翌日、また仮設校舎にやって来た快は愛里と会話をしていた。
「ここもヤバいかもって純希が……」
「じゃあお兄ちゃん達、どこに行けば良いの……?」
昨日純希に言われた事を伝えると愛里は歯を食いしばりながら言った。
「これさっちゃんも招いた一人なんだよね……」
それを聞いた快は愛里の心が荒んでいる事を察した。
「それは……っ」
自分にも非はある、そう言おうとするとある光景が目に入った。
外に委員長が咲希の机を運んでいるのを見かけたのだ。
「あ……委員長、もしかしてこれ……」
「あぁ、河島の机。あったままだと調子狂うからって……」
機嫌の悪そうな表情で避難所となっている体育館へ机を運んでいく。
快と愛里も体育館が近かったためそちらに向かう委員長を見送る。
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中へ入ると良が嬉しそうに委員長を見た。
というより持って来た机を喜んだのだ。
「わー机だ!いっぱい絵ぇ描ける!」
そう言って喜びながら委員長の周囲を飛び回っていると委員長は警戒して声を発した。
「あっ、この机は……!」
そう言った途端に静まり返る体育館。
委員長も流石に我に返る。
「ごめん、ついデカい声……」
すると良は非常に落ち込んでいる。
委員長もまだ慣れない相手だが自分が人を悲しませてしまったという事実に少し後悔した。
「これ、ここ置いとくから好きに使って……」
そして体育館の外へ行ってしまった。
快と愛里も外へ出て委員長と話す事になる。
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外へ出ると委員長は石垣に座っていた。
快は後ろに立って声を掛ける。
「委員長」
「あぁ、創」
そして自分の心境を語り出した。
「俺さ、学校大好きだったんだ。学校生活を楽しみたくて、だから世界を壊したって言われてる障害者の人達がいるのが不安でさ」
「うん……」
「変化ってのが怖かったんだ、クラスの雰囲気を大事にしすぎてお前の気持ちも考えられなかったりした。ごめん……」
これまでの学校行事での事などを委員長は快に謝った。
「与方さんも競技会や修学旅行の時ごめんな」
快の隣にいた愛里にも謝る。
その理由はただ酷いことを言っただけではない。
「お前に酷いこと言った気がする、勇山が空回りしてるとか……お前が勇山のこと尊敬してるの知っておきながら……」
すると愛里は反応を見せた。
「良いんだよっ、私もう気にしてない」
そう言うと委員長は英美について語り出す。
「正直アイツが空回りしてるとはずっと思ってたんだ、一年のとき同じクラスだったけどウザいって思ってたし……あの時はお前にもそれを感じたってのもある」
そして現状と照らし合わせて付け足した。
「でもやっぱり凄かったんだな、今アイツがいたらきっとみんなのこと引っ張ってると思う。今お前らが言ってる"歩み寄る"って事ずっとやってたんだと思うから」
「そうだね……」
「まだ障害者を信じられない皆んなも、俺も……多分上手く導いてくれたんだろうな」
委員長は英美が生きていればと思えるような言葉を放つ。
英美の代わりに生かされた快は考えた、自分はどうすべきかを。
「……ん?」
そんな時、学校の裏から。
体育館の周囲から大きな声が聞こえる。
「何だ……?」
快と愛里、そして委員長はその声の方向へ向かった。
そこでは恐れていた事態が起こってしまったのだ。
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体育館の前にやって来るとそこには多くの人々が集まっていた。
快たちはすぐに理解する、彼らが障害者たちの排除を望むデモ隊だと。
「こんなに早く……っ⁈」
そのデモ隊の者たちは快たち三人を見て声を荒げた、そして問い詰めたのだ。
「出て来たぞ!ここに障害者がいるって本当か⁈」
そんな質問をされても快たちは答える訳にはいかない。
彼らの危険性を感じ取っているからである。
