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#5

 陽の体を使い時止主任の首元を撃ち抜いたアモンは思わず拳銃を落としてしまった。


「はっ……?なっ、何してやがんだ……っ⁈」


 驚愕しながら新生の方を見ると何やら力を使ったような瞳の色をしている。

 紫色に光る瞳、それはバベルを象徴したものだった。


「時止さんっ!」


 瀬川は慌てて倒れた時止主任に駆け寄り溢れる血を止めようとした。


「陽っ!いや、アモンか……?」


 竜司も思わず声を上げてしまうがまだ状況が掴めず行動するのを躊躇してしまう。


「お、俺……」


 アモンも膝から崩れ落ちてしまう。

 そしてすぐに人格が陽のものに切り替わった。


「アモンっ、何やってるんだ……!」


 陽も自分の手で"ソレ"が行われた事を恐ろしく思い震えてしまった。

 その様子を見ながら新生はまた微笑み出した。


「そうかっ、罪獣を操る力っ……」


 すると首から血を流し倒れていた時止主任が吐血しながら呟いた。


「えっ、てか喋らないで下さいっ!」


 喋るたびに血が吹き出す時止主任の首を押さえる瀬川。

 それでも時止主任は最期を悟り気付いた事を伝える。


「その身に宿したっていうのか……っ!」


 その声を聞いた新生は心配などせずに答えた。


「その通りだよ、ルシフェルが死に次の神候補であった私にバベルを司る力が移された。罪を宿す者は私と一つになる」


 紫色に光る瞳はそういった意味らしい。


「じゃあこのインペラトルも……」


「我が母だよ、まず彼女と一つになれたんだ」


 嬉しそうにインペラトルを見上げる新生は遂にその計画のための大いなる一歩を踏み出す。


「そしてこれから世界と一つになるっ!」


 インペラトルは新生の体を掬い上げるように手を差し伸べ新生もそれを受け入れる。

 そして新生はインペラトルの掌の上に乗り祈りの姿勢を取った。


『フォオオオオンッ』


 インペラトルは宙へと浮かび聳える生命の種の上へと立つ。

 全てを手にする準備が整った。


「さぁ共に生きよう、我々世界は家族だ!」


 両手を大きく広げ発せられるその一言により全ては一つへと向かっていくのだ。


 ___________________________________________


 両手を大きく広げた新生と彼を掌に乗せるインペラトル。

 それらは紫色に輝き出し真下に聳える生命の種へと吸い込まれて行った。


 その途端、同じように紫色に輝く生命の種。

 まるでこの世の終わりを示唆しているようだった。


 しかしこれは新たなハジマリである。

 新生はまさにそれを望んでいた。

 遂にその時がやって来たのだ。


 生命の種ではそこに生きる全ての魂が一つと成っていく。

 新生という一人の魂を核とし新たな一つの生命を形作って行くのだ。


 そして完成された瞬間、生命の種は大きくヒビ割れ破裂した。

 破片が美しく舞う中、新たな神候補が誕生する。


 まるで生命の種を卵としそこから孵ったのだ。

 まさに人が神に昇ろうとしている象徴のようであった。


 禍々しくも神々しい姿、質感はゼノメサイアと酷似していたが明らかに違う存在だという認識が出来る。

 頭上には天使の輪のように神へと通じる"ゲート"が拓き力を蓄えていた。


『オォォォッ!』


 天高く昇っていくその姿、神より邪神。

 人々にとって存在への否定が誕生した。


 空が紫色に光り、向こうにはもう一つの世界が見える。

 そこから舞い降りるヒトの素体たち。

 生きた人々の魂をライフ・シュトロームへ導くため街の蹂躙を始めた。

 その中心で両手を広げる"彼"はこう名乗った。



『我が内に宿る忌み人たち、"レ・アボミネンス"成』



 その姿を世界に表したレ・アボミネンス。

 神に望まれぬ世界の交配、ジェネシス・リセットが始まろうとしていた。






 残りあと2界。

 次界、最終章参部作 弐

『第35界 ゼノメサイア』



 つづく

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