『……シオン。これからどうする?』
クレピスの埋葬を終えて、ようやく落ち着いた頃にシオンに声をかける。
住処はネズゥに壊され、最愛の弟まで殺められてしまった以上、彼にはもう守るべきものは残されていない……。
「俺は……どうしたらいいんでしょうね」
疲れきった様子でそう言う彼には、まるで生気が感じられなかった。
『……お前には、まだ命がある。それだけは確かだ』
「……それで、なんですか? 何のための命ですか? 俺だけが生き残って、何をしろって言うんですか……」
『それを決めるのは俺じゃない。だが、諦めた時、それは終わる。諦めなければ、お前はなんだってできるさ』
「そんなこと……」
「オレはその言葉、正しいと思いますよ」
「あなたは……この人に従うだけでしょう」
「違います。オレはね、この人とずっと一緒に居たわけじゃないんです。長い間離れてしまって……正直、辛いことばっかりでしたよ。でもね、オレは抗った。ご主人様がくれた使命を忘れなかった。だから会えたんだ。その時ご主人様は記憶を失っていて、もう一苦労あったけれど、それでも今オレは幸せです。シオンくん。君には今、何も無いかもしれない。でもね、だからといって捨てていい命なんてのはないんです。住処を出た同族たちは本当にみんな死んでしまったんですか? クレピスくんは君が死ぬことを望んでますか? ……きっとまだ、できることはあるはずですよ」
それをきいたシオンは、大きく深呼吸した。
「……じゃあ、フィーナさん。俺、また探します。母さんと父さんのこと、確かに死んだのをみたわけじゃない。……その時クレピスのことを伝えるのは怖いけど……父さんも母さんも……クレピスも、俺まで死ぬことを望んでるはずはなかったですね」
「うん……! シオンくんにも帰る場所、きっとあるよ!」
そう言ってフィーナはシオンの頭を撫でる。
『そういえば、俺たちはどこを目指せばいいんだ?』
「出口があるはずです。そこまでいけばこの洞窟は踏破ですね」
『シオンはこの洞窟の中で仲間を探すんだよな』
「はい。それがあいつの望んだことだとわかったので」
『じゃあ、お別れだな』
「……はい」
短い間だったが少しだけ名残惜しくなる。
『もし何かあったらすぐに助けてやりたいところだが……』
「いえ、心配しないでください。たとえもし何かがあったとしても、それは自然の摂理……マークさんが気に病むことでもありません」
『だがなぁ……』
「俺は行きます。マークさんたちも、どうかお気を付けて。……たまには、またここを訪れてください。きっとまた会いましょうね」
そう言うとシオンは顔を見せないようにしながら走り去っていった。
『大人だったよな、あいつ』
「生きるってことは、成長の連続なんですよ」
なんかいい事言ってら……。
『じゃあ俺達も出口を目指すか』
「あ、もうすぐそこですよ」
『え、わかるの?』
「あれ、みてください」
フィーナの示す先には、光が射して奥が見えない裂け目があった。
『なにこれ……空間に裂け目?』
「ネストがシャッフルされるくらいですから空間は歪んでます。その出口となる裂け目が必ずどこかにできるんです。この通り明るいので目印になりますね!」
なるほど……そこを目指すのがガレフの基本的な進み方になるんだな。
『じゃあこの先に進めばこの洞窟は抜けられるんだな?』
「はい!」
ようやくの区切りに安堵しつつ先程のことを反芻する。
魔法生物たちはやはり過酷な環境の中で競争していて、それはヒトが巻き込まれている事象とあまり変わらない悲劇をも生んでいるのだ。
『なんとなくわかった。魔法生物をひとまとめにしてはいけないし、それと対話することも最初から諦めちゃダメなんだな』
「オレを見ておきながらそんなことにも気づいてなかったんですかぁ?」
『お前はだって普通じゃないし』
「その言い方、なんか傷つきますっ!」
ふたりで笑い合いながら裂け目へ入る。
視界は真っ白な光で覆い尽くされ、もう何も見えない。
この先に待つものは……果たしてそんな光に似合う希望か、或いは……。