快は山口の前に立ち憐れみの表情を見せる。
「な、何だよ……」
警戒する山口に言う事を快は考えていた。
ここに来る直前に瀬川とある事を話していたのだ。
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咲希と話した後、快は学校に向かう事を瀬川に伝えた。
しかしやはり瀬川は心配だったようだ。
「本当に大丈夫か?絶対雰囲気最悪だろ……」
「でも俺が示すしかないんだ、いま出来る事だから」
「示すってお前……」
快は一度瀬川に向かって振り返ると優しくも力強い笑顔を見せた。
もう昔の弱々しい快とは違うと一瞬で分かった。
「赦す事だよ、今の俺にこそ出来る事だ」
しかし瀬川はまだ心配が残っている。
「本当にそんな事できんのか……?しかもそれが直接みんなの赦しに繋がるなんて……」
両親の死は快に多大な影響を与えた。
いわば人生を変えてしまった出来事だ。
それを赦すなど出来るのだろうか、そして事情を知らない人々にその気持ちは伝わるのだろうか。
「確かにそうだよね、でもせめてその姿勢だけは伝えないと」
両親と交わした約束、弱っている人を救う事。
今は世界全体が弱ってしまっている。
「時間はかかるかも知れない、でも少しずつ示して行くんだ。俺たちが」
その表情を見た瀬川にはこれ以上引き止める事は出来なかった。
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そして現在、山口の前に立った快は口を開いた。
「まず君は悪くないと思う、ごめんなんか偉そうな言い方になっちゃったけど……」
その快の一言目に一同は少し驚く。
しかし続けて快は言った。
「でも悪気は無かったとはいえ傷付いた人が居るのは事実だから、そこは認めて欲しい……せめて言い方を気を付けて欲しかった」
先日愛里と議論になった時の話題を出す。
その時に山口はまだ障害者が加害者であるというような言い方をしていた。
「無関係な人が巻き込まれたって言うけどさ、彼らだってそうなんだよ。何も悪くないのに巻き込まれた側なんだ」
その言葉に対し山口は理解しながらも反論をする。
「でも支援とかしたら煙たがられるのも事実だ、俺たちも巻き込まれないようにするしかないんだよ……」
「そうだよね、巻き込みの連鎖が起こっちゃってる」
「仕方ないだろ……」
より空気が重くなっていく。
それでも快は答えに辿り着いていた。
「それでもどっちかの幸せのために争い合う関係性なんて俺は嫌だ、誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなんて辛すぎるよ……」
本音を語り出す快。
それでも山口はまだ反論する。
「でも怖いんだよ、自分と違う何考えてるか分からない人達が。実際迷惑かけられた人だっている……」
わざと直接的な言い方はしなかったが障害者を指しているのだと分かる発言だ。
「それは全員じゃないよ、同じ人種の皆んなが同じ訳じゃない。一人ひとりに個性があるんだ」
そして願いを快は伝える。
「彼らの事が分からないなら知って欲しい。無理に関われとは言わない、ただ知って"こんな人もいるんだな"って程度に存在を認めて欲しい……」
そして委員長の方を向いて快は言う。
「委員長はそれが出来ただろ?」
「あ、あぁ……」
「今言ったみたいに無理はしなくて良い、ただ出来る人から知ろうとしてみて欲しいんだ。それだって立派な歩み寄りだから……」
快はこのままではいつか起こり得る未来を想定していた。
「ただ関わらないようにするだけだったらどの道またどこかでぶつかって争いになる、せめて理解はしないと……」
その言葉に一同は考えさせられる。
しかし山口はある疑問を抱いた。
「何でお前そこまで出来るんだよ、何か関係あったのか……?」
そして快はある真実を語る。
「……俺も障害の当事者だからだよ」
「え……」
「それもあるけど一番は歩み寄る大切さに気付いたからだ」
最後に快は周囲を見渡してそこにいる一同に伝える。
「どうか俺たちを知って欲しい、俺たちも君たちを知りたい。無理に関わる必要はないけど存在を認めて、どうかいつの日かこれまでの迷惑を赦して欲しい」
一呼吸おいて何よりも大切な事を言う。
「辛い連鎖を止められるのは赦す事だけだから」
それだけ言い残し快は教室から去って行く。
