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#3

 愛里と両親は兄を連れて怯えながら自宅に戻った。

 雨が降る中、傘で兄を守りながら帰る。


「あっ、こんにちは……」


 道中で近所の者と会ったため緊張しながらも会釈をする父親だが明らかに避けられてしまう。

 障害者を連れた家族だからなのだろう。


 そして自宅に着いても怯えていた。

 気晴らしのためにテレビを点けてもスマホを見てもニュースで障害者の問題を取り上げているからだ。


「はぁ、家なのに休まらない……」


 そして障害者の自宅や施設が落書きされたり暴力の被害に遭うニュースを見ると余計に自宅が安全な場所では無いと思えてしまう。


「何でこんな目に……っ」


 愛里の母親は息子を抱きしめながら震えていた。


「この子は何もしてない、悪い事した人と同じだっただけで無関係なのに……!」


 愛里はそんな母親の言葉を聞いて胸を痛めた。


「許せない、何もかも……!情報を流した人も差別する人も、こんな事態を引き起こしたヤツも……!」


 明確な怒りと悲しみを露わにする母親を見て愛里はその対象を思い浮かべる。

 快やConnect ONEも事態を引き起こした者であるが彼らも巻き込まれた側だ。

 巻き込んだ存在、この計画に関わっていた人物は大切な友人だと思っていた咲希である。


「(さっちゃん、やっぱり私……!)」


 愛里も拳を固く握り締め爪が掌に食い込んでいた、その痛みも気にならないほど複雑な感情が渦巻いていたのだ。


 ___________________________________________


 翌日、学校では当然のように三組の山口が話題に上がっていた。

 障害者の情報を流し彼らを排除したも同然だからだ。


「先生に凄い怒られたわぁ、マジだりぃ」


 当の本人は友人たちに軽く笑いながら先生に怒られた事を報告している。


「でもお前、結構やばい事したんじゃね?」


 そんな彼の友人が流石に心配をして尋ねるが山口は自らの意見を臆せずに言った。


「何言ってんだ、あのまま障害者の支援続けてたら俺たちまで風当たり強くなんだろ。現にバイトでクビになった奴までいるんだし今後に響くぞ」


 その山口の言葉は確かに筋が通っていた。

 現に純希などバイトをクビになった者もおり世間からの風当たりは障害者だけでなく彼らを支援する者にも強くなっている。


「っ……!」


 しかしその会話は教室の外の廊下を歩いている者にまで聞こえていた。

 委員長や愛里、そして快までその言葉を耳にするがやはり反論が出来ない。


「愛里、大丈夫……?」


 快は隣を歩く愛里の精神状態を気遣うが震えている彼女の手を見て居ても立ってもいられなくなってしまう。

 強く彼女の手を握りしめた。


「大丈夫、大丈夫だよ……」


 そして勇気を持ち心に決める。

 快は山口たちのクラスに入って声を掛けてみる。


「ちょっとごめん、あんまり大きな声でそのこと言わないで欲しい……」


 愛里の事を指して言うと山口は彼女が苦しんでいる事に気付き少しハッとした。


「あぁ悪りぃ。でもあんま怒らないでくれよ、俺もバイトでクビになるわけにはいかないんだ」


 しかし山口は自分の発言は間違っていないと主張する。

 確かにそうだろう、快も否定は出来ない。

 するとそこへ愛里が割り込んできて自分のどうしようもない気持ちをぶつけてしまう。


「でもそれでお兄ちゃん達がしんどい思いしてるのっ、今もずっと怖い思いして誰も信じられなくなってる……っ!」


 その話を聞いても山口は自分の意見を曲げない。

 彼にも彼なりの信念があるのだろう。


「そりゃ気の毒だけどさ、俺は自分の将来を守る事を優先しただけだよ」


 しかし愛里は精神が荒んでしまっているせいか山口の言葉を純粋に受け止める事が出来ない。


