心したのも束の間。


「ぶっ」


 思い切り顔面に既に放たれていたレーザー砲を受けてしまったのだ。

 大ダメージを食らい回転しながら吹っ飛ばされてしまう。


「あぁっ」


 大きな口を開けてしまう瀬川。

 しかしもう遅い。

 心身ともにやられた快がこれ以上自力で立ち上がる事はなかった。


 観戦者たちからも溜息が漏れる。

 こうして最悪な形でバーチャル訓練は終了したのである。






 つづく

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