戦いのために覚悟を決める咲希が廊下のベンチ手紙を読んでいた。
それは快から渡された父の書籍に挟まっていた手紙である。
叔母が治療費や賠償のため印税を受け取る事を許して欲しいという話だ。
「(許す、ね……)」
先ほど快が言っていた赦しの意味。
それを踏まえてもう一度父親と叔母の事を考えてみる。
すると曲がり角の方から話し声が近付いて来る。
その声の主はすぐに姿を現した。
「うん、だから行かなきゃ……あ」
スマホを耳に当て誰かと電話をしている快の姿がそこにはあった。
咲希に気付いて歩みを止める。
「え?あぁ、ちょっとね……」
電話相手にそう言った後、快は咲希に近付き手に持ったスマホをなんと差し出して来たのだ。
「ほら、話してみて」
意図は分からなかったが言われるがままにスマホを手に取る咲希、そして耳に当てすぐに聞こえて来る声に驚いた。
『もしもし?えっと……』
相手を咲希だと認識していないが咲希はすぐに分かった。
この声の主は最も愛する存在、愛里だ。
「あ、愛里……?」
『え、うそ……』
名前を呼ぶ事で愛里も相手が咲希だと認識したらしい。
その途端に予想した通り絶句してしまう。
気まずい沈黙が流れた、快もその様子を固唾を呑んで見守っている。
「あのね、愛里……」
その中で咲希は勇気を強く振り絞った。
教えてもらった赦すという事、その意味を自ら確かめ理解を深めるために。
「アタシ、アンタに赦してもらおうなんて思わない。そんな筋合いはもうない……」
出来る限りの誠意を見せようと試みる。
「でもせめて……赦されるために戦う事、アンタのこと大切に思ってるって事は知って欲しい……」
それだけ伝えて愛里の返事を待った。
彼女は少し考えているのが電話越しでも伝わる。
そしてしばらくの沈黙の後、愛里はこう答えた。
『うん、分かった……』
納得はしていないように思えるがそう言った愛里とこれ以上話す事はない、そのため咲希は快にスマホを返した。
「はい、言いたい事は言えたから」
「ありがとう」
そのまま快はスマホを受け取り愛里との会話に戻る。
「急にごめん、どうしてもこれだけ伝えさせたかった」
『うん……』
快に代わっても愛里は何か心を悩ませている様子だ。
しかしこれは必要な事であったと快は考えている。
『私、正直まだ赦せる気持ちにはなれない。それが私の弱さだったとしても……まだ待って欲しい』
「うん、待つよ」
そして快はその流れで自分の気持ちを伝える。
「俺たちが今から示すから、前言ったみたいにね。だからしっかり見てて欲しいんだ」
『うん、私も待ってるから』
そして愛里は戦いに行く快に最後にメッセージを伝えた。
『私が帰る場所だから、安心して行ってらっしゃい』
瀬川に言われて気付いた事、自分もそれを示すのだ。
「うん、行ってきます」
こうして快と咲希、そしてConnect ONEの一同は覚悟を決めて最後の決戦に向かうのだった。
___________________________________________
自衛隊駐屯地の格納庫の前に一同は集結した。
全てを終わらせに行く準備が出来たのだ。
「作戦はこうです。地上に蔓延るヒトの素体を仕留め続ける、そのままヤツを目指しましょう。そして天から引き摺り下ろし想いを伝える……上手く行く見込みは見えませんがやるしかありません」
田崎参謀が指揮を取る。
作戦概要を全員に伝えた。
「必ず成功させます。ヤツの胸にある水晶、恐らくアレがバベルの結晶。ゼノメサイアの力でそれを破壊して無理やり話し合う場を作るんです」
快が前に出て田崎参謀に伝える。
すると彼も快の強い意志を感じた。
「……貴方がここまで頼もしく感じられるとは微塵も思いませんでした」
そしてTWELVEの一同も見渡しながら伝える。
「私たち自衛官は愛する者のために戦う、それは貴方たちも同じのようです。自分の愛する者のため全力を尽くして下さい」
その愛する者とは新生であるというのが伝わった。
今の発言により田崎参謀も彼らに背中を預けているという事がよく伝わる。
「了解っ!」
そのいつもの言葉と共に一同は散開しそれぞれの持ち場に着くのだった。
そして散開する中で瀬川は一度立ち止まり快に話しかける。
「よう快、正直お前と一緒にこんな事するなんて全く思ってなかった」
「瀬川……」
「どっかでお前の夢は叶わないとか思っちまってたのかもな……」
少し申し訳なさそうに快の肩を叩く。
すると快は答えた。
「夢か、確かに叶ったね。でも今は自分のためだけの夢じゃない、これからも続けるんだ」
先程から成長し続ける親友の言葉に思わず瀬川は微笑んでしまう。
「はは、俺も夢の手助け出来たのかな?」
「"出来た"じゃない、これからも頼む」
「おう」
そう言って拳を合わせる二人。
最後の戦いでそれぞれ出来る事をやるのだ。
・
・
・
その後、快と咲希はゼノメサイアとして外に立っていた。
かつて敵同士だった二人で並んでいるこの状況を咲希は不思議に感じている。
「まさか最後にこっち側にいるとはね、てゆーかそれ以前にアンタと肩を並べるとは思わなかった」
空に浮かぶもう一つの世界を見つめながら言う咲希。
それに対し快も自分の心境を語る。
「それなら俺も自分がこんな場面に立つなんて思わなかったよ。……でもゼノメサイアになれて良かった」
「念願のヒーローになれたから?」
「それもあるけど……お陰で色んな事が理解できた、人と関わる上で大切な事。ゼノメサイアはそれを教えてくれた」
快は遂に気付いたのだ、神が遣わしたゼノメサイアという存在の本質に。
「ゼノメサイアが俺とみんなを繋げてくれたんだ」
その言葉を聞いた咲希は自分にもそれが当てはまるのか考える。
「……じゃあアタシもこれから繋がれるのかな?」
小さく呟いた咲希の声にも快は堂々と答える。
「そりゃ同じゼノメサイアメイトだからね」
内心嬉しい咲希。
喜んでいるのを見られるのは恥ずかしいため口角が上がってしまうのを余所見して隠した。
しかしまだ一つ純粋に疑問に思っている事がある。
「そいえばさ、アタシがメイトならアンタは何なの?ゼノメサイア何?」
「確かに考えた事なかったな、ずっとゼノメサイアってだけ呼ばれてたから……一人だったし」
「これからのために呼び分ける何か必要かもよ?苗字と名前みたいに」
快はしばらく頭を回転させた後、咲希の瞳をしっかり見つめながら力強く答えた。
「……考えておくよ!」
……そのタイミングで耳につけた無線から声が聞こえる。
田崎参謀の声により出撃の合図が放たれる。
『準備はよろしいですか?これより最終作戦を決行します……!』
それぞれが持ち場で覚悟を決める。
各機体のコックピットでTWELVEたちも。
前だけを見つめる瀬川、頬を叩く名倉隊長、深呼吸をする竜司、アモンのサングラスを胸ポケットにかける陽、時止主任から託されたカードキーを見つめる蘭子。
『出撃っ!』
遂に出撃した。
格納庫から各機体が放たれ快と咲希もそれぞれアイテムを掲げる。
快は英美から託されたグレイスフィア、咲希は胸の内に宿る天の聖杯に触れ変身を遂げた。
『ゼアッ!』
全員で隊列を組み新生のいる真下へと向かい飛んでいくのだった。
開幕する最終決戦、その結末は如何に。
つづく