忌み人、レ・アボミネンス降臨。
東京の空から世界を見下ろすその姿はまさに舞い降りた神のようであった。
紫色に光るもう一つの世界との中心に立ちそれら全てを一つに繋げようとしている。
地上では救いという名目でヒトの素体が街を蹂躙していた。
『オォォォッ』
頭上には天使の輪のようなゲートが拓きそこから神の力を注がれている。
ただ、ヤツはこれだけでは満足できないらしい。
『これがゲートから注がれる力……!私と母の二人分拓れている、かの大天使を超える力だ……っ!』
アボミネンスの意識の中で新生はゲートに手を伸ばした。
ゲートの中へ新生の右手は入るがその中は彼が想像していた以上に広大だった。
まるで生命の宇宙である。
『なるほど、自ら生命の根源を手にしろという事だね』
そのまま新生の意識はライフ・シュトロームの中へと流れて行った。
生命の根源をその手に掴み、真に神と成るために。
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『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』
最終章参部作 弐
第35界 ゼノメサイア
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レ・アボミネンスが降臨した時、真下にいた瀬川たちは爆風に呑まれそうになってしまった。
そこへ一筋の光が舞い降りる。
『セアッ!』
ゼノメサイアが、創 快が現れたのだ。
身を挺してその場にいた全員を守り抜いたのである。
「快っ!」
そして爆風が治った頃、快は変身を解いて彼らの所へ。
「ごめん、遅くなった……」
自衛隊駐屯地の惨状を見た快は到着が遅れたのを嘆いた、しかし瀬川はその事情も理解していた。
「葬式だったんだろ……?」
「あぁ……」
純希の葬式に行っていたため快は遅れた。
斎場を出た後に悲劇を知ったのだ。
「時止さん……」
そして視線は首元から出血し意識が遠のいている時止主任の方へ。
瀬川が必死に止血しようとしているがもう助かりそうにない。
「ゼノ、メサイア……いや、創 快くんか……」
「はい、俺は創 快ですよ」
英雄の名ではなく人としての名で快を呼ぶ。
それに快は答え近くに寄った。
「継一はっ、"弱い人"だ……それを聞いたなら分かるだろ……っ?」
「俺に出来る事ですよね、任せて下さい」
「あぁ、よかった……」
そう告げると時止主任は眠るように目を閉じた。
その意味を悟った一同は強く歯を食いしばり涙を流した。
「くっ、時止さん……」
支えてくれた希望の死を悼む一同。
しかしその中で快はすぐに立ち上がった。
「行こう、出来る事をやりに」
戦いに行く宣言をする快。
しかしTWELVE隊員たちは動けなかった。
「無理だよ、こんな想いしてまで世界のために戦えっての……?」
とうとう蘭子が我慢し切れなくなり声を上げる。
それでも快はしっかりと彼女にも向き合った。
「いや、新生さんのためですよ。彼もきっと俺らと同じで愛を求めてるんだ、なら与えに行こう」
その言葉を聞いた一同は更に驚く。
まさか彼を救おうと言うのか。
「それこそ無理だっつーのっ!あんな事したヤツ……今更!」
蘭子は否定し続けるが快はそこから思い切り頭を下げる。
「お願いします!出来る事があるならやらなきゃ……」
そして顔を上げた後、彼らに手を差し伸べてある事を言う。
「今、貴方たちが必要なんだ……!」
それは修学旅行の時、快が自身の在り方に不安を抱えていた時に名倉隊長が言った事だった。
思わず彼らもハッとして顔を上げてしまう。
「何で、何であんなヤツにそこまで出来るの……?あんただって友だち殺されたのに……!」
純希の事を問う蘭子。
その事について快は少し考えた後に答えた。
「終わらせるために赦さなきゃって思ったんですよ」
しかし蘭子はまだ反発している。
「だからその赦しって……それが出来ないって言ってんじゃん!」
それに対し自ら気付いた真理を語っていく。
「確かに単純に罪を許す、相手にもう良いよって言うだけだとこっちが報われなさすぎる……」
