咲希を乗せる護送車にも無線が届いていた。
自衛隊駐屯地に罪獣が複数体現れたのだと言う。
「アイツら……!」
小林は作戦が崩れた事を嘆いていた。
そして何よりTWELVEたちを心配している。
咲希もその状況を察して冷や汗を流した。
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そしてTWELVEは出撃する。
各機体を飛ばしまだ合体はせず複数の相手をするのだ。
「出撃だっ!」
各機体がそれぞれ量産型のような罪獣を相手する。
一機につき二体以上を相手にしても手に余る数だ。
「くっ、流石に多すぎだろ……!」
竜司が焦る中、全体を見渡す蘭子が指示を出す。
「一体抜かれた!止めて!」
TWELVEの壁を超えて生命の種がある方向へ向かう一体の姿が。
確かにこの罪獣たちはTWELVEは眼中にない、すぐさま生命の種に向かおうとしている。
「クッソがっ!」
アモンへと変わった陽がウィング・クロウのシャッターを展開し突撃する。
その一撃で一体は撃破する事が出来た。
「コイツら一体はそんな強くねぇ!さっさと仕留めるぞ!」
アモンの発見により少し希望を持てたTWELVEは少しずつだが罪獣たちを仕留めようと努めるのだった。
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咲希の乗る護送車にも無線による報告で状況は伝わっていた。
小林たちもアモンが見つけた希望に勇気づけられ少しずつ力を振り絞って行った。
「アイツらならきっと大丈夫だ、俺らは俺らに出来る事を……っ!」
そんな事を言いながら車を運転している。
しかし通りに出た所で多くの避難する人々の群れに遭遇してしまった。
「マズいな、これじゃ車は通れない……」
そして小林は咲希を連れて車を降りた。
そのまま人混みの中へ入っていく。
「ほら、何とか逃げるぞ!」
咲希の手を引き逃げる小林。
手を引かれる咲希自身はまだ気持ちの整理がついていなかった。
「(何でここまで出来るの……⁈)」
一切諦めない彼らの姿に疑問を抱くのだった。
その近くではゼノメサイアとインペラトルが激闘を繰り広げている。
『ハァ、ハァ……』
「なかなかしつこくなったね君も……」
流石のインペラトルも快の執念深さに疲れを覚え始めている。
咲希はまだ疑問が拭い切れない。
すると人混みの中で転んでしまった人が嘆いた。
「クソッ、またゼノメサイアのせいで……!」
もう何も深く考えられていない事が分かる。
とにかく辛さを他者にぶつけたいのだろう。
すると人混みの中の別の人が小林と咲希の存在に気付く。
「てかあんたらConnect ONEの車両から出て来たよな?しかも河島咲希じゃねぇか、何やってんだ!」
咲希を連れている事を指摘されその言葉と恐怖が周囲にも伝染してしまう。
「まさか協力してんのか……⁈」
「いや、誘き寄せてるのかも!」
「それに俺たちを巻き込みやがって……!」
不安と恐怖の矛先はどんどん咲希に向けられて行く。
その非難を一心に浴びて咲希の精神は疲弊して行ってしまった。
「頼む!今は逃してくれ!」
小林も咲希を今は逃すために周囲から集まる人々を静止しようとする。
しかし咲希はこれが自分への罰だと認識した。
「(当然だよ、それだけの事をしたんだから……)」
それでも小林は他の職員たちに人々を抑えるように伝え咲希の手を引き人気の少ない所へ逃げ込もうとした。
「ホラこっちだ!」
「くっ……」
そして二人は路地裏へと避難する。
「はぁ、何でこんな事やってんだろうな……罪獣を出してたヤツを助けるなんて」
仕方がないとは言え小林は今の自分がしている事に嫌気が刺していた。
「何でそこまでするのさ、アンタ苦しそうだよ……」
小林が嫌々自分を助け出している状況を見た咲希は罪悪感で苦しくなってしまう。
それでも小林は咲希の疑問に答えた。
「決まってるだろ、乗り越えて平和にするためだよ」
その言葉を聞いた咲希はハッとする。
「創が言ってた事と同じ意味……?」
先程の車両で小林は快との会話を聞いていた。
なのでその意味を問う。
「さっきの会話か?確かにな、不幸と幸は混在してるのかもな。でも幸せがあるから辛い事も頑張って乗り越えようと思えるんだよ」
しかし咲希はまだ自分の罪が恐ろしい。
「でもアタシは幸せになるべきじゃない……」
すると小林はそんな咲希に少し苛立ったのかこんな事を口にする。
「あのなぁ、だからって何もしないのはアレだぞ?」
「え……?」
「罪を犯した人はな確かにムカつく、憎いと思う。でもその態度次第ではこれ以上罪を重ねなくて良くなる事もあるんだ……」
小林の脳裏にはかつて避難所で頭を下げる瀬川の姿が。
