休憩室では他の陽以外のTWELVE隊員たち、瀬川と竜司と蘭子がテレビを見ながら頭を抱えていた。
テレビから流れるニュース番組では先日のルシフェル再出現に関する報道がされていた。
『事態はいつになったら収束するのか、度重なる安心からの不安に市民は夜も眠れません』
キャスターの導入があった後に市民への街頭インタビューへ。
『終わったと思ったのにまた罪獣が現れて、Connect ONEを信用できません……っ』
『新しいゼノメサイアも現れてまた何かとんでもない事が起こるんじゃ……?』
確かに市民の声も最もだろう。
それでも実際にその不安を向けられるConnect ONEの隊員たちは精神的に疲弊していた。
「……アタシもう無理かも」
そう口にしたのは蘭子だった。
これまでにないほど疲弊しているのが表情からも伝わる。
当然竜司たちも心配をしている。
「蘭子ちゃ……」
竜司がそこまで言い掛けたタイミングで蘭子は休憩室から出て行ってしまう。
何も言ってやれなかった竜司は歯を食いしばり悔しがった。
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廊下に出た蘭子はそこで歩いている他の自衛官たちの視線を気にしていた。
まるで自分を信用していないかのような、かつてゲーマーの仲間から外された時の事を思い出す。
「はぁ、はぁ……」
視界がぼやけ呼吸も荒くなっていく。
これは快と同じパニック発作なのだろうか、そう気付き快への罪悪感やそもそもの苦しさに押し潰されそうになっていると声を掛けられた。
「蘭子ちゃん、大丈夫……?」
一瞬でモヤが晴れた。
声の方を向くとそこには陽が立っていたのだ。
「あ、あんた……」
「具合悪そうだけど……」
廊下の隅の方で二人はお互いを見合い会話をする。
「別に大丈夫だし……っ」
それでも蘭子は陽の心配を無視しようとする。
しかし陽はそこでは諦めなかった。
「ダメだよ、歩み寄りには応えなきゃって話になったでしょ?」
去ろうとする蘭子の手を引きその場に留める。
「……あんないつの間にそんな意志強くなったの」
以前までは自分から何かを発する事など出来なかった陽。
しかし今はしっかりと自分の意志を持っているように見える。
「少なからず居場所はあるって思えたからさ」
その答えを口にする陽だが蘭子はその"居場所"という言葉に嫌気がさしていた。
「その居場所って言葉あたし大嫌いなの、そう言ってくれた人はみんな裏切ったから……っ」
内に秘めていた感情をぶつけてしまう。
「ゲーマーの仲間も新生さんもっ、みんなあたしを裏切ったの……!」
しかしそれを聞いた陽だが更に蘭子に歩み寄って行く。
「でも僕たちは同じ裏切られた存在だ、その部分を理解し合えるはずだよ」
「っ……!」
これ以上何も言えなくなってしまう蘭子。
更に陽は続ける。
「辛い所があるなら同じ辛さを知ってる人ならいくらでも居場所になれると思うから、僕たちを頼って欲しい」
その言葉を聞いた蘭子は気付いたら震えが収まっていた。
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そしてその頃、新生のいる独房にある人物がやって来た。
親友を名乗っていた時止主任だ。
「やぁ継一、話しに来たよ」
彼が来ても新生は表情を崩さず黙ったままだ。
ただ座りながら時止主任の顔を見つめている。
「どんどん物静かになって行くね」
その様子すらもなるべく暗くならぬよう冗談混じりに返す。
すると新生はようやく口を開いた。
「君こそ何だい、ただ私と話すためだけに来たのかな?」
しかし以前より遥かに距離を感じてしまう。
時止主任は分かっていながらもやはり悲しまずにはいられなかった。
「今回は色々と報告があってね、インペラトルの研究をさせてもらったからその結果だったり」
独房の前の椅子に座り紙の研究資料を取り出した時止主任はそのデータから推測できる新生の目的を問う。
「生命の樹を無理やり罪で侵食しその力を我が物とする、罪を抱いた君にこそ宿るんだね」
「その通り、よく調べてるね」
「皮肉な事にね、俺がやりたかった研究は君の愚行によって進んでる」
新生は笑っているが"愚行"と言われた事だけは心外なようだ。
「愚行とはね。誰も傷付かない、分かり合える素晴らしい新世界を創るんだよ」
「それを肉体も魂も全てを一つに繋げる事で成し得ようとするのは愚行だよ」
「へぇ、そこまで気付いたんだね」
