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#5

 快と愛里はショッピングモールに買い物に来ていた。

 先日出来なかったクリスマス会のリベンジのために色々買い物をするのだ。

 すると電気屋の壁にかかったテレビから流れるニュースに目が行く。


「え……」


 その映像を見た瞬間、快は驚愕した。

 なんと生中継と書かれた画面に罪獣が映っているのである。


「どういう事だよ……⁈」


 それにその罪獣の姿にはどこか見覚えがあった。

 体の大部分が腐食し崩れているがヤツはどう見てもルシフェルだ。


「え、え……?」


 快の隣で愛里も戸惑っている。

 すると首からかけたグレイスフィアが輝いた。

 戦いに行けという事だろう。


「……行かなきゃ」


 何がどうなっているのかは分からない。

 ただ快は自分に出来る事をするのだ。


「俺に出来る事、やってくるよ」


 その声を聞いた愛里も覚悟を決める。

 恋人を送り出す事を決めた。


「うん、気を付けてね」


 そのまま快はショッピングモールの外へ行きゼノメサイアに変身した。

 そして現場に向かい決着をつけると誓うのだった。

 ・

 ・

 ・

 夕陽が照らす小さな街、その中に崩れたルシフェルが現れた。

 それを追ってゼノメサイアも出現、オレンジに染まった空の下で両者は向き合った。


『何なんだお前は……?確かあの時……っ』


 テレパシーを使い話しかけてみる。

 よく覚えていないが確かに快は覚醒した時に大天使ルシフェルを粉々にした。


『あっ、あがぅあぁぁっ……ギヒヒ、ビビってやがる……っ!』


 すると明らかに様子のおかしい返事が来る。

 その声はやはりルシフェルだ、しかし気が狂っているように感じる。

 明らかに正気ではない。


『アイツも粋だなぁっ、俺にこんなチャンスをくれるなんて……っ!神様に思えちまったぜ……!』


 恐らく新生の事を言っているのだろう。

 そしてそのまま勢いよく突っ込んで来た。


『グゥッ……⁈』


 予想以上のパワーに思わず吹き飛ばされてしまう。

 正気を失ったせいでパワーのリミッターまで外れたのだろうか。


『クソッ……』


 しかし体勢を立て直し反撃をする。

 突進攻撃を避けて中心にある顔面と思わしき部位に正拳突きを繰り出した。


『ぎゃああああっ!いてぇっ、いてぇよぉっ……!』


 苦しそうに悶えるルシフェル。

 あまりにオーバーなリアクションに思えるが次の瞬間、ゼノメサイアは戦慄する事となる。


『いいのかよぉ攻撃しちまって、コイツの身体なんだぞぉ!!』


 その発言が気がかりだった。

 快は思わず聞き返してしまう。


『コイツってどういう事だ……?』


 するとルシフェルの体に変化が。

 左肩の辺りがボコボコと変形していき何か人の顔のような形になっていく。


『なっ、何だよコレ……!』


 そしてその変形し現れた人の顔。

 見覚えのあるその顔は快の名を呼んだ。


「あがっ……かっ、かい……!」


 声色を聞いた、もう確信に変わってしまう。

 まさか今ルシフェルに体を奪われている主は。


『純希……?』


 何故純希の顔が自分の名を呼ぶのか、理解に苦しんだ。

 いや、予想はついていたが脳が理解を拒んでいたのだ。


『何でっ!純希がそこに……っ⁈』


 慌てながらルシフェルに問う。

 しかし相手は笑っているだけで答えはしない。

 そこへ別の場所からテレパシーが届いたのだ。


『ヤツは人の体を乗っ取る、今までもそうやって来たんだよ』


 テレパシーが届いた方に目をやるとそこにはもう一人のゼノメサイア、メイトが立っていた。

 咲希もここに来たのだろう、そして次々とTWELVEの機体もやって来た。


 ___________________________________________


 咲希の声を聞いて快は更に説明を求める。


『どういう事だっ、今までもって……』


 焦る快に咲希は歯を食いしばりながらも冷静に答えた。

 ルシフェルの真実についてである。


『ヤツは生命に取り憑く事でその肉体に自身の力を付与し操れる、これまでも色んな人に取り憑いては暴れて来た』


『その肉体は……?』


『当然倒したら死ぬよ……』


『〜〜っ』


 快は途端に吐き気がした。

 罪獣が元より人間だという話は聞いたがルシフェルに取り憑かれた人がいたと言うのなら明らかに自分はその人を殺してしまっている。

 より人殺しを実感させられてしまった。


『今ヤツが取り憑いてるのは……』


『純希だ……』


『そう……』


 咲希も当然純希の存在は知っている、小学校の頃は同級生だったためだ。

 あまり絡みはないが知っている人物がこんな目に遭うのは苦しい。


『でも今倒した所でルシフェルは死なないよな、今までもそうだったし……』


 何とか純希を助け出す方法を考えた。

 乱射事件の時も黒人男性に取り憑き自由に離れたのだから。


「よしっ、分析終わったよ!」


 しかしそのタイミングで蘭子が分析を終えたと無線で報告をして来た。

 データが各機体のモニターに転送される。

 そこにはルシフェルの現在の身体情報が記されていた。


「ヤツの生命は今極端に弱ってる、倒すなら今だよ!」


 蘭子の声が無線で響く。

