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#4

 どのみち継一が来るまでは動けない、作戦を練ろう。

 まず生命の種と天の聖杯、この二つを一緒にしておくのはマズいな。

 護衛をつけて河島さんを移そう。

 ・

 ・

 ・

 時止主任のその作戦が動き始める。

 新生の狙いを分断するのだ。


「これならわざわざ本部を狙いには来ないだろう、念のためTWELVEには待機しててもらうけどね」


「了解です、快なら人1人の大きさで護衛できますから」


 そのようなやり取りで今後の動きが決まった。

 咲希の護送にはサイズの問題で快がつく事に、本部はTWELVEが防衛する事となった。 


 そして遂に護送が開始される、快は咲希の乗る護送車に共に乗り込み移動を開始した。


 ___________________________________________


 護送車の中で快は咲希と話す機会を得たため声を掛けた。

 しかし運転手や他の職員たちはまだ快たちを信用していない、二人の様子を厳しい目で見ていた。

 その中の一人には瀬川たちを認めた小林の姿も。


「ねぇ河島さん、何で協力してくれる気になったの?」


 優しく語りかける快に咲希は少し恥ずかしがる。


「それ言わせるの?なんか嫌だ」


「何でだよ……」


 実のところ快の言動によって心が動いたようなものだ、それを本人に伝えるのは少し照れくさい。

 なので少し言葉を濁して伝える事にした。


「暇だしアタシに出来る事やろうと思っただけだよ」


「それって俺がそう言ったから?」


「はぁ?何自惚れてんの」


「いやだって……っ」


 あくまで咲希は快のお陰ではないと言い張る。


「アタシはただ愛里を傷付けた事を悔やんでるだけ。愛里と一緒にいて幸せだったから、アタシを幸せにしてくれた人の幸せはこれ以上奪いたくないと思ったの」


 咲希は愛里の顔を思い浮かべながら言った。


「でも愛里にとっては余計なお世話だろうけどね、仇も同然のヤツ……」


 その言葉を聞いた快はかつて瀬川に言われた事を思い出す。



『修学旅行の時さ、確かに愛を感じられたんじゃないのか?あの時の経験は嘘か?』


『俺も色々辛かったけどさ。お前と一緒にいた時間は……うん、幸せだったよ』



 そのやり取りに近いものを咲希から感じた。

 そして快は一つの答えのようなものを導き出す。


「ううん、幸せをくれた人はきっと君の幸せを望んでる」


「はぁ?」


「愛里は苦しんでた、それは君を信じてたからだよ。心の奥では君と仲良くしたいと思ってるからだ」


 快はかつて陽との間に感じた事も交えて伝えた。


「お互い様なんだよ、幸せを与え合ってお互いに幸せである事を望んでるんだ」


 愛里の深層心理を読んで咲希にも希望を持たせたい。

 その気持ちが快の思考を働かせた。


「愛里は君が更生してくれるのを望んでるよ、だから頑張って」


 しかし咲希はまだ快の言葉を信じられない。

 ネガティブな思考がずっと邪魔をしているのだ。


「何言ってんの、また英美みたいな事……」


 どうしても英美と重なり罪悪感が押し寄せるのだった。


「ずっと不幸だった、愛里がいてくれたって他が辛すぎる。幸せなんてそんな……」


 もちろん快もその程度で彼女が変わらないと分かっていた。

 だからこそしっかり根拠を伝えるのだ。


「愛里といる幸せがあるなら良いじゃないか」


「え……?」


「人生ってそんなもんだよ、辛い事も幸せな事もどっちもあり続けるんだ。まるっきり無くすなんて不可能だよ」


 この言葉は快だからこそ導き出せた答えである。


「だからその中にある幸せが愛おしく感じるんだ、他人が羨むほどのものを君は掴める」


 そして咲希の核心を突く言葉を快は告げる。


「今の君は贅沢だよ」


 その言葉、かつて咲希が快に抱いていた感情そのものだ。

 まさかその相手から言われる日が来るとは。


「っ……」


「あ、ごめん……言い方強くなっちゃった」


 しかし咲希は逆に清々しかった。

 あの快の成長を完全に実感したのだから。


「まさかアンタに言われる日が来るとはね」


 しかしそれでも咲希は快の言葉を否定した。

 まだ後ろめたい事が残っているのだ。


「でもアタシは罪を犯した、赦される事のない大罪。そんなアタシが幸せになって良い訳がないよ……」


 俯きながら否定の言葉を伝える。

 その言葉を聞いた快は胸が痛んだ。

 少し前の自分も同じ事を口にしたからだ。


「っ……」


 その会話を意味深な表情で小林は聞いていた。

 そして快は咲希を励まそうと瀬川から掛けてもらった言葉を伝えようとする。