インペラトルを調べる事で辿り着いた新生が企てた計画の真たるゴール、それは全てを文字通り一つにする事だった。
「間違ってるよ、身も心も物理的に一つにしてしまうなんて。こんな恐ろしい事はない……」
「何故人々が傷付くか分かるかい?一人ひとり異なるからだよ。だから争い合い余計な傷を負う」
そのまま新生は神話そのものの否定に入った。
「今の神による試練に何の意味がある?ただ傷を広げるだけ、この2000年間傷が広がっただけだ」
やはり彼は今の神を信仰していない。
時止主任は改めてそう実感した。
「だから私が新たな神となり意味のある試練を与える。一つになるというゴールを見つけたんだから、誰かが導かなきゃいけない」
少しずつ新生の口調に力みが見られて来た。
感情的になりつつあるのが分かる。
爆発するのは時間の問題だ、なので時止主任は先に自身の思う事をぶつけた。
「快くんを見ろ、TWELVEのみんなを見ろっ!彼らは互いに歩み寄る事を自分で導いた!現に少しずつその輪は広がっている!」
しかしその結果、逆に新生は落ち着きを取り戻し冷静に反論をした。
「間違った神による采配だよ、その証拠にまだ世界は障害者を弾いている。歩み寄ろうとする方が稀なのさ」
「くっ……」
何を言っても動じない新生の態度に苦しみを覚える時止主任は持っていた資料を床に叩きつけてしまった。
「これは?まだゴッド・オービスを改良するというのかい?」
散らばった資料の中から新生は一枚気になったものを指さす、そしてその詳細を聞いた。
「万が一君を救えたら、そう思って作ってみたよ。ルシフェルは死んだし、もう君には何も出来ないだろうがね」
時止主任がそう言うと新生は今までで一番大きくニヤリと笑いながら呟いた。
「いや、まだチャンスは残してある」
そう呟いた途端、自衛隊駐屯地の館内警報が鳴り響いた。
「何だっ⁈」
大きく鳴り響く警報に驚く時止主任を他所に新生は背後でずっとニヤリと笑い続けていた。
「来てくれたんだよ、私の信者が」
慌てて時止主任は立ち上がり外に出た。
周囲の様子を確認するためである。
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外に出ると自衛官たちが大騒ぎしていた。
その人混みを掻き分けて時止主任は自らに与えられた研究室に入る。
「あっ、みんな……!」
するとそこには既にTWELVEの隊員たちが集合していた。
Connect ONE所属の職員たちも数名がやって来ており状況の確認をしている。
「状況はっ?」
時止主任はすぐに職員に聞いた。
「人型の生命体が複数名攻め込んで来ている模様です、罪獣の反応があるため恐らくレギオンでしょう……っ!」
予想外の事態だった。
レギオンがまだ残っていたとは。
「機体がないからといって油断していた……っ!」
「しかし何故たったこれだけの人数を片付けられないっ⁈」
映像をチェックする限りレギオン達は遥かに数の多い自衛官たちを軽々と捻り潰しこちらへ向かっている。
その様子を見た時止主任は察した。
「……内に眠る罪獣の力だ」
新生が母親の罪とTWELVEの技術でドッキングしたように
レギオン達も機体の素体となった罪獣の力を身につけているのだ。
「前に言ったように彼らの内には罪獣が眠っている、その力を使い極限まで力を引き出されているんだ……!」
その話を聞いた職員である小林が反応を見せた。
「じゃあ体はそのままっ⁈ こんな力出されちゃいずれ壊れちまう……」
小林の言葉に時止主任も頷いた。
「それだけの覚悟という事だよ、彼らは継一を神のように崇めているんだ」
かつて中東で戦った少年兵たちを癒した新生の様子を思い浮かべる。
聖人君主のようであった彼の姿に傷付いた少年たちが惹かれるのは自然の事だろう。
「覚悟か……」
小林も何か思う事があるように呟いた。
そして次の瞬間、時止主任は苦肉の策を提案する。
「……やるしかないみたいだな」
重たく顔を上げて一同の顔を見渡す。
そしてある場所に連絡をした。
「もしもし、田崎参謀ですか?」
その相手とは自衛隊出身であり現Connect ONEのトップの一人である田崎参謀だった。
『何か分かったのか⁈ ヤツらは一体……っ?』
通話越しで向こうも焦っているのが伺える。
だからこそ覚悟を決めなければならない。
「その辺りも踏まえた作戦を考えました、説明するので指揮をお願いします」
時止主任は田崎参謀に思い付いた作戦を伝えるのだった。
ただ、その時の手は震えていた。
誰もがその震えた手に気付き冷や汗を流した。
つづく