愛里はその背中を追いかけた。
「どこ行くの快くん⁈」
一瞬だけ立ち止まった快が振り返り愛里に言った。
「今できる事をしに行く。みんなのためにも俺が示すんだ」
そのまま快は学校も去りどこかへ行ってしまった。
しかし愛里はどこか不思議な安心感を抱いているのだった。
咲希や兄の事で不安だったが快に一筋の希望を見たのだ。
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そして一方、Connect ONEのいる自衛隊駐屯地では瀬川が快からの電話を受けていた。
そしてその内容をある人物に伝える。
「快がこっち来るってよ河島さん」
取調室に来た咲希と会話をしているのだった。
しかし咲希はまだ何かを考えているようで口を開かない。
「……」
「まだダンマリか」
少し溜息を吐きながらも快からの電話で少し安心をした瀬川は優しい面持ちで咲希に伝える。
「快がな、クラスで赦しを示す決意表明したってよ」
その言葉で先ほどの会話を思い出す。
快はそこでも赦す事を示すと話していた。
「……どうやって示すっての?」
「ようやく喋ったな」
「いいでしょそれくらい……」
そして咲希は自分なりの見解を話す。
「アタシと父を赦した所で世界は変わらない、ただちょっと周りの人達が関心するだけだよ」
その見解に瀬川はこう答える。
「それで良いんじゃないか?」
「はぁ?」
「アイツの考えそうな事だけどさ。辛い事が連鎖して巻き込んで行くなら良い事も連鎖して巻き込んで行くと思ってんじゃないのかな?」
これまでの事を思い出す瀬川。
「良い事に巻き込んでまたその巻き込まれた人が新しい人を巻き込んで、そうして少しずつ世界に広げようとしてるんじゃないか?」
咲希は少し呆れたように言う。
「ふんっ、随分と気の長い計画だね」
それでも瀬川は信じていた。
「でも現実的だ、それに差別がこんなに加速してるなら良い事だってきっと……」
それを聞いた咲希はまた少し考える。
そして瀬川は折入っててお願いをした。
「頼む河島さん。君の知る情報が必要だ、協力してくれ」
頭を下げる瀬川を見て複雑な心境になる咲希。
「快の計画のためにも」
そして咲希は遂に決断をするのだった。
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快が自衛隊駐屯地に着いた頃、Connect ONEの職員たちが慌てながら動いていた。
「何があったんですか⁈」
慌てて見た事のある職員に声を掛ける。
相手も快がゼノメサイアだと理解して答えた。
「河島咲希が情報を吐いた、今お偉いさん方が纏めてるよ」
その話を聞いた快も慌てて走り出した。
彼女の所へ、取調室へ向かうのだ。
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そして勢いよく取調室の扉を開ける。
「河島さんっ!」
「うわビックリした……」
咲希は瀬川に情報を伝えている最中だったようだ。
瀬川の背後には時止主任や田崎参謀もいる。
咲希が口を開いたと聞いて慌ててやって来たのは快だけでなかったのだ。
そして快はこの時点で明かされた情報を纏めた話を時止主任の憶測も交えて聞く事となる。
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これから起こり得る事を聞いたんだ。
捕まる前に河島さんの前に継一が現れたんだって。
計画を再開させるとか言ってたらしい。
保険を掛けてたとか何とか、彼に頑張ってもらうとも言ってたみたいだ。
まだ誰か仲間がいるのかも知れない。
それで継一の目的だけど多分聖杯を身に宿してる河島さんと生命の樹、そしてゼノメサイアである快くんと愛里さんを狙うだろうとの事だ。
樹ノ剣と海ノ剣を手に入れて扱うための算段だろう。
でもどうやって来るのか、もう一人の仲間が何なのか分からない。
だから今は何も出来ないって所だね……
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その話を聞いた快は少し考える。
そしてある提案をした。
「何も出来ないならしなければ良いんじゃ……?」
「というと?」
「どのみち向こうから来るんだから迎え撃ちましょう」
そして快は"示す"事を考えるのだった。
つづく