「せめてそれなりの誠意を見せてくれれば応えない方が申し訳なくなるってくらいにはなるからよ」
そして核心となる一言。
「罪を犯したなら自分が幸せになるためじゃない、他人を幸せにするために動けよ」
するとそのタイミングで路地裏にいるのが市民たちに見つかる。
「いたぞ!」
それに気付いた小林は咲希を逃がそうとした。
「行けよ、お前は他人に償うために出来る事をしろ!」
そして人混みに立ち向かって行く小林。
咲希は必死にその場から逃げた。
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走る咲希。
今のところ周囲に人はいない。
「はっ、はっ……」
すると目の前にある光景が飛び込んで来る。
『グアァッ……』
なんと前方にゼノメサイアが吹き飛ばされて来たのだ。
目の前のビルが崩れ去る。
「そんな……っ」
そしてそれに合わせるように咲希の目の前に現れるインペラトル。
もう逃げ場は無かった。
「ようやく追い詰めたよ、全く手間をかけさせて……」
そのまま咲希に手を伸ばすインペラトル。
もう自分を守る者はいない、このままでは捕まってしまう。
「くっ……」
そこである言葉が脳裏に浮かぶ。
それはここ最近で何度も聞いた嫌いな言葉だった。
『自分に出来る事をやるんだ』
何故今この言葉が浮かぶのだろう。
迫るインペラトルの手を見つめながら考えていた。
「あぁ、そういう事……」
何となくだが分かった気がする。
咲希は精一杯力を込めた。
「アタシに出来る事、多分これかな……」
そしてみるみる体が巨大化していく。
自らに残っていた天の聖杯の力で咲希はもう一度変身したのだ。
『オォォォッ!』
聖杯獣カリス、ここに再び。
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倒れたゼノメサイア、迫るインペラトル。
もう他の誰も頼れない。
そのため咲希は聖杯獣カリスに変身し一人で立ち上がった。
『オォォォッ』
そしてそのままの勢いでインペラトルの顔面を殴り飛ばす。
流石の新生も予想外だったようで思い切り吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ⁈」
しかしすぐに起き上がりながら呟く。
「まさかここまで気力が残っていたとはね、驚いたよ」
そして立ち上がるとすぐさま力を吸収しようと手を伸ばして来る。
『くっ……!』
しかしここで力を奪われる訳にはいかない。
咲希は何とか後方に下がり光弾を放った。
「ふふふ、これは一度落ち着かせた方が良いかな?力づくでも手に入れよう」
新生は吸収する前に一度カリスを倒す事を視野に入れるのだった。
そしてそんなカリスの体からは虹色のような光が溢れているのだった。
・
・
・
そして目が覚めるゼノメサイア。
『う……』
まだボヤける視線の先をよく見るとインペラトルとカリスが激戦を繰り広げていた。
『なっ、河島さんっ⁈』
時々体から光が溢れるカリスは少し押されながらもインペラトルと戦っている。
しかし体の至る所には傷が出来ていた。
そこから更に光が漏れ出している。
『ぐっ、アンタ……』
目が覚めてすぐに快は間に割り込み咲希を庇う。
『何で出て来たんだ、ボロボロじゃないか……』
聖杯が奪われる事よりも咲希自身の心配をするような言い方をする快。
テレパシーで言葉は伝わって来る。
『ふん、アタシに出来る事やってるだけだよ』
そしてゼノメサイアを押し除け前に出て行く。
インペラトルに更なる攻撃を加えようと言うのだ。
『なら俺だって!』
そして快も咲希に続き攻撃を開始する。
二対一になった事で少しだけインペラトルは先程よりも苦戦していた。
「全く面倒な事になったね……」
最大限の力を振り絞り周囲に大量の光弾を放つ。
それはゼノメサイアとカリスごと建物も吹き飛ばした。
『グアァァァッ……!』
その影響は小林たちのいる人混みも巻き込み数名が犠牲となってしまった。
『あぁっ、なんて事……』
今の衝撃でゼノメサイアもカリスも起き上がれない。
その隙にインペラトルは迫る。
「全く、手間を掛けさせて……」
そしてカリスの首根っこを掴みその身に取り込んだ。
『あぁっ、愛里……』
咲希の意識はどんどん溶けて行く。
インペラトルのバベルの中へ取り込まれて行くのだった。
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インペラトルの意識の中で咲希は目を覚ます。
そこには新生の姿があった。
「くっ、アンタ……」
「無駄だよ、ここに実体はない」
殴り掛かろうとするが上手く進めない。
