小林たちの所にもインペラトルの影響は届いた。
揺れにより足元がふらついた隙に肩をナイフで刺されてしまう小林。
「ぐっ……」
予想以上の激痛が走るがこれくらいどうって事はなかった。
「やっと俺たちの番が来たんだっ、これくらいっ!」
そして相手のナイフを持った腕を掴み思い切り引いた。
額に頭突きを喰らわせ怯んだ隙に何発も拳銃を撃ち、遂にレギオンは沈黙した。
「はぁ、クソがっ……」
レギオンを一人倒した小林。
その周囲では他の仲間二人が無惨にも散っていた。
三人がかりでギリギリ一人を倒せたのである。
「一体撃破、応答願います」
司令室へ無線を入れる小林。
すると慌てた様子の田崎参謀が応答した。
『マズいですっ、そちらにヤツが……!』
しかし聞いた時にはもう遅かった。
背筋に凍るような悪寒が走る。
視線を背後に向けるとそこには言われた通りのヤツがいた。
「おいおい何でだよ……っ」
そのヤツとは当然、新生である。
一人のレギオンを連れて微笑みながら歩いて来るのだ。
その威圧感は底がしれない。
「くっ……」
しかしその程度で負ける訳には行かない。
やっと活躍が出来るのだから。
「(今の俺なら……っ!)」
アドレナリンに任せて走り出す。
新生目掛けて、ヤツを殺すために。
「おぉぉぉっ!」
しかし勢いも束の間。
新生が手を伸ばすと背後のレギオンが高速で射撃をしたのだ。
一瞬で撃ち抜かれてしまう小林。
何も言えずに吐血し倒れ込んでしまった。
「やれやれ」
それを見た新生は表情を崩さぬままそうとだけ呟いた。
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TWELVE隊員たちもインペラトルの出現に気付く。
つまり自分たちに出来る事が目の前にやって来たのだ。
「あれは……」
名倉隊長が歯を食いしばり指示を出す。
「……格納庫へ向かおう」
その声を聞いた一同は覚悟を決める。
「俺たちも出来る事をっ!」
「了解っ!」
その声を聞いた瀬川の父親は関心していた。
「(やはり君たちは……っ!)」
TWELVE隊員が格納庫へ向かって走り出す。
丁度そのタイミングである存在が現れた。
『デアッ!』
咲希がメイトに変身しインペラトルに戦いを挑んだのだ。
彼女が食い止めてくれるなら安心して格納庫へ向かえる、そして加勢すれば確実に勝てる。
「よしっ、このまま行くぞ!」
格納庫の扉を開け中へ入る。
するとインペラトルが動き出した影響で中は崩れ瓦礫の山と化していた。
「行くしかないか……っ」
覚悟を決め瓦礫の山に入っていく。
そして全員でゴッド・オービスの前にやって来た。
するとある事に気付く。
「これ、生命の種か……」
目の前の大きな壁も崩れ、ゴッド・オービスと向き合うように生命の種が剥き出しとなっていたのだ。
「全員乗り込め、ドッキングさえすれば何とか動かせるはずだ!」
もうオペレーターや職員たちはそこにいない。
自力で無理やりにでも起動させる必要がある。
そのため各機体に乗り込もうとしたその時。
「っ……⁈」
突如として目の前にあった瓦礫の山が片付けられた。
まるで凄まじい超能力でも使ったかのように。
「おや、みんなお揃いで何してるんだい?」
瓦礫が退かされた煙が晴れるとそこには新生が立っていた。
やはり生命の種を狙いに来たのか。
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TWELVE隊員たちはその顔を見て驚愕する。
出来ればもう考えたくもなかった、その顔が目の前にあるのだ。
自分たちを組織に引き込んだ時と同じように微笑みながら。
「もう君たちに出来る事は終わったよ、ご苦労様」
余裕そうに言う新生。
しかし名倉隊長は声を上げた。
「俺たちはっ……」
そこまで言いかけた途端、天井が大きく崩れた。
「うわっ……!」
なんとそこからはインペラトルがやって来たのだ。
右手でボロボロのメイトの首根っこを掴んでいる。
『グアァ……ッ』
そのままメイトは崩れ落ちTWELVE隊員たちの目の前で咲希の姿へと戻った。
「河島さんっ!」
瀬川は慌てて彼女に駆け寄る。
少し首にアザが出来ているが大きな怪我は見られない。
「新生さんっ、何でそこまでっ!」
「何度も話しただろう?この世界は一つにならなきゃいけない、誰かがやらなきゃいけないからやるだけだよ」
やはり新生は世界を物理的に一つにするつもりだろう。
「我々が虐げられる世界は終わる、それが我々こそが選ばれし者だという何よりの証明になるんだよ。君だって嬉しいだろ?高いインディゴ濃度を持つ発達障害者として生まれた事に誇りを持てるはず」
そのまま歩みを進める新生と彼に着いていくレギオン。
TWELVEの彼らは何も出来ずに固まってしまった。
そこへ。