「ここの生徒が"障害者と接するのダルい"ってSNSに書いてんだよ、見せろ本当にいるのか!」
その話を聞いた快は委員長を見る。
委員長は慌ててスマホを取り出しSNSをチェックする。
そのアカウントには確かにそのような投稿がされておりプロフィール欄には学校名がしっかりと書かれていた。
「クソッ三組の山口だ、避難所にはいなかったから……」
彼は避難所での瀬川たちの言葉を知らない。
ただいきなり差別対象者の支援をさせられる事に不安を感じたのだろう。
「あ、やっぱり居るぞ!」
するとデモ隊の一人が体育館の中を覗き込み障害者たちが居るのを確認した。
その途端に他の者たちも声を荒げる。
「やっぱり支援してんだな!近所に居られると困るんだよ!」
「子供が怖がってるんです、どこか遠くに行って!」
その言葉を受けて快はしっかり説明をした。
「待って下さい、彼らは何もしてないんです!それに事態も収束しました、もう怖がる必要もないんです!」
しかしデモ隊は聞く耳を持たない。
「Connect ONEがゼノメサイアと協力してやがる、またあんな事するつもりだろ⁈」
「貴方たちもそれを支援してるんじゃないの⁈」
そして非難の声はどんどん大きくなり人も集まって来た。
話し合いで済む事態では無くなってしまった。
「あっ……」
そんな中で委員長は体育館の中を見る。
そこにはスケッチブックを抱えて怯える良の姿が。
「(何だろう、この気持ち……)」
その様子を見て胸が痛んでしまう委員長だった。
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その後、体育館のステージに校長が立ち結論を伝える運びとなった。
『えー、大変申し訳ありませんが地域との信頼を優先に避難所の方々は一度自宅にお戻り頂く運びとなりました……』
苦しそうに告げられたその言葉を聞いた一同は落胆の声を上げる。
「そんな、また家で怯えて暮らさなきゃいけないの……?」
そのような声が体育館中から聞こえた。
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そして遂に別れの時が。
良は悲しそうにしながらスケッチブックを抱えている。
「バイバイ……」
そして委員長に歩み寄り最後に挨拶をした。
「机うれしかった、ありがとう」
それだけ言い残し良は両親と共に自宅に戻って行った。
その様子を見ていた委員長は歯を食いしばってしまう。
「委員長……」
そんな彼を見た快は恐れながらもある場所に電話を掛ける。
「あ、もしもし瀬川……?」
快の電話相手は自衛隊駐屯地にいる瀬川。
しかし向こうも少し焦っているようで。
『あ、どうした快……?』
「お願いがあって。学校の障害者たちが出て行かなきゃいけなくなった、そっちで受け入れてあげられる……?」
『おい嘘だろ……』
瀬川は数秒経って状況を理解し頭を抱える。
彼も嫌な予感はしていたようだ。
「本当なんだ、他のクラスの人が情報漏らしたみたいで……」
それを聞いた瀬川は考える。
しかしどうしても出来ない事情があった。
『悪りぃ快、少なくとも今はここに預けるべきじゃないと思うんだ……』
「そっか、そうだったね……」
快の言葉を聞いた瀬川は組織の現状を話す。
『崩壊の件だったりゼノメサイアとまた協力した件で批判殺到してるからよ、それこそたまにデモ隊も来る。ここはかなり危険だ』
「うん、ごめんありがとう……」
『こっちこそ役に立てなくてごめん、どうか気を付けてな』
そして快は電話を切る。
何も打開策はないため仕方なく障害者たちは自宅へ帰る事となった。
「どうしたもんか……」
せっかく成長しヒーローの意味を知った。
しかし事態は悪化するばかり。
それも自分が引き起こした事態だ。
「だからこそ償わなきゃいけないんだ……!」
そう、自分が引き起こしたからこそ自分で償うのだ。
決してヒーローといえる行為ではないかも知れない、罪の償いなど当然の事だから。
しかしそんな事は関係なく人としてやらねばならない事だと快は自覚していたのだ。
つづく