新生の説明は間違いではないらしい。
「ようやく手に入れた。まだ君に意識があるのは罪が共鳴しているからか」
「そんな事どうでも良いっ、アタシはっ……」
「足掻いても無駄だよ、もう私は君の力を手中に収めた」
確かに力が発揮できない。
自分は負けてしまったのだろうか。
「さぁどうするかな?後は君の選択次第なんだけどね」
「選択?」
「このまま君を殺し聖杯を分離しても良い。しかし君はよく働いてくれた、そこで君を聖杯の要として新世界の核にしてあげようと思ったんだ」
選択とはその二択。
「ここで死ぬか核となり新世界で幸せに生きるか、どっちが良いかな?」
そこで咲希は一つ疑問に思った事がある。
愛里の必要性についてだ。
「あれ……?でもそしたら愛里は?愛里を取り込んで一緒に核になるんじゃ……」
その疑問について新生はハッキリと答えた。
「もうその必要はない、以前君が取り込んだ海ノ剣と樹ノ剣を合わせた力が聖杯に残っている。だから君と種さえあればもう良いんだよ」
なんともう快も愛里も必要ないのだという。
「そんな、じゃあ愛里は……?」
「我らの新世界でまた新たに生まれきっと幸せになる、別人としてね」
「うそ……」
そして絶望した咲希の意識はどんどん沈んで行く。
新生に力も意識も奪われて行くのを感じた。
「(あぁ、でも良いか……それで幸せなら)」
しかしそんな時、咲希の記憶にある光景が浮かぶ。
それはついこの間、咲希自身から快が愛里を救い出した瞬間。
「(あ、この時の愛里……)」
確かに彼女は幸せそうだった。
まるで翼が生えているかのようにも見えた光景、これまで見た彼女の表情で最も幸せそうだった。
英美といた時よりも遥かに。
「(やっぱりそうじゃん、アイツじゃなきゃダメなんだ)」
その事に気付いたのだ。
愛里の最上級の幸せは快あってのものだ。
「(ようやく見つけられた愛里の幸せ、後でいくら幸せになれるったってそれを奪うなんて……!)」
沈んでいく世界から必死に咲希は這い上がって行く。
「本当はアタシを愛して欲しかった、でも……!」
そして遂に新生の意識から、バベルの殻を突き破り外へ出るのだった。
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そして現世、なんとインペラトルの体から蛹が成虫へ孵るようにカリスが姿を表したのだ。
「なにっ⁈」
新生も快も驚いている。
そして蘇ったカリスこと咲希は新生に向かって呟いた。
もう意識は繋がっていないため届かないがどうしてもぶつけたい想いだったのだ。
『幸せに気付かせるため一度不幸にするって言ってもさ、もうそこにある幸せ奪い取ったら元も子もないでしょ』
そしてカリスは突撃していく。
ゼノメサイアはまだ立ち上がるので精一杯だが何とか彼女を助けようとする。
『あぁっ!』
しかしインペラトルの方が戦闘力は勝っており明らかにカリスでは敵わない。
一度掴まれ投げ飛ばされた後、インペラトルは最高威力の光弾を放とうとする。
「どこまでしつこいんだ君は、自身の罪に苦しみながらいい加減消えてくれ」
そして罪の根源とも言えるバベルから光弾を放った。
カリスに思い切り命中してしまう。
『河島さんっ!!』
快も思い切り叫ぶが必死にカリスは、咲希は抵抗している。
『ぐぅぅぅっ……これが罪の重みねっ』
その様子はテレビでも当然報道されており愛里も見ていた。
心配と憎しみが混ざったような複雑な表情でかつての親友であり今は仇とも言える存在を見守っている。
「さっちゃん……」
そしてカリスは耐え続ける。
愛里の幸せを想い自分の身を捧げる覚悟だ。
『これが罪だってなら全部受け止めてみせる、アタシはこれから罪と共に生きる……っ!』
どんどん傷が増えていきそこから光も溢れ出ていく。
何やら輝かしい光を放つカリスは罪の一撃をその身に吸収しているようだ。
「何だ、何が起こっている……⁈」
流石の新生も予想外の反応が起こっているようで焦っていた。
そして自衛隊駐屯地の時止主任もレーダーの反応を見て驚愕していた。
「これは……⁈」
レーダーに映るカリスの反応はゼノメサイアのものと限りなく近くなっていた。
『それが愛里のために出来る事っ、アタシの贖いだよっ!』
そして完全に罪を吸収しその姿を変えた。
神々しい金色の装いに人型のシルエット、それはまさしく"ゼノメサイア"だった。
「まさかっ、聖杯に残った剣の力が……⁈」
『河島さんっ……!』
聖杯獣カリスの究極進化。
ゼノメサイアの源である二本の剣の力をその身に宿し更に罪を抱く事で完全と成った新たなゼノメサイアの誕生である。
『ハァァァッ!』
河島咲希は創 快に続く新たなゼノメサイアとして覚醒した。
つづく