配置についた後、時止主任は田崎参謀と無線でやり取りをしていた。
その場所は新生の独房がある棟だ、背後には大きな扉が。
周囲を守るように職員たちが武装をしている。
『本当に良いのですか、時止主任……?』
指揮を取る田崎参謀は無線で作戦での時止主任の立場を心配した。
何故なら彼も独房の前で武装をしているからである。
「良いんですよ、研究者の俺にこの場で出来る事なんて他にありませんから」
そして拳銃に弾を装填しながら過去を思い出していた。
「("あの時"以来だな、これを撃つのは……)」
脳裏に浮かぶのは生命の種を起動させた恵博士。
彼女を撃った感触は未だに忘れない。
『全員、配置につきました。後は迎え撃つだけです』
少し悲しげな声の田崎参謀は静かに作戦開始を告げた。
一同は敵が来るのを待っている。
その間に時止主任は一同を鼓舞するように言った。
「みんな、これまでTWELVEを支えてくれてありがとう。不満に思う事もあったかも知れない、けど君たちのサポートもあって彼らは戦えた」
無線で他の位置の者にも伝えて行く。
「互いに歩み寄り我々は強くなった、それを存分に示そう!次は君たちの番だ!」
その言葉と共に一同は声を上げる。
そして遂にその時がやって来た。
「……お出ましだ」
前方の長い廊下を見つめ呟く時止主任。
銃声の響く先の曲がり角から自衛官が現れた。
何かから逃げるように怯えている。
次の瞬間、彼の体は蜂の巣となった。
同時にレギオンが二名現れたのである。
「総員っ、戦闘体勢!」
職員が四人、前に出てマシンガンを連射する。
しっかりと隊列の組まれた部隊相手には流石にレギオンも苦戦を強いられるようで素早く物陰に隠れた。
それでも一名の右肩に被弾をしてしまったらしい。
「一発命中っ!」
その勇姿を見た時止主任は感心していた。
「やるなぁ君たちっ!」
すると職員は視線だけをこちらに向け言った。
「こっちが本業ですから!」
いつもの職員たちがこんなに頼もしかったとは。
時止主任はこの戦いに活路を見出していた。
「(勝てる、勝てるぞ……!)」
いつもの巨大生物ではなく人との戦いだがここでこそ彼らConnect ONE職員は活躍していた。
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一方でTWELVE隊員たちは三名の職員が護衛しその場から離れていた。
護衛する職員の中には小林もおり、瀬川の父親も共に逃亡していた。
「へっ、まさかここに来て白兵戦とかっ!」
小林は不安を誤魔化すように笑いながら言った。
ようやく自分たちの活躍を見せられると言うような風貌だ。
「あのっ、時止さん達は大丈夫なんですかっ⁈」
着いて行きながら瀬川が小林に問う。
すると小林は少し考えるような素振りを見せた。
「あぁ……」
どこか歯切れの悪い返事をする小林の脳裏には先程の時止主任による言葉が浮かんでいた。
『……やるしかないみたいだな』
手を震わせながらそう言った時止主任の心中を察していた。
彼はレギオン達と同様に"覚悟"を決めたようだ。
何の覚悟か、それは何となく察していた。
しかしTWELVEの一同はそれを信じたくないらしい。
「ちゃんと答えて下さいよっ!」
瀬川は余計に焦りを見せながら小林に問うがそこで父親に止められる。
「抗矢、分かっているんだろう?」
走りながら瀬川の父親は悔しそうに伝える。
「我々を逃すために彼らは……」
「そんなこと言うなよ!だってこれは新生さんがっ……」
瀬川は最後まで聞かずに父の話を遮る。
父の言いたい事は察してしまったがそれを呼び寄せているのが新生だと言うのならあまりに救いがなさすぎる。
「間違ってないっすよ、瀬川元参謀」
しかし小林は彼の言葉を肯定した。
何故なら自分も時止主任と同じだったからである。
「貴方のこと信用してなかった、でも今はこうして護衛してる事に疑問は抱いてません」
すると背後から一人分の走る音が聞こえる。
レギオンが一人ここまで来たのだろう。
全員がそれに気付いていた。
「お前らの事も何で選ばれたのか分からなかった、でも散々見てきて分かったよ」
TWELVE隊員たちの方を見ずに彼らに伝える。
「今の切り札はお前たちだ、時止主任が"ソレ"を託したな」
蘭子の方を指差した小林。
そんな蘭子の手にはかつて時止主任が持っていたゴッド・オービスの力を引き出すカードキーが握られていた。
『蘭子、君も覚悟が決まればそれを使うんだ』
戦場に立つ前、時止主任は蘭子にそう言ってこのカードキーを手渡した。
それが意味する事を理解したくはなかったが受け入れるしか無いらしい。
「っ……!」
蘭子は目に涙を浮かべながら託された。
