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#2

 そのニュースは朝の一同に衝撃を走らせた。

 コーヒーを飲む手が止まってしまう快とその隣にいる美宇。

 彼女は快に向かって自らの見解を述べた。


「悲しい事件だね、気持ちは凄く分かるけどやっちゃったら終わりだから……」


 今まさに自分も両親を殺害した犯人への怒りを抱えている、だからこそこの話に敏感になってしまっていた。

 そんな彼女の様子が気になった快は一つ姉に問う。


「じゃあさ、被害者の気持ちはどこにぶつければ良いんだと思う?」


 少し快自身も恐れていた。

 自分も世界を崩壊させてしまったから。

 ニュース番組では話題が変わり次のように報道されていた。


『Connect ONEが身を置く自衛隊駐屯地前では昨日もデモが行われた模様です』


 デモに参加している人々の声が耳に入ってくる。


『ゼノメサイアを追放しろー!』


『何故あんな危険な存在を利用するんだ⁈』


『また崩壊を起こす気かー⁈』


 そんな声を聞きながら姉に問う。

 快も不本意とはいえ被害を生んでしまった加害者なのだから恨みを恐れてしまっていた。


「そうだね……」


 すると美宇は少し考えるような素振りを見せてからゆっくりと語り始めた。


「どうしても気持ちが抑えられなくて復讐しようってなったら加害者と同じになっちゃうし、何より無関係な人を巻き込んでこっちが別の加害者になっちゃうからね……」


 そして棚に置いてある犯人の書籍に視線を向けて続ける。


「本に書いてあったんだ、自分が罪を犯したから家族が危険に晒されたって。奥さんは自殺までしちゃったんだって……」


 その話を聞いた快はある光景を思い出す。


「……っ!」


 それは咲希が変身した聖杯獣カリスに見せられた記憶のような映像、今の話と似たような光景がそこには映されていた。


「自分が新たな加害者になるくらいなら……辛いかも知れないけど我慢するしかないんだと思う」


 美宇も苦しいのを我慢しながら快に伝える。


「復讐して巻き込まれてまた復讐が始まって、そうしてる内は一生悲しみが終わらないから……」


 そのような連鎖を止める方法を姉は苦しいが導き出したようだ。

 彼女なりの折り合いの付け方なのだろう。

 しかし快はまだモヤモヤする部分が残っていた。


「でもそれじゃ苦しいまま先に進めない、そんなの……」


 しかし美宇はこれ以上何も言う事はなかった。

 仕方がないため快は実家を後にしある場所へ向かったのだ。


 ___________________________________________


 快はある群衆の中を掻い潜っていた。

 学校がある時間だと言うのに、それ以上に大切な用事を見つけそこへ向かったのだ。


「ゼノメサイア消えろ!」


 群衆からはそのような声が聞こえてくる。

 本人である快は少し心を痛めながらもそう言わざるを得ない人々の胸の内も理解しながら自衛隊駐屯地へ裏口から入って行った。


「えっと、貴方は……」


 そこにはConnect ONEとは関係ない自衛隊員がいた。

 快は事情を説明する。


「ゼノメサイアです、Connect ONEに用事があって来ました」


 快のその言葉を自衛隊員は疑ったが上に話を聞く事で理解したようだ。

 瀬川が裏口まで迎えに来てくれたので快は何とか中に入れた。


「外の様子は見たか?」


「うん、大変だね……」


 敷地内を歩きながら外について話す。


「誰も悪気がある訳じゃない、自分を守るためにそうせざるを得ないんだよな」


「怖くてどうしようも無いんだ……」


 差別をする者、その仕返しをする者。

 きっとその根底には恐怖がある。


「きっと彼女も……」


 そしてある大きな扉の前に辿り着く。

 瀬川は快の肩を叩きその扉の奥へ誘った。


「じゃあ俺はこれで、気を付けろよ」


 そして瀬川は扉から外へ去り快の目の前にはある鉄格子だけが。

 そしてその中に見知った顔を見つける。


「こんにちは、河島さん……」


「……何しに来たの」


 その見知った顔とは捕らえられた咲希だった。

 快は彼女と話しに来たのだ。


 ___________________________________________


 快が咲希が捕らえられた独房にやって来た。

 彼女に聞きたい事があるからである。


「君の叔母さんは無事だってさ、瀬川から聞いた」


「…………」


 しかし黙りこける咲希。

 それでも快は伝える。


「協力して欲しいんだ、俺なら君の気持ち少しは分かる……」


 その言葉に思わず咲希は反応してしまう。


「アタシの何が分かるっての……⁈」


