現れた新たなゼノメサイア。
河島咲希が罪からの贖いを示した姿。
『テェアッ!』
飛び上がり天高く左手を掲げる。
その様子は他の部位と大きく違っていた。
左手だけがまるでインペラトルのように変形していたのである。
「なっ、何故君がその力を……⁈」
『聖杯の力、なんじゃないの?』
そして思い切りその左手を振り下ろしインペラトルの体を切り裂いた。
これまでにない大ダメージを喰らった新生は衝撃を受ける。
「聖杯にインペラトルの力を取り込んだ⁈ だからこんな火力……!」
新生は気付いた、攻撃をすればするほど咲希はそれを吸収し返して来ると。
自身が強ければ強いほど逆に勝てない相手であると。
「マズいね、攻撃が出来ない……っ」
そしてそれを察した快。
新生が攻めあぐねている隙に必殺技を放つ。
『ライトニング・レイ!!』
蒼白の雷撃がインペラトルに直撃する。
その衝撃で勢いよく吹き飛んだ。
『ナイス創』
そのまま咲希は左手の聖杯にエネルギーを溜めて光の剣を形成した。
そして思い切りインペラトルの体を切り裂く。
『ギルティ・ソード!』
そのままインペラトルはまだ形を残したまま機能を停止した。
快は無言で立っている咲希の姿を見てふと呟いてしまった。
『同じ仲間だ、"ゼノメサイアメイト"……!』
その瞬間、咲希のゼノメサイアはメイトと名付けられた。
___________________________________________
その後、新生は捕まりインペラトルも回収された。
瀬川たちTWELVEも何とか罪獣たちを撃退できたらしく一件落着。
そして新たなゼノメサイアメイトとして覚醒した河島咲希は重要な存在としてConnect ONEが管理する事となった。
「河島さん、お疲れ」
独房に入ったままの咲希に快は話しかける。
あくまで大罪人として厳重な管理下に置かれるようだ。
「新生さんは取調室が終わった後、君と同じような独房に収監されるって。何とか瀬川たちも罪獣倒せたみたいだしひとまず今回の件は落ち着いたって事で」
しかし咲希はまだ思う事がある。
「でもまだ敵は残ってる。力を貸したヤツが……」
「うん、それが終わるまで気は抜けない」
そしてもう一つ咲希に伝えるべき事を伝える快。
「あと一つ。護送車に乗ってた職員、小林さん達は無事だよ。怪我も少なくて全然元気だ」
「そう……」
その話を聞いた咲希は少し嬉しそうに微笑んだ。
「小林さんも推薦してくれてさ、君を戦力として使うようにって。だからこんな形だけど今も君は生きていられる」
本来ならすぐに処刑されてもおかしくないほどの存在だ。
それが今もこうして生きている。
「……こんな形だなんて、アタシは嫌なんて思ってないよ。まだ生きてやる事やれるだけで十分」
「そっか、よかった」
安堵して胸を撫で下ろす快に咲希は少し不信感を抱く。
「何がよかったなの……」
「なんか上手く言えないけどさ、前言ったみたいに沢山辛い事があっても小さな幸せのために頑張れてるなって思えたから」
「ふん、別にアタシは自分の幸せのためは思ってないよ」
そして先日の戦いの中で気付いた事を語り出す。
「自分のためじゃない、誰かの幸せのために生きるのが今出来る贖罪だって気付いたから」
インペラトルの中で見た快と愛里の姿を思い出し少し切なそうに語る。
「ま、それも幸せの形なのかもね」
その芯のある言葉に思わず快も関心してしまう。
「そっか……誰から学んだの?」
「はぁ?別に誰からとか無いし」
少し揶揄う言い方が出来るほど二人の精神は回復していた。
「アタシはただ愛里とアンタが一緒にいる幸せを守りたかっただけ、本当はアタシを愛して欲しかったけど……」
そしてもう一つ思った事を伝える。
「奪うヤツって親父みたいに見えて嫌だったの」
そんな言い方をする咲希に快はある提案をした。
「じゃあこの本を読むと良いよ、きっと次に君が気付くべき事が書いてる」
そう言って差し出した本の著者名を見た咲希は身震いしてしまった。
もう二度と見たく無い名前がそこには書いてあったから。
「これ親父の……」
「そうだよ、今の君なら理解してあげられると思って」
「理解って何を……言っとくけど親父の罪を赦すつもりはないよ」
「それは分かってる。ただ今を理解できればと思って……」
そして立ち上がり最後に快は一言。
「叔母さん、元気になると良いね」
それだけ言い残し快は去っていった。