 その場にいる全員の耳にしっかりと届いた。

 モニターの映像からは確かにルシフェルの核のような部位が無くなっている事が確認できる。

 しかしだからこそ快は焦ったのだ。


『ま、待って!』


 動き出したTWELVEの機体を静止して快は無線で例の事を伝えようとした。


『今のヤツには純希がっ!』


 その発言に他の一同も動きを止めてしまう。

 マッハ・ピジョンに乗る瀬川も驚き顔を歪めた。


「純希ってどういう事だよ……?」


 しかしその隙を突いてかルシフェルは更に猛攻を仕掛けて来る。


『グギャァオオォォッ!』


 躊躇していると逆にこちらが倒されてしまう。

 それを察した蘭子は一同を急かした。


「ヤバいよっ、このままじゃこっちが死ぬ!」


 自分たちや世界の危機という天秤にかけるには重すぎる代償がある事を思い知らされる。

 彼女らも焦っているのだ、それもそうだろう。

 一度しか会った事のないほぼ知らぬ男の命より世界を優先してしまう。


『はぁ、はぁ……それでもっ』


 ゼノメサイアは地面に突っ伏しながらTWELVEの機体に攻撃されているルシフェルを眺めていた。


「クソッ……」


 瀬川も歯を食いしばりながら攻撃に参加している。


『あぁっ、瀬川まで……』


 落胆している快の所へ咲希がやって来る。

 そして快の肩に手を置き寄り添いながら言葉を連ねた。


『辛いけどさ、やるしかないよ』


 咲希はあえてテレパシーを使わず全員に聞こえるように話した。


『今アンタに出来る事、ゼノメサイアとTWELVEの世間からの信頼を取り戻す事。協力して罪獣を倒す姿を見せなきゃ』


『でも……』


『ここで躊躇したらまた振り出しに戻るかも知れない、それでも良いの?』


『くっ……』


 こんなのあんまりだ、心がそう叫んでいるが何よりも奥底に眠るのは自分に出来る事をやらねばという気持ち。


『……純希が実感させてくれたんだ、出来る事をやるって意味』


 そう呟いてフラフラと立ち上がるゼノメサイア。


『英美さんに純希、俺に道を示してくれた人は何でこうなんだろうな……』


 最後にそう独り言を呟いてから一気に走り出した。

 そしてルシフェルの顔面を思い切り殴り飛ばす。

 覚悟を決めたのだ。


 ___________________________________________


 ルシフェルの上に馬乗りになりながら何度も何度も殴って行く。

 その構図はかつて小学校の頃に純希を攻撃した時の快と同じだった。

 その時に抱いていた感情を明確に思い出す。


『(殺したい、コイツ殺したいっ……!)』


 しかし今だから分かる、この瞬間は全く真逆の感情を抱いている事に。


『うわぁぁぁぁっ!!!』


 その気持ちを誤魔化すように叫びながら何度も殴る。

 喫茶店ルドベキアの店長が言っていた事を思い出した。



『この世界に生きる人の数だけ幸せは分配されなきゃいけない』



 これまでルシフェルに取り憑かれた人を殺してしまったという事実を知りその言葉の重みを感じる。

 知ったからといって純希だけを特別扱いは出来ない。


『グッ、ウゥッ』


 一通り殴った後、ルシフェルの顔面から目のようなものが生えて来る。

 ソレはゼノメサイアを、その中にいる快を見つめていた。

 すぐにそれが純希のものである事を察する。



『俺はさ、ただ感謝してるってのを伝えたかっただけだぜ』


『正直昔はお前のこと見下してたよ。そんな奴に救われたって気付いて自分も頑張らなきゃって思った、レスキュー隊目指してるなら尚更な』


『同時に自分のやった事とか気付けなかった事とかに腹立ったんだよ、昔の事はもちろん高円寺での事件の後に俺すごい偉そうなこと言ったよな……』



 この間の心を交わした会話を思い出す。

 その言葉が瞳から伝わって来た。


『俺だって……』


 快はそこで純希の目を避けながらルシフェルを更に殴り続ける。

 今度はあの時の自分の返事を思い出していた。



『いや、俺はあの時お前に救われたんだ。自分なんか何も出来ないと思ってたけどお前が"少しずつで良い"って言ってくれたから立ち上がれた……』



 そして右拳にエネルギーを溜める。

 罪を裁く神の雷をゼロ距離で思い切り放ったのだ。

 そのまま破壊され飛び散るルシフェルの……いや、純希の肉体。

 出現した目が次第に光を失っていった。


「っ……!」


 絶句してしまう瀬川。

 何も出来なかった、してやれなかった。

 そのような後悔が彼の心を埋め尽くしていた。


 辺りにはゼノメサイアから聞こえる快の絶叫が響いている、両手で顔を押さえ夕陽に照らされながら空に向かって慟哭していた。



『ははっ、何だよ。俺ずっと偉そうなこと言ったなって後悔してたのに!』


『いやいや、あの発言が無かったら危なかったよ!』


『だから俺は恩返ししたいと思うんだ』



 想いを伝え合った後に何気なく笑い合った事が忘れられない、脳裏にこびりついてしまった。

 何も出来ないまませっかく歩み寄れた新たな友人を失ってしまった快の絶叫は長く響いた。









 残りあと3界。

 次界、最終章参部作 壱

『第34界 イミビト』




 つづく

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