瀬川は快の成長を見守るように聞いている。
次の言葉を待っていた。
「だからある程度自分の中で折り合いをつける事が大事なんじゃないかなって思ったんです。辛い事はそのままだけどそれに捕らわれたままじゃいけない」
「快……っ」
ずっと見て来た親友。
あの弱々しかった快がこんな言葉を発せられるようになったのだ、非常に胸が熱い。
「そうすれば気付かない内に憎しみは小さくなってく、他の幸せが埋め尽くしてくれる。それで余裕が出来て憎かった相手の事も思いやれるようになる」
必死に訴えかけるような快の表情に一同はみな心を奪われていた。
あの弱かった青年がここまで成長するとは、誰も予想がつかなかったからこそ新生をも変えられる説得力を生んだのだ。
「それが憎しみの連鎖を止められる赦しの意味だと思うんです、だから俺は新生さんに愛を伝えたい」
気がつくと一同は立ち上がっていた。
そして倒れていた咲希も快の言葉を聞いて何かを思ったように微笑んだ。
「(あのガキがこんなね……)」
咲希の脳裏に浮かんだのは参観日の時、両親からの愛を跳ね除けた快の姿だった。
あの子供がここまで成長するとは。
「だから行こう、みんなで新生さんに愛を伝えるんだ……!」
こうして最後の戦いへ向ける準備が始まるのだった。
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自衛隊駐屯地で生き残った職員たちは必死に作業をしていた。
TWELVEの機体をメンテナンスし最大限の力を発揮させるためである。
「総動員です、30分で終わらせましょう!」
その指揮は田崎参謀が執り行っている。
今こそ一同は一つとなっているのだ。
「本当に一つになるってのはこういう事だと思うんだ」
竜司が口を開いた。
隣には気まずそうにしている陽と蘭子が。
まだ彼らは完全に気持ちの整理が出来た訳ではない。
「それが生み出す機体で戦えるなんてピッタリじゃねーか」
そして蘭子が持つ時止主任からもらったカードキーについて尋ねる。
「蘭子ちゃん、そのカードキーどうするつもり?」
「分かんない、あたしはまだ意味が分かってないよ」
このカードキーが新生を救う切り札になるらしい。
これ自体は快を救う時にも使ったがよく分からないまま上手く行ってしまった、インペラトルの研究で改善されたらしいが。
「ゴッド・オービスを覚醒させるやつだろ?それなら尚更俺たちも一つになってなきゃいけねぇ、陽もな」
「ぼ、僕は……」
「何言ってんだ、ずっと戦って来ただろ?それに操られた事だって証明されてる、歪み合う理由がどこにある?」
「僕はただアモンが不憫で……それにまた乗ったら操られるかもだし」
親友であったアモンを心配する陽。
そこで竜司はある提案をする。
「だったらお前が乗れば良い、交代しないでお前のまま乗れよ!それならライフ・シュトロームだってお前のままだろ?」
陽のライフ・シュトロームのまま機体と一体化しドッキングをすればこれ以上侵食される心配はなくなる。
そこを見据えた提案だった。
「僕自身で新生さんと向き合うのか……」
「あぁ、そっちの方が良いだろ?」
「うん、それならやるよ……っ」
それを聞いていた蘭子にも提案する竜司。
「これなら心配いらないだろ蘭子ちゃん?」
「う、うん……」
半ば強引だったが竜司の提案によりTWELVEは一時のまとまりを見せた。
後は準備を整え戦いに行くだけだ。
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一方で名倉隊長と瀬川はある延命室の前にいた。
そこからガラス越しに見える装置には小林が眠っている。
「コイツも俺たちを守ってくれた、一つになれた相手だ」
「目を覚ました時、それが叶った世界が見えるようにしてやりましょう」
名倉隊長と瀬川はそのようなやり取りを行う。
「お前は良いのか?厳しい戦いになる」
「ずっと決めてますから、快の夢を叶えるサポートをするって」
ここでもTWELVE隊員たちは覚悟を決めていた。
それぞれ愛する者のために立ち上がるのだ。
つづく