そして小林を含めた職員の三人は現れたレギオンの方に向かい武器を構える。
「お前らに出来る事はこの先にある、なら俺に出来る事はしっかり守り抜く事だ!」
自分に出来る事、それを理解し覚悟を決めた小林たちはレギオンに立ち向かった。
「今のうちだっ!」
名倉隊長が率先しTWELVE隊員たちを率いて共にその場から離れる。
「ほら、蘭子ちゃんもっ!」
そして竜司が蘭子の手を引いていた。
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Connect ONEのいる自衛隊駐屯地が襲撃された件は瞬く間にニュースとなった。
報道ヘリが黒い煙の上がる敷地内を撮影している。
その様子を見た快の関係者たち、彼女らは愛する者の心配をするのだった。
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そして現場ではたった数名のレギオンに対し自衛官が総出で挑んでも苦戦を強いられている。
罪獣の力を持つ存在と戦うのはそれだけ厳しい事なのだろうか。
しかし指揮官が加わり隊列を組んだ自衛官たちは少しずつ反撃の糸口が掴めて行った。
「西口付近、レギオンを二人撃破しましたっ!」
「よしっ、このまま終わってくれると良いのですが……」
田崎参謀も久々に自衛官たちの指揮をとり緊張しているがその実力は本物であった。
「マズいっ、ここにレギオンが一人来ますっ!」
それでも司令室を攻められてはおしまいだ。
だからこそ今ある最大戦力で司令室を守っているのである。
『ハァッ!』
司令室に迫るレギオンを一瞬で蹴散らしたのは河島咲希だった。
自らの内に宿る天の聖杯を使いレギオンにも対抗できているのだ。
「レギオン、残り三人ですっ!」
「これならば……っ!」
口角が上がる田崎参謀。
後はこの三人を撃破すれば終わる。
そう思っていた。
「……ふふっ」
その頃、独房では新生が一人で笑っていた。
そして一言だけポツリと呟いた。
「流石にこれだけの数を操りながらやるのは難しいなぁ」
瞳を赫く光らせながら意味深にそう呟く。
そして次の瞬間、この駐屯地は大きく揺れた。
「何だっ⁈」
その場にいる自衛官や職員たちは焦りを覚える。
まだ敵は何かを隠していたというのか。
『ヴォオオオオンッ……』
凄まじい雄叫びが響く。
その方向を見てみると予想外の光景が飛び込んできた。
「なっ、アレは……」
モニターで見ていた田崎参謀も驚愕している。
「インペラトルっ、何故パイロットも無しに……⁈」
かつて新生が搭乗した彼の母が宿る機体、インペラトルが突如として起動し動き始めたのだ。
格納庫で研究材料とされていた彼女が動き出す、それは悪夢の幕開けだった。
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インペラトルが動き出した衝撃は敷地内全域に伝わった。
もちろん時止主任たちが戦う独房前の長い廊下にも。
「ぐっ、何だ⁈」
大きな揺れが職員たちを驚かせる。
そしてその場に倒れ込んでしまった。
「あっ……」
生まれてしまった隙が災いとなった。
二人のレギオンの内の一人がこちらに手榴弾を投げ込んで来たのだ。
目の前で起こる大爆発、それに巻き込まれた一同は大きく吹き飛んでしまった。
「ぐぁぁっ……」
煤を全身に浴びた時止主任。
怪我は少なかったが大半の職員がやられてしまったらしい。
そして煙が晴れると目の前にレギオンの姿が。
「マズい……!」
突き立てられたナイフを慌てて掴み受け止めるが相手の力は予想以上だ、このままでは押し切られてしまう。
そこへ。
「おぉっ!」
生き残っていた職員が立ち上がりそのレギオンの頭を撃ち抜いた。
「助かったよ……」
「はいっ……ぐがっ」
しかし安心するのも束の間、時止主任を助けた職員はもう一人のレギオンにナイフで首を裂かれてしまった。
そしてそのレギオンは立ち上がった時止主任にも迫る。
「あっ……」
そして気がつくと腹部に熱いものが流れるのを感じた。
それは激しく脈打っている。
「ぐふっ、かっ……」
吐血し膝から崩れ落ちてしまう時止主任。
そのままレギオンは一人で独房の方へ入って行った。
「…………」
薄れゆく意識の中で時止主任は独房が開かれる音だけを聞いていた。
そしてぼやける視界には用意された上着を羽織り堂々と外へ出る新生の姿。
「ふふっ」
彼は一瞬だけ時止主任の目を見て優しく微笑んだ。
まるで死にゆく者を悼むように。
「つぎ、いち……」
呼びかけるも声は届かないまま、新生は廊下の奥へと歩みを進めて行った。
目的地は検討がついた、このままでは世界が危ない。
時止主任はTWELVEの隊員たちの事を想いながら瞳を閉じた。
つづく