「結局自分のためじゃないか継一っ!」
一発の銃声が響く。
その瞬間、新生を庇ったようにレギオンからは血が流れその場に倒れた。
突然放たれた弾丸から主を守るために絶命したのである。
「おや、まだ生きていたんだね」
振り向くとそこには腹部を押さえた顔色の悪い時止主任が。
拳銃を片手に構えている。
「時止さんっ!」
TWELVEの一同も彼の登場に反応を示した。
「防弾チョッキしてるからね、痛いけど死にはしない……っ」
新生はそんな時止主任の持つ拳銃を見ていた。
「どういう意味かな、結局自分のためとは?」
かなりの威圧感を放ちながら時止主任を笑顔で睨む。
「高いインディゴ濃度を持つ発達障害者が世界を導く、そう言ってるけどね……」
そして時止主任は真実を語り出す。
「そんなデータはどこにも無いんだ、発達障害者のインディゴ濃度が高いなんて」
その一言が放たれた途端、新生は額の血管がピクリと動いた。
「確かに発達障害と高いインディゴ濃度は共に発現しやすいというデータはある、でもそこ自体に関係はない。どちらかが無くともどちらかが発現する可能性がある」
その証拠となる事実を一つ突きつけるのだった。
「現に僕は発達障害を抱えてないけど高いインディゴ濃度を持つ、だからこそ自分自身を研究材料にしゴッド・オービスを完成させた……っ!」
そこまで理解したTWELVE隊員たち。
その中で竜司は当然の疑問を抱く。
「じゃあ何でわざわざ俺たちを選んだんですか……⁈ そこに意味は……」
その疑問に対し時止主任は少し残念そうに答えた。
新生の方を見つめながら、彼に確認するかのように。
「証明したかったんだろ?自分たちが特別だって、苦しんだ事に意味はあるって……!」
その言葉を聞いた新生は突然表情を一変させた。
先程の微笑みから一気に怒りを溜めているような表情へ。
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新生は沸々と湧き立つような怒りを見せ時止主任に迫る。
「やはり君は危険だよ、母の言った通りだ」
自らの一言により豹変した新生を見た時止主任は確信した、まさに図星であったと。
「認めたな、所詮君は……っ」
しかし少しずつ感情を露わにしていく新生により遮られてしまう。
「君に分かるかい、大した罪も犯していないというのに虐げられる者の気持ちが?」
そして遂に明かされた過去に関する事を語り出した。
「父は誰にも迷惑なんてかけていなかった。母もヘルパーさんも自ら進んで愛し合っていた、幸せだったんだ!」
明確に幸せを思い出し歯を食いしばる新生。
「なのに世界は"君のためを想って"と抜かし幸せを奪った、自分の価値観だけで僕は不幸だと判断したんだ!」
目に涙を浮かべながらTWELVE隊員たちの方を見る。
「君たちの言う"歩み寄り"が僕を傷付けたんだ」
それを聞いたTWELVE隊員たちはショックを受けてしまう、新生がその言葉を嫌っていたなんて。
「みんなお互いを知らなきゃいけない、その人にとって何が幸せなのか。他人を知らなければ始まらない……」
だからこそ思い付いた計画を語る。
「だから世界は一つに繋がるべきだ。恐ろしいかも知れない、それまでは。しかしその試練を乗り越えればこれまで得た全ての喜びや苦しみを分かち合える素晴らしい"新世界"が生まれる!」
それが新生という神が与える試練だと言うのか。
「誰もが等しく同じ人間であると理解できれば次第に歪み合う事のない幸せを感じられる世界と成るだろう!」
しかし時止主任は黙っていられない。
「ふざけるなっ!それこそ君のエゴじゃないか!それじゃあ……」
言葉を詰まらせてしまうが何としても伝えるのだ。
「未来がないじゃないかっ……!」
震える手で拳銃を向けながら言い放つ。
「もう未来なんてないよ、だからこそ過去を思い出し"今"を幸せに感じられるようにするんだ」
そしてそう言い切った新生を遂に撃つ覚悟が決まった。
「継一っ……!」
時止主任は思い切り引き金を引こうと指に力を入れる。
そして。
「っ……!」
その場に一発の銃声が響いた。
「え……」
時止主任は首に違和感がある事に気付く。
自分はまだ引き金を引いていない、ならば誰が?
新生だって拳銃は持っていなかった。
「何で、君が……っ」
突然、首に弾丸を受けた時止主任は出血を起こしながら倒れてしまう。
その言葉を向けた対象とは。
「う、嘘だろ……?」
竜司や名倉隊長も驚いている。
そして何より蘭子が誰よりも絶句していた。
「君を残しておいて良かったよ、アモン」
時止主任を撃った者の正体、それは陽の体を使ったアモンだった。
しかし何故か彼も手が震えている。
「チクショウ、最悪だ……っ」
まるで自分の意思とは反していたかのようにアモンまで絶句しながら煙の立ち上る拳銃を構えていたのである。
つづく