「罪を犯した人でも……っ」


 しかしそのタイミングで車両に無線が入った。

 快の言葉はそれに遮られてしまう。


『大型の罪獣らしき影がそちらに接近!』


 突然地面が揺れる。

 何か巨大なモノが現れたような衝撃が伝わってきた。


「まさか……」


 職員たちが驚く中、快と咲希は察していた。


「来たか……」


 遂に決戦の時が来たのだ。

 彼らは戦う覚悟を決める。


 ___________________________________________


 外にはあの時と同じ新生が乗っていた人型のロボットと罪獣が混ざったような存在であるインペラトルが現れた。

 コックピットにいるのは当然新生その人である。


「さぁ、まずは聖杯だ」


 いつものように澄ました顔で咲希の乗る護送車を見つけた。

 地響きを起こし車を横転させようと試みる。

 その際に周囲の車や建物も巻き込まれてしまった。


「む……」


 しかし護送車に手を出そうとした途端、ゼノメサイアが現れ護送車を手に取り守った。


『ゼアッ!』


「やっぱり来るよね」


 安全な所に護送車を置いた後ゼノメサイアはインペラトルと再度向き合った。

 まるで中にいる新生に語りかけるように。


「やぁ、久しぶりだね快くん。まさか君がここまで成長するとは」


『新生さん……』


 無線を使い向こうから快に声を掛けてきた。

 快はチャンスだと思い問いかける。


『もうやめて下さい、これ以上罪を重ねてどうするんですか』


 あえて新生の理解が深い創世教の話題に絡めて話す。


「これも神の試練なんだよ、以前話したように人は不幸を越えねば幸せを感じられないからね」


 そう言いながらインペラトルは攻撃を仕掛けて来る。

 ゼノメサイアは何とか拳を避けた。


『グッ……!』


「十分幸せだと言うのに傲慢にも不幸だと言うもんだからね、分からせてやらないと……君たちは恵まれていると!」


 そのまま連撃を繰り出して来るインペラトル。

 ゼノメサイアは一度飛び上がり距離をとった。

 しかし相手には遠距離攻撃も備えられていたのだ。


「ふふふ」


 左手から赤白い光弾を放つ。

 それはゼノメサイアを追尾するように追いかけた。


『コイツ……ッ』


 そしてその追尾弾はゼノメサイアを追いかけながらある地点に誘導していた。

 そこにはエネルギーを溜めるインペラトルの姿が。


「はぁぁっ!」


 ゼノメサイアの目の前で光のような闇のような衝撃波を放ち思い切り周囲を消し飛ばす。

 あまりの衝撃にゼノメサイアも吹き飛んでしまった。


『ぐあっ……!』


 思い切り地面に叩き付けられてしまう。

 しかし気を抜いていられない、すぐさまインペラトルは猛スピードで迫って来ていた。


「おぉぉっ!」


 勢いよく地面を衝撃波で掬い上げ街ごとゼノメサイアを宙に飛ばした。

 しかしゼノメサイアも負けじと飛び上がって来るインペラトルの背後に回り羽交締めにする。


『ハッ……!』


「なるほど」


 しかしすぐに振り解いたインペラトル。

 両者は地面に着地し一度呼吸を整えた。


『はぁはぁ、強いな……』


 しかし自分は一人じゃない、きっと仲間が来てくれる。


『(大丈夫だ、もうすぐ瀬川たちが……!)』


 そう確信しているがインペラトルは更に攻めて来る。


「おぉぉっ!」


『グッ……』


 その戦いは熾烈を極めどんどん激しくなって行った。

 それでも快は仲間を信じた。

 しかし遂に気付く。


『何で来ないんだ……⁈ そろそろ来てもいい頃なのに……!』


 すると新生も焦る快の様子に気がついたようで口角を上げた。


「ふふ、仲間が来なくて焦っているのかい?」


『えっ』


「私が何故動き出すまでに時間がかかったのか、しっかり準備をしていたんだよ」


 そして咲希の話題も出した。


「わざわざ河島咲希の前に一度現れたのも、その時に聖杯を奪わなかったのにも理由がある。君たちを分断するためさ」


『そんな、瀬川……っ!』


 焦る快。

 何が起こったのか何となくだが察していた。

 ・

 ・

 ・

 まさにその頃、自衛隊駐屯地では。


「嘘だろ、何だこの数……」


 瀬川たちは目を丸くしながらある方向を見つめていた。

 そこには量産型のような同じ見た目の罪獣が十体ほど列を成して攻めて来ていたのだ。


「これじゃ快の援護に行けねぇ……!」


 生命の種を守るためここを離れる訳には行かない。

 仕方なくTWELVEはその場で出撃する事となったのだ。






 つづく

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