「じゃあ何で"ダルい"なんて言い方したの?本当に気の毒に思ってるならそんな言い方する?」


 快は愛里の様子を見てマズいと思ったが彼女の気持ちも分かるためどうして良いか分からなかった。


「わ、悪かったってそれは……!でも本当に俺だって望まれた事したんだよ!」


 山口は少し焦りながら教室にいる他のクラスメイト達を見渡して言った。


「正直さ、障害者の支援したくない人の方が多いんだよ!無関係な上に被害受けた側が何でリスク背負わされなきゃいけないんだ……!」


 山口がそう言った途端、他のクラスメイト達の目が一斉に愛里を睨んだ気がした。

 思わず怯み俯いてしまう愛里。


「酷いよ、そんな言い方……」 


 完全に意気消沈してしまっている愛里を気の毒に思い快も少し反論してみせた。


「流石にその言い方はないよっ、もっと歩み寄らなきゃ……」


 快は自分が拒絶されたとも捉えられたため言い返すが山口はその発言で快に少し嫌悪感を覚えた。


「その言い方こそ何だよ、勇山みたいで何かな……」


 山口は英美を否定するような言い方をした。

 彼は英美と同じクラスだったようで彼女の事はよく見ていたらしい。


「英美ちゃん……っ」


 その名を聞いた愛里は更に辛くなる。

 自らのヒーローがそのような言い方をされるのは嬉しくない。


「愛里、もう行こう……」


 これ以上は辛くなるだけだと判断した快は愛里を連れてゆっくりと教室を後にした。

 廊下に出ると愛里は床にへたり込んで快に家の事を伝えた。


「あのね、昨日からずっと家族が元気ないの……」


「うん……」


「怖くて夜も寝れない、良くなってたお兄ちゃんの発作も頻繁に起こるようになって……今朝は私に行ってらっしゃいって言う元気も無かったんだよ……?」


 そして自分の気持ちを素直に快に吐露した。

 山口の発言を思い出しての言葉だった。


「少数派だから?そんな理由でこんな思いしなきゃいけないの……?」


「愛里……」


「英美ちゃんも快くんも私も、間違ってるのかな……?」


 その言葉を聞いた快は何とかしたいと思った。

 両親と約束した事、それを果たすのは今だと心が叫んでいたのだ。


 ___________________________________________


 その後は愛里の悲しみ、そして世の中そのものの悲しみに直結するかのように雨が降りしきっていた。

 愛里はあまりの苦しさから学校を早退し帰り道歩いている。

 傘から覗く世界はもう自分の知っている世界ではなかった。


『罪獣や崩壊、そしてゼノメサイアに大きく関わると見られる新生継一と河島咲希は現在も逃亡中です』


 そのような愛里の心を抉るニュース映像が流れる中で彼女には世界の全てが憎み合い他人を責めているように感じられた。


『勇山みたいで何かな……』


 先程の山口の言葉を思い出した愛里は英美と咲希の関係も思い出していた。


「さっちゃん、英美ちゃんを殺したのも……」


 そう思うと途端に咲希への複雑な感情が渦巻いて来る。

 この世へ抱いている感情の主な原因は咲希にあるのだろう、彼女が始めなければこうはならなかった。


「〜〜っ」


 罪獣が出てゼノメサイアが現れ、その結果世界は崩壊しかけた。

 そして障害者が一括りに憎まれ兄や恋人は傷付けられた。

 始まりの罪獣の出現、その原因は咲希にある。


「全部さっちゃんが始めた事なの……?」


 その気付きを得た結果愛里は最悪な気持ちのまま雨の降り頻る街を帰宅するのだった。

 ・

 ・

 ・

 一方で住宅街の中ではある人物が傘も刺さずに歩いていた。


「愛里……」


 その人物とは咲希であった。

 愛する親友の名を呟きながら死んだような目でひたすらに歩いていた。

 何処へ向かうと言うのだろうか。






 つづく

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