捕まった咲希はConnect ONEが構える自衛隊駐屯地に護送された。
その時は人が集まっていなかったため騒がれる事は無かった。
「…………」
瀬川の父親がいた取調室に連行され田崎参謀と向かい合う咲希はずっと黙っている。
「新生でなくて残念ですか?」
田崎参謀の問いにも咲希は答えない。
恐らくここで新生が追われていなければ口裏合わせが出来たのだろう。
「はぁ……黙秘ですか」
溜息を吐く田崎参謀が咲希を追い詰めるように言う。
「貴女が喋らずともスマホをチェックさせて頂きましたからね、情報がどんどん出ている所ですよ」
事実だがそう脅す事で咲希を喋らせようとする。
しかし彼女は完全に無気力だった。
「あなた方の目指す神についての情報も上がってますよ。都合いい神なんて存在しなかったようですね」
咲希がこんな目に遭っている事を皮肉るように言う田崎参謀だがそこでようやく咲希は口を開いた。
「アタシは別に神なんか目指してない、アイツが勝手に言ってただけ」
アイツとは新生の事だろう。
田崎参謀はようやく口を開けた咲希に問う。
この機を逃すまいと質問した。
「ようやく喋りましたね、では答えて頂けますか?」
「…………」
しかしまたすぐに咲希は黙る。
全く話にならない様に田崎参謀は頭を抱えた。
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その後、田崎参謀は咲希の持っていたスマホの研究をしていた時止主任の所へ向かった。
「お疲れ様です、河島咲希は何か言いました?」
「いえ、役に立ちそうな情報は何も」
そこで田崎参謀は唯一彼女が喋った事を思い出す。
「"神は目指してない、新生が勝手に言ってるだけ"とだけ言ってましたがね」
「じゃあ彼女は何が目的だったんでしょう?」
「さぁ知りませんよ、ところでスマホからは情報得られました?」
「そうでした、こっちは有益な情報ゲットしましたよ」
そう言って咲希のスマホから収集したデータをモニターに映す時止主任。
そこには驚きの真実の一部が切り抜かれていた。
「どうやらこのスマホは"地獄の門"の役割をしていたようですね」
「地獄の門とは?」
「罪獣が眠る地獄という空間、そこと現世を繋げるという事だと思われます」
そこで田崎参謀は思い出した事を告げる。
「罪獣、罪を犯した人間という話を聞きましたが」
「えぇ、本来なら人は死ねば生命の樹に還るはずですが罪があると地獄に堕ちるそうで。創世教の聖典に書いてある通りですね」
「では人間は殆ど地獄行きではありませんか、やはり信用なりませんね創世教とは……」
「方法があるのかも知れませんよ、償うとか……」
いくら和解の様子を見せてもまだ疑心暗鬼な田崎参謀を見て少し頭を悩ませる時止主任。
「田崎参謀、理解して頂けませんか?私たちは分かり合えたはずです」
「しかし……理解した所で我々は勝てるのですか?そのような人知を超えた存在に……」
そして更に想いをぶつける。
「敵が地獄に堕ちた悪魔と言うのなら神は何をしてるんです……?神だと言うのに我々を見捨てるのですか……?こんなに必死に戦って、いくら祈っても助けてくれない……そんなものが神だとでもっ……⁈」
その発言を聞いた時止主任はしばらく考えた結果こう答える。
それは彼が以前から抱いていた疑問へのヒントも同然だった。
「……我々は神を誤解しているのかも知れません」
「誤解とは?」
「神という名のイメージだけで我々は創造主を都合の良い存在だと認識してしまっている。多分そんな事ないんです、神にも我々を救えない理由があるのかも……」
「理由ですと?」
その理由を聞かれた時止主任は思い出す。
かつて快と愛里の関係に生じた亀裂、その正体を。
「助けてほしい時に限って都合よく求めてるからだ、一方で我々は神に歩み寄っていない……神の求める事を何もしていないっ……!」
そこで何かを思い出した時止主任はコンピュータを弄りあるデータを見る。
それはゼノメサイアのデータだった。
「あぁやっぱり、ゼノメサイアが神の使いだと言うのなら神が我々に求める事は……」
そこで一度黙った時止主任に田崎参謀は声を掛ける。
「何なんです?」
そして時止主任はゆっくりと振り返り答えた。
「"歩み寄る事"ですよ。しかし一体どうすれば良いのか、それはきっと彼が示してくれる……」
そう言った時止主任の頭にはゼノメサイアの力を得た快の顔が浮かんでいた。
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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』
第32界 ユルシアウ
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ある日の深夜、愛里の家に石が投げ込まれた。
何処からか噂を聞きつけた存在がいつもの差別の一環で行ったのだろう。
しかしその石は最悪な事に愛里の兄の頭に命中してしまった。
救急車で運ばれるが病院は崩壊時の被害者で溢れていた。
差別意識もあってか治療は遅くなってしまい愛里の兄は意識がなかなか戻らない状態となってしまった。
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翌日、愛里は死んだような目で登校した。
例の事件はニュースにもなったため学校中に知れ渡っていた、そのため愛里を憐れむ声が聞こえる。
「可哀想だね……」
その声は障害者を追い出す原因ともなった山口の所にも当然届いており彼を見る目も少し変わった。
「何だよ、俺が悪いってのか……?」
しかし誰も山口を責められない。
彼に賛同している者も多いからである。
確かに彼は障害者とその家族を傷付けたがそのお陰で自分たちは助かったとも言えるから。
「……っ」
仮設教室内は絶望的な空気に苛まれている。
せっかく立ち上がり希望が持てたと言うのにこの仕打ちはどうなのだろうか。
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そして愛里は絶望の中で快に送られて自宅に戻る。
割れた窓はそのままで快は心を痛める。
「本当に大丈夫?よければ落ち着くまで俺も居ようか……?」
「ううん大丈夫、快くんはお姉さんの事とかもあるでしょ……?」
確かに美宇の精神状態も心配だ。
障害者当人ではなくとも巻き込まれた人々の気持ちが今はしんどいのだ。
「分かった、じゃあ気を付けてね」
そして快は愛里を置いて家に帰る。
愛里はそのまま快が角を曲がるまで見つめてから家に入った。
「あれ、お母さんは……?」
「病院でずっと見守ってるよ」
父親が母親の居場所を告げると愛里は部屋に籠る。
兄と母の心配をしながら眠りについてしまった。
目が覚めた頃に嫌なニュースが耳に入るとも知らずに。
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愛里が寝ている間、ある人物の家の前に愛里の母が現れた。
その家から出てきたある婦人に愛里の母は問う。
「……山口さんですか?」
「はい、そうですけど……」
その山口と呼ばれた婦人は不思議な顔をしている。
そして愛里の母は一言告げた。
「貴女の息子さんのせいで家は……っ!」
そして愛里の母はその家にレンガを投げ込んだ。
何発も投げ込まれ窓ガラスは割れて中まで被害を受ける。
「ちょ、やめて下さいっ!」
その山口婦人は愛里の母を止めようと割り込むが慌てた愛里の母は思い切りレンガで彼女を殴ってしまった。
「あっ……」
そのまま頭から血を流し倒れる山口婦人。
冷静になり自分のしてしまった事を悔やんだ愛里の母は救急車を呼んだ。
このニュースは様々な議論を呼ぶ事となる。
翌日に快たちの仮設教室でも大きな問題となった。
つづく