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第21界 ハナサレタテ

#1

 グレイスフィアと快の解析を終えた時止主任。

 もう一度快を自分の前に座らせライフ・シュトロームについて解説した。

 快も何となくだが理解は出来たようで。


「物質化した生命がライフ・シュトロームでゴッド・オービスはそれを力の源として動いてる……」


「そう、そしてそれと接続して動かせるのは生命の増幅に耐えられるインディゴ濃度の高い者だけ。普通の人は接続した事で急激に増える生命力に耐えられないんだ」


「そのインディゴ濃度ってのが……」


 少し顔を曇らせる快。

 自分からこの真実を口にするのは勇気が必要だった。


「……そう、発達障害を意味する」


 改めてその真相を聞いた快は頭を抱える。

 それが明かされた事により余計に様々な疑問が一気に降り注いで来たからである。


「って事は色々と……うーん」


 快の脳内には止めどなく疑問が溢れていた。

 インディゴ濃度が高いとされるTWELVEの隊員たちは発達障害者という解釈も出来る。

 それにそもそもの発達障害の起源や原因なども考えられてしまう。


「悩むのも無理はないよ、でも俺はこの真実を伝える事で君の手助けをしたかったんだ」


 快に寄り添い肩に手を置く時止主任。


「TWELVEの隊員たちは軍やレーサーなど身体能力や操縦技術に長けた発達障害と診断されている者から厳選した存在なんだ、だから君と同じ悩みを抱えている」


 その言葉にも更に疑問は浮かぶが今の快にそこまで考える余裕はなかった。


「彼らもここに来た時は今の君と似たような状況にあった、だから理解者になれる存在だと俺は思うんだよ」


 この真相が明かされた事により快は彼らに歩み寄れると考えた時止主任。

 しかし快は頭を抱えたままである。


「それは分かりましたけど、今が辛いです……」


 思い出されるのは蘭子の言葉や竜司、名倉隊長や陽の態度。

 まだ快を心から受け入れられていないように感じているのである。


「ゼノメサイアとして戦ってる時はみんなと上手くやれてると思った、でも正体が俺と知った途端こうだ……」


 そして一番強く感じている想いを口に出した。


「俺がゼノメサイアに選ばれた理由って何なんですか……⁈俺自身が愛されてない……っ!」


 そう言って快は立ち上がり去って行こうとする。

 時止主任は止めようと手を伸ばしたが。


「待って…………」


 すぐにその手を仕舞った。

 自分の解釈を説明したところで快の落ち込みを抑えられないと思ったからである。


「失礼します……」


 そのまま快は時止主任の研究室を後にし愛里の所へ帰ろうと試みるのであった。


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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』

 第21界 ハナサレタテ






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 快の去った研究室で時止主任は自分の無力さに溜息を吐きながら椅子に座った。

 周囲の研究者たちも憐れみの視線を向けている。


「どうしたもんかねぇ……」


 すると扉が開きある人物が入って来る。

 神父のような衣装に身を包んだ新生長官だった。


「どうやら思い通りにはならなかったようだね」


「継一……」


 新生長官はこうなる事を察知していたかのような立ち振る舞いで余裕を見せながら向かって来ていた。


「でも良かったのかい?ゼノメサイアの原理は伝えなくて?」


 先程まで快の座っていた椅子に座り問う。


「不確定事項が多すぎるんだ、ゴッド・オービスとあまりに違いすぎる。こんなデータ初めて見たよ……」


 そのデータを見せる時止主任。

 新生長官は少し前のめりになってそれを見た。

 時止主任は解説をしていく。


「見てよ、インディゴ濃度がまるで関係ない。普通はその濃さで増幅された生命を受け止めるんだけど……」


「快くん自身からゼノメサイアの力は放たれているようだね」


「そうなんだ。だから一体化じゃない、巨大化なんだよ。別の生命と繋がらず自身のライフ・シュトロームを巨大化させているんだ」


 その話を聞いた新生長官は少し黙る。

 そして小さな声で今の時止主任の言葉を否定する事を呟いた。



「……彼は誰よりも人と繋がっているよ」



 しかしその声は時止主任には届いていない。

 むしろ届かせるつもりはないのだ。

 彼には彼の思惑があるのだから、今はその時ではない。


「生命の樹だけじゃない、別の何かが由来の力が働いている……」


「別の何かね……」


 何も知らない時止主任と何かを知っている新生長官の表情の違いがこの先の未来を物語っていた。


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 快はConnect ONE本部から帰ろうとしていた。

 そこで瀬川が呼び止める。


「よ、帰るのか?」


 バイクのキーを手に持ちながら快を送る準備を済ませている事を伝える。


「うん、今言おうと思ってた」


 気まずそうにしている快は瀬川に送ってもらわないと帰れないので声を掛ける必然性はあった。

 しかし中々言えずに向こうから声を掛けてくれるまで待っていたのだ。


「じゃあ後ろ乗れよ」


 そしてようやく快は嫌な視線ばかり感じる組織の本部から解放された。

 頭の中はヒーローとして愛されない事や愛里に慰めてもらいたい事ばかりだった。

 ・

 ・

 ・

 瀬川の運転するバイクの後ろに乗る快は風を感じながら愛される事ばかり考えている。

 それを感じた瀬川が沈黙を破り話しかけたのだった。


「なぁ、俺に怒ってるか?」


 突然話しかけられた快は一瞬戸惑いながらも顔を上げて話を聞き答えた。


「いや、そもそも怒ってないよ。前は戸惑っただけだ……」


 無理やり連れて来られた時に瀬川がいた事から初めは疑ってしまったが今は違う。

 ただ組織と関わるようになってから自分をヒーローと思えない、愛されないという気持ちの方が強くなって来ている。


「じゃあアレか、みんなの視線がキツいか?」


「そうだね、愛里とも上手く行き始めて瀬川にも認められてようやくヒーローに近付けたと思ったらこれだから……」


 バーチャル訓練の事を思い出してその時の気持ちを伝える。


「明らかにガッカリしてるのが伝わって来るんだ、今まではヒーローとして見れてたかもだけど俺だって分かった途端心配になる感じ……」


 一番の想いはそこである。


「みう姉に言われたように自分に出来る事、ゼノメサイアとして歩み寄って愛を与えたつもりでも向こうは俺なんかの愛は欲しくない……」


 どんどん自分に自信がなくなっていく。


「やっぱり俺は愛されてないんだ……」


 また以前の卑屈な快に戻りつつある。

 その様子に気付いた瀬川は危機感を覚えていた。

 なので何とか元気づけようと試みる。


「じゃあさ、ゼノメサイア=お前って認識させた上で活躍すれば良いんじゃね?」


「え……?」


「正体がお前だってバレてガッカリされんなら分かった上でやれるって思わせれば巻き返せるだろ」


 確かにそこは盲点だった。

 ネガティブになりすぎていたため先に進むための考えがあまり浮かばなかったのだ。


「……出来るかな?訓練でもダメだったし」


「そこは心の持ちようだろ、今までだって出来てたんだしモチベ上げてこうぜ」


 瀬川のその言葉で少し救われた気がした。

 快の今やるべき事が見えて来た。


「うん、じゃあ今は帰って愛里と話すよ。そうすればまたモチベも上がるかもだし」


「くぅ〜、リア充は違うね〜!」


 ようやく今まで通りの親友同士のやり取りを行えた二人。

 少し快の瞳には光が宿って行った。

 しかしそれだけで上手くとは限らない、快はそれを誰よりも分かっていたはずだと言うのに。






 つづく

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