誰も居なくなったのを確認して咲希は本を開きページを捲る。
「あ……」
まず開いた1ページ目にいきなりこのような事が書かれていた。
『この著書による印税は被害者遺族の方、並びに傷付けた私の家族に寄付する』
そこで咲希は快の言葉の意味を理解する。
これで叔母の負担を賄えと言うのだろうか。
「(でもまだアタシは……っ)」
なかなか覚悟が決まらない咲希。
震えていると本の隙間から手紙が一枚。
それは快からのものだった。
『君の叔母さんは元気を失くしてる、君たちの罪による支払いも沢山ある。だからこのお金だけ受け取る事を許してあげて』
その文字を見た咲希は思わず涙を流した。
「くぅ……っ」
手紙にポタポタと涙の雫が落ちるのだった。
・
・
・
独房から出た快を瀬川が迎えた。
満足げな表情をした快を見て瀬川は一言声を掛ける。
「どうだった?」
「うん、この赦しが大きな一歩になる気がする」
「そうか……」
瀬川も何か思う事があるらしい。
自身の父親の顔を思い浮かべていた。
「正直俺もさ、親父の事まだ完全に赦せた訳じゃないけど少しずつ前に進めてる。それもようやく理解し始められたからだと思うんだ」
「うん」
「俺だって罪がある身だ、精一杯償わなきゃな」
そのやりとりは新たな夜明けを予感させた。
___________________________________________
そして自衛隊駐屯地の取調室では。
新生と時止主任が向かい合っていた。
「っ……」
ガラス越しの隣の部屋ではTWELVEの隊員たちが息を呑んでその様子を見つめている。
当然だろう、かつての恩人が今は罪を犯しここにいるのだから。
それも自らを救ってくれた時からずっと裏切っていたと知れば尚更だ。
「蘭子ちゃん……」
竜司の隣では蘭子が涙を堪えながら震えている。
「あたし何も出来なかった」
「え……?」
「新生さんのこと捕まえるのに何も出来なかったよ」
竜司の視線に気付いたのか蘭子がそのような事を口にする。
流石の竜司も今は何か言ってやる事が出来なかった、彼自身も同じ気持ちだったからである。
「とりあえず久しぶりだね継一」
そして時止主任による取り調べが始まった。
あくまでかつての親友としての振る舞いを試みる、その方が相手も話しやすいと考えたのだ。
「いい表情になったね、やはり私が居なくなって成長できたのかな?」
当の新生はジッと何処か一点を見つめたままいつもの声で答える。
「お陰さまでね、君に頼りっぱなしだった事が身に染みたよ」
そして少し震えながらようやく自立できた自分の愚かさについて語って行く。
「俺はいつも君を信じて着いて来た、君が俺を必要としてくれたのが嬉しかったあまり簡単に力を貸してしまった……」
黙って新生は聞いている。
「その結果がこれだ、俺は何も出来ずにTWELVEのみんなや快くんに助けられてようやくここまで来れた。俺は間違っていた、信じたものも……」
しかしその発言に対し新生は声を上げる。
「いや、君が信じたものは間違ってないよ。私が正しい事は証明された」
「何を言ってるんだ……」
この後に及んでまだそのような事を口にするかと苦しくなってしまう。
「確かに私の計画は何度も失敗した、でもその度に彼らが立ち上がってくれた。私が提示した"人は不幸を乗り越えて幸せになる"という話は間違っていないと彼らが証明してくれたんだ」
ガラスの向こうにいるTWELVEたちに向けて言葉を連ねる。
「私という神が与えた試練、予想とは違う形だが乗り越えてくれたんだ」
蘭子は余計に苦しそうにしていた。
そして竜司たちも彼女を庇えないほどに苦しんでいた。
「あぁ……だからって人の身で神を気取って意図的にやるのは間違ってる……」
「河島咲希にも言われたなぁ。全く、彼女の母親とはまるで違う」
そこで時止主任は新生にある事を尋ねる。
「ちょうど聞こうと思っていた、河島咲希からも尋ねられたんだ。君と彼女の母親との関係性……」
「あぁ話すよ、もう隠す意味はない」
こうして新生は自らの過去を語りだす。
その話を聞いた一同は表情を激変させるのだった。
・
・
・
話が終わった後、TWELVEのところに時止主任がやって来た。
「おつかれ、本当に……」
どちらも酷く疲弊している。
あんな話をされては無理もないだろう。
「まさか継一にあんな過去がね……」
彼らはどのような話を聞いたのだろうか。
つづく