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レントレントの小部屋

『それで、お前の住処はどのあたりにあったんだ?』

歩きながらシオンに問いかける。

「俺たちはこの道の先から来たんだ。歩いていれば辿りつけるはず……。俺たちのシッポは長いから、背の高い洞穴みたいになってる場所が家になるんだ。でもあいつは、その洞穴の出口でみんなを一網打尽に……」

『なるほどな……』

思い出したくないことまで思い出させてしまったか……。

『よし、とりあえず進もう。幸い分かれ道はないようだ』

思いのほか見晴らしは悪くない程度に道は続いている。

ネストが二、三連なってもまだ先が見えるほどだ。

「ネスト毎に何か起こるかもしれないから、警戒しましょう」

『わかったよ。よし、じゃあまずはひとつめ……』

初めに目に付いたネストに足を踏み入れる。

そこには三つの切り株があった。

『なにこれ』

「切り株ですね」

『いやそれはわかる。でもなんか意味深だ。三角形を描くように三個並んでるんだ。しかもこのネストにはこれだけしかない。怪しくないか?』

「魔法生物の気配は……しませんね」

「座って休むんじゃない?ぼく疲れたからちょっとひとやすみ」

そう言ってクレピスが切り株に腰掛けた。

「おい、クレピス! そんな簡単に……」

「あっ!」

シオンの小言が言い終わらないうちにクレピスが声を上げる。

「どうした!」

途端に血相を変えてシオンがクレピスの方へ駆け寄る。

「足……が……」

言葉通りにクレピスの足を見ると、切り株の近くの地面が隆起しており、そこから伸びた木の根が絡みついている!

「なんだこりゃ!」

それを見たシオンは驚いた声を上げて飛び上がる。

「マークさぁん! クレピスが!」

『なにこれ罠?』

「しかし切り株がなぜ捕縛など……」

「これはもしかしたらもともとひとつの木だったかもしれませんね」

「そうなんですか?」

フィーナが咳払いして語り始める。

「仮住まいを提供する植物、レントレントの残骸かもしれません。この捕縛は捕食や殺戮を目的としたものではなく、レントレントだったころの行動の名残なのかも……」

『じゃあこの行動には危害は無いって事か……』

「どうしますかご主人様?クレピスくんの足の根っこ、ご主人様は切ってもいいし切らなくてもいいです。様子を見ることで何か変化が訪れるかもしれません」

『な……なんか選択肢みたいだな……』

「選択してもらいたいから間違ってはいませんね」

『じゃあ……とりあえず様子を見ようか。切るにしても引っ張って切るにしろ刃物を使うにしろクレピスの小さな足を傷つけてしまいそうだ』

「ではそうしましょうっ!」

とりあえず周囲を警戒しながらクレピスと切り株の様子を見ることにした。



「にいちゃん……なんか、うごいてる」

「どうした?」

数分が経つと、クレピスが何かを感じたらしい。

「おしりの方から振動がくる。なんだろ……」

「ねぇ、大丈夫なんですよね?」

シオンは少し心配そうにフィーナに訊く。

「もともと危害を与える植物でもないですし、その上で活性はほとんど失われています。危ないことは……」

フィーナが言い終わらないうちに突然轟音が鳴る。

その音とともに切り株三つはその背を急速に伸ばしていく。

「にいちゃあぁん!」

切り株に座り込んでいたクレピスもそのまま天高く上がっていく。

「うわぁ! クレピス!」

しばらくすると切り株の上昇は止まったが、依然としてクレピスはその頂上から降りてはこない。

「ど、どういうことですか! 危険はないって……」

「まぁまぁ、見てください」

フィーナは伸びた切り株を示す。その切り株は単純に真っ直ぐ伸びたわけではないらしく、下部分にあった根っこの形状がつながると、三つの切り株を支柱にした螺旋階段のようになっていた。

「まだ活きてたんすね。昇りましょうか」

『大丈夫なのか?』

「これはちゃんとしたレントレントです。切り株になって弱っていたせいか通常のサイズよりも小さいくらいですが……多分クレピスくんは上で待ってますよ」

「フィーナさんがそう言うなら……」

まだ不安そうだがシオンはおとなしくフィーナとともにその螺旋階段を昇っていく。

俺もそれに続いて根を軋ませながら一段ずつ上がっていった。



「無事か! クレピス!」

「にいちゃん!」

螺旋階段を昇りきると、そこはドーム状の小部屋になっていた。

切り株三つはそれを支えているらしく、ドーム状の部分は切り株の外皮から伸びてできている。

「レントレントは座り込んだ者に部屋を提供してくれる不思議な植物なんです。一晩安全に休んだりする時なんかは活用できそうですね!何日も休むことも可能ですがオレたちは長居しても仕方ないので……飽くまで仮住まいですね」

『へぇ〜便利だなぁ。ガレフには予想もつかないようなものばかりあるな……』

「有効に使えるものもあれば危険なものもあります。しっかり見極めてどうするか選ばないと痛い目を見ることになる場合もありますので……」

『まぁ血を吸う植物とかだったら危なかったもんな』

「オレは森に関してはよく知っていますがそれ以外はわかりませんからね」

『ま、あんまりお前に頼りっきりでもいけないしな』

「にいちゃん! ここで休んでってもいいのかな?」

「……フィーナさん。ここは安全なんですか?」

「安全ですよ。鍵もかかるし理性のないような獣は螺旋階段を昇ってまで部屋に入ろうとはしません」

「そうですか……」

シオンは何かを思案したような顔をしたあと、クレピスに向き直る。

「クレピス……お前、ここに残れ」

「え?」

クレピスは驚いたように口を開ける。

「この先ではお前がいても危険なだけだ。もう住処は壊れてしまっていて帰る場所もない。だから……」

「なんで! それだったらにいちゃんも一緒だ! 戦えやしない!」

「俺はっ! マークさんたちを導かなきゃならない。住処までの道はわかるかもしれないが、あいつがいるかはまだわからない……」

「だけど……」

「心配するな。必ず帰る。そしたら、ここで一緒に暮らそう。もう襲われることもないし、仲間を見つけて呼び込めばまた新しい住処になる」 

「……ほんと?」

「にいちゃんを信じろ」

「……わかった!」

クレピスはにかっと笑うとこっちに駆け寄ってきた。

「ぜったいたおしてね!」

そう言うと前脚を俺の胸に押し当てる。

『任せろよ。待っててくれ、クレピス』

満足気に笑うとクレピスは部屋の奥へ走っていった。

「それじゃあ、またな」

「いってらっしゃ〜い!」

朗らかな声に見送られながら、俺たちはレントレントの小部屋を後にした。

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