「分かるよ、あの時の俺と同じ顔してるから……」


「あの時のアンタね、尚更だよ。アタシはずっとアンタが羨ましかったの、そして腹が立ってた……!」


 咲希は小学校の時の授業参観を思い出す。

 そこでは快が両親に歩み寄られていたが拒絶していた。

 その理由を快は既に察していたのだ。


「両親から愛を貰えなかったアタシの前でそんな事……!」


 悔しさに震える咲希を見た快は過去の自分の行いを深く反省した事を伝える。


「うん、今になって理解した所で過去に傷付けてしまった事実は消えない……」


「何、同情でもしてるの?」


「そうだよ、だから君を救いたいんだ……」


 その言葉を聞いた咲希は余計に腹が立ってしまう。


「そんなクサい台詞……!アタシが何したか分かってんの?それにアタシの親が……!」


「うん、知ってるよ。君の父親がした事」


「〜〜っ」


 遂に快は気付いた真相を咲希に伝える。

 咲希は予想外の答えに絶句していた。


「じゃあ分かるよね、アタシ分かってたはずなのに……結局あの父親と同じ事して世界から憎まれる事になった……!」


 自暴自棄になるように話すがそれでも快は同情をやめない。


「それは俺も同じだよ、世界を崩壊させて多くの無関係な人を巻き込んだ。だから君たち親子の気持ちが分かるんだ、……凄く苦しいよ」


 すると咲希は英美の話題を出す。


「その無理やり歩み寄る感じ、英美にソックリだね……アイツのそんな所まで受け継いだの?」


「違う、これは俺が気付いた事だよ。みんなに気付かせてもらったんだ……」


 その言葉に咲希も思わず頭を抱えてしまう。


「アンタ何なのさ……ここに仇がいるのに、仇の娘が」


「確かに赦せる事じゃないけどそうしなきゃ先に進めない……」


 快は自分が罪を犯して気付いた事を伝える。


「俺は君たち親子の被害者だ、復讐しても世間は多分許してくれる。でもそれじゃダメなんだ、何も終わらない」


 姉の美宇の言葉を思い出す。

 今ここに来た理由だ。


「今世間は憎み合ってる、それで巻き込まれた人が更に巻き込んで……その連鎖が終わらない。でも今の俺はそれを止める事が出来る、君たちを赦す事で俺は示せるんだ」


 そしてあえて英美の言葉を借りて咲希に伝えた。


「それが今の俺に"出来る事"だよ」


 咲希も流石にその言葉には何も言い返せなかった。

 快の凄まじい覚悟が伝わったからである。


「……あっそ」


 思わず素っ気ない返事だけしてしまった。


「それが出来れば君もやり直せるはずだよ……!だから協力して欲しいんだ」


 必死に説得し協力を要請する。

 咲希は後ろを向いて疑問を投げかけた。


「……何でそこまで出来るの?苦しい道のりなのは分かり切ってるのに」


 そう言われた快は少し考えてから伝える。


「その先に幸せがあるなら頑張れるよ。新生さんみたいに無理やり作る苦しみじゃない、自分から試練を見つけて飛び込んで行くんだ」


 快はそのまま去っていこうとする。

 そして最後に一言だけ。


「君にもすぐ分かるよ」


 そう告げて快はその場から去り学校へ向かうのだった。


 ___________________________________________


 その頃の仮設教室では山口が荒れていた。

 家を襲撃され母親が怪我をしたためその犯人の娘である愛里に詰め寄っていたのだ。


「なんて事してくれたんだ!巻き込まれたくなかったのに……!」


「私は……っ」


 複雑な感情が混ざり合い今にも泣き出しそうな愛里に容赦なく怒りをぶつけている。


「何で巻き込むんだよっ、俺たちはただ……!」


 するとそこに委員長が割り込んで来る。

 少し感情的になってしまっていた。


「ふざけんなよ、お前は追い出したんだ……!彼らがどれだけ苦しんでるか!」


 その様子に山口は言う。


「何だよお前、障害者の味方すんのか?お前もただじゃ……」


 あくまで委員長を心配しての声だったがそれが地雷だったようで。


「味方って言い方なんだよっ!関わってみてさ、彼らの事わかったんだ……」


 自分に絵を見せてくれた良の笑顔を思い出して伝える。


「アイツらだって普通の人間なんだ、生きてて感情もある……!確かに知る前までは怖がってたけどさ、敵も味方もないんだよ……っ」


 その言葉は仮説教室に響いた。

 障害者を受け入れる者、そうでない者。

 彼らにそれぞれの答えを抱かせるのだった。

 そこへ……


「ありがとう委員長」


 ある人物が遅れて登校して来た。

 それは快だった。


「創……」


 快は山口の前に立つ。

 一体何を語るのだろうか。






 つづく

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