その日から快は自分に出来そうなバイトを見つけては何度も応募した。
しかし面接をしても障害者である事実や擁護をしたという点でことごとく落とされてしまった。
「はぁぁぁ、またダメだった……」
学校の裏庭のベンチに快は愛里と共に座りメールでの不採用の報告を受けた。
久々に自販機で買った缶コーラを飲みながら愛里と慰め合う。
「やっぱりまだ差別意識は消えてないんだね……」
「うん、心ではみんな怖がってる……」
分かっていても快の中で焦りは募って行く。
今は誠意を見せるためにも自分自身が成長するためにもバイトをしてお金を自力で稼がねば。
「でもどうしよう、このままだとまた昌高さんのお世話になる事に……」
すると噂をすれば。
突然昌高からメッセージが届いたのだ。
「え、昌高さん……?」
「噂をすればってやつだね」
内容を確認して快は驚く。
そこにはこう書かれていた。
『もしまだバイト決まってなければ連絡ください!知り合いに喫茶店を経営してる人がいて快くんのこと話してみたら面接して良いって!』
なんと昌高は快を気にかけ知り合いに話してくれたと言うのだ、頭が上がらない。
「マジか昌高さん、でも大丈夫かな……?」
しかしまだ心配は残る。
せっかく紹介してくれた所で落ちてしまっては申し訳がないから。
「とりあえず受けてみれば?この人も施設で働いてる人なんでしょ、事情は分かっての上だと思うし」
「そうだね……」
心配しながらも快はその店に行ってみる事にした。
自宅から割と近い所にあったので通いやすいというのもある。
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そして面接の日。
快は緊張しながらも学生服で身なりを整え喫茶店の扉を開けた。
「いらっしゃいませー」
すると年の近そうな女性アルバイトがいた。
彼女に面接に来た旨を伝える。
「えっと、アルバイトの面接に来た創と申します」
「あぁ、でしたら店長呼びますね。店長ー!」
すると店の奥から店長が現れる。
彼が昌高の言っていた知り合いだろう。
「どうもどうも、マサから話は聞いてるよ。快くんだね」
少し長い天然パーマに無精髭を生やしたイカつい姿ではあるが目が優しいためどうしても良い人にしか見えない店長が迎えてくれた。
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあこっちで面接するから、カウンターよろしくね」
女性アルバイトに店を任せて快を裏に案内する。
そこにある椅子に腰掛け向かい合い面接が始まった。
「じゃあ履歴書あるかな?」
「はい、こちらです」
緊張しながら快は鞄から履歴書を出そうとするが慌てて中身を床に散らしてしまう。
「あーっ……」
「ははは、緊張しなくて良いよ。まぁ今まで大変だったろうから無理もないけどね」
「え、もしかして昌高さんから色々……」
「もちろん聞いてるよ、君の事情も」
その発言で快は自身の障害に関する事などが知られてしまっている事に気付く。
「じゃあ何で面接受けさせてくれるんですか?」
「ウチで働きたいって言ってくれる人はみんな対象だよ?障害とか関係ないじゃない、大事なのは個人だから」
「っ……」
その言葉を聞いた快は思わず感動してしまった。
このご時世にまだそのように言ってくれる人が居たとは。
「だから昌高さんも……」
「そうだね、後でお礼言っときな」
そして面接は順調に進んだ。
昌高や愛里に伝えた志望動機など精一杯の誠意を込めて伝える。
店長は親身になって頷きながら話を聞いてくれた。
「うんうん、君みたいな人を探してたんだよ」
「そうなんですか?」
「元々ウチは色んな人たちが交流できる居場所になれればと思って店を開いたけど最近は差別のせいでそのコンセプトが崩れて来ちゃってね、悩んでたんだ」
そして店長はもう一度快の履歴書に目を通して言った。
「うん、じゃあ明日の放課後から来てもらおうかな」
「え、もう決まりで良いんですか?」
「ちょうど人手も不足してたからねー」
少し笑いながら言う店長。
快はようやくバイトが決まった事に喜びを覚えていた。
「……はいっ!」
こうして快はこの喫茶店、"ルドベキア"でアルバイトをする事となった。
しかし快が一度帰った後、アルバイトの女性は店長に言う。
「私は反対です、このご時世に障害者なんて……」
「一緒に働いてから考えようよ」
「まぁ……」
彼女は明らかに不服そうにしていた。
差別意識が残っているのだ。
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言われた通り翌日の放課後から快は喫茶店ルドベキアにやって来た。
制服というものはなくオフィスカジュアルなシャツにエプロンを羽織るというシステムだ。
「おぉ、様になってるねぇ」
店長は快の姿を見て手を叩いて喜んだ。
アルバイトの女性はやはり不機嫌そうだ。
「じゃあ西野さん、快くんに色々教えてあげて」
「え、私がですか⁈」
突然教える役割を与えられ驚く女性アルバイトの西野。
快は彼女が嫌がっている様子を少し察知していた。
「僕は他にやる事あるからさ、お客さんも少ないし暇でしょ?」
「まぁそうですけど……」
不服そうに西野は快にコーヒーの事を教えて行く。
しかし快は趣味として知識を蓄えていたためズバズバと答えて行った。
「ここで"の"の字ですよね」
「うん、合ってる……」
完璧にコーヒーを淹れる業務を熟す快を見た西野はやはり不服そうだった。
今は客が居ないので接客の仕事は教えられない、だからこそコーヒーの事しか教える事はないが上手くやってしまっている。
「ちょっと水飲んでくる……」
そして西野は快から離れた所で水を飲み呟いた。
「教える意味ないじゃない……」
そしてもう一口水を飲んだ途端に咽せてしまった。
快が心配して顔を覗き込んで来る。
「大丈夫ですか?」
「っ……!」
近くに苦手な障害者の顔がある。
それを感じた西野は思わず快から離れてしまった。
その弾みで背後にある洗い物を落として割ってしまう。
「あぁっ……」
すると音を聞いて店長がやって来て掃除を始めた。
「西野さん、気を付けてよ〜」
「すみません……っ」
軽く言う店長だが西野の気持ちは分かっていそうだ。
少し複雑そうな表情を浮かべている。
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そしてその日の業務が終わった。
快は店の片付けを終えた後エプロンをロッカーに仕舞い挨拶をしようと店長たちの気配を感じた店の方へ出た。
するとそこでは西野と店長が何やら言い合っている。
「やっぱり反対です、私あの人と一緒に働くのが怖い……」
「皆んなが皆んな君を傷つけた人のような訳じゃない、それは分かってるでしょ?彼だってこのご時世で大変なんだから少しずつ受け入れる体制にしていかないと」
「……だったら私が辞めます」
遂に西野はそのような決断をした。
店長は悲しそうな顔をする。
「手続きは追ってお願いします、じゃあお世話になりました」
そして去って行こうとする西野は快と目が合ってしまう。
しかし無視をして店から出て行った。
「残念だなぁ……」
すると店長も快の存在に気付いていたのか声を掛けて来る。
「彼女ね、どうしても君たちが苦手な理由があるらしいんだ。話してはくれないけどね……」
「そうですか……」
まだどうしても上手く出来ない事がある。
快はどうすれば彼女がこれ以上傷付かずに済むか、お互いに歩み寄れるかを考えるのだった。
つづく