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冒険者たちの休息地

門をくぐろうとすると、敷地の中に立っている甲冑を着た者がこちらを見てきた。

「……待て。そこの……肩に子どもを乗せたやつ。止まれ」

俺のことだ。ここは大人しく従っておく。

「見ない顔だな。……ていうか顔見えないけど。仮面の下、見せてもらっても良いか?」

人の好さそうな女性の衛兵の様だが仕事は仕事。俺に仮面を取るように促してくる。

『な、なぜ見せる必要が? 仮面を付けているのには相応の理由があるとは思いませんか?』

「む、それは確かに……」

彼女はアゴに手を当てて考え込む。

「怪しいやつは通せないんだが、顔を見せないとなると何か身分を証明できるものはあるか?」

『それは……』

俺はノーフを取り出してステータス画面を開く。

『これでどうでしょう』

俺が画面を見せると衛兵さんは画面をスクロールして項目を確認し始めた。

「あっ……」

すると突然衛兵さんの顔が赤くなる。

『え、なんですか?』

「あ」

ルルーさんが何かに気づいたように声を上げた。

『え?なんですか?』

「……すみません衛兵さん。さっきノーフを手にしたばかりで設定をしていなかったんです」

横から出てきたルルーさんが衛兵さんの方に頭を下げに行く。

「あ! ルルーさんじゃないですか! あ、あぁ〜……そ、そうでしたか! なら仕方ないですね! はい、じゃあわかりました! 身分も証明できたんで通ってくださ〜い!」

『え、なに? なになに!?』

「ほら、はやくいきましょう」

ルルーさんが俺を押すようにして移動させる。

『衛兵さ〜ん!』

「それ以上はセクハラですよ」

『だからなにがですかぁ〜!』

ルルーさんに押されて、目を逸らす衛兵さんがどんどん遠ざかっていってしまった。



「さて、なんとか入れましたね」

『いやそれはいいんですが……その設定とやらの説明をきかない限りはもう人に身分を証明できませんよ』

「ではあそこのベンチにでも行きましょうか」

近くにあったベンチに三人で腰掛けた。

「じゃあまずはステータス画面を開いてくださいね」

『はい、開きました』

「ではそこにある錠前のマークのアイコンを選んでください」

『これか……』

その画面ではプロフィール画面に表示される項目の表示と非表示を切り替えられるようだった。

確かにこれかなり個人情報含まれるしね。

スクロールしていくとこれがまた多い……好きな食べ物やよく着る服の傾向なんかまで網羅されて……。

『なっ!?』

「はい、そこは非表示にすべきです」

『あ、いや……え、なんで……』

「魔素ってすごいですよね〜」

赤裸々に表示されてしまっている"ソレ"を俺は全て非表示にした。

「ご主人様〜ソレってなにがかいてあるんですか〜?」

『さ、さ〜てそれじゃあ店ん中行きましょうか! ねっ!』

「なっ、なんでムシするんですか!」

俺はさっさと歩き出して正面に見える大きな建物へ向かった。



『こんちはぁ……』

両開きの扉を押し開けて店に入る。

入ってすぐの場所は酒場になっているようで飲み食いしている連中の顔がぐるりとこちらを向く。

「んん? なんだいあんた、見ない顔だな」

「顔見えねぇけどなァ!」

さっきもきいたようなやり取りだな……。

『あぁ……えっと……』

「うわっ! え、え! 後ろにいるの……!」

こっちの反応は衛兵さんとはまた違ったものだ。

「……失礼ですね。人の顔を見るなり」

「いや、その……へへ、ゆっくりしてってくださいよぉ」

周囲は途端にへりくだったような態度になり皆が顔を背けてしまう。

「……では、行きましょうか」

『ルルーさんもしかして、結構エラい人?』

「以前名乗った通りですよ」

アンシェローの特別遊撃隊部隊長……だったか。

どんな存在かはわからなかったが魔法生物を討伐するスペシャリストってことだよな。冒険者たちの更に上の存在ってことか。

「ルルーさんがいればオレたち怪しくてもなんとかなりそうですね!」

『いなかったら店に行くのも苦労しそうだな……』

外套の下から覗く身体は鎧のように硬質化した部分以外は普通に骨だ……。みんなからの注目が逸れたから良かったが、もう少し隠す努力をしないとな。

「さ、食べ物の多い場所は目に毒でしょう。奥に行きましょう」

ルルーさんは食べ物の食べられない俺に気遣ってくれているようだ。

『ありがとうございます』

「ではこちらに」

ルルーさんの導いた先にはカウンターがあった。

「おやルルーさん」

カウンターに立っていた店員と思われる若い男が話しかけてくる。

『こんにちは』

「ん? お連れさんですか。珍しい」

「新しい部下のマークさんです。どうぞよろしく」

「マークさんか! 俺はビニィ。よろしくお願いします!」

そう言ってビニィは爽やかに歯を見せる。

『ビニィさんですか! 是非よろしくお願いします!』

「オレはフィーナです!」

俺とフィーナは揃って挨拶する。

「この店では探索に役立つ道具を売ってますから、是非ご利用くださいね!」

感じの良い人だなぁ。

『フィーナ。なんか欲しいものある?』

「えっ、そんな、いいんですか?」

突然訊いたからかフィーナは少し戸惑うようにしてこちらの様子をうかがっている。

『さっきは随分助けられたしな。なんでもいいぞ』

「そんなふうにいわれるとてれますねぇ……じゃあ〜……あ! これ!」

フィーナが目を輝かせたのは骨ガムだった。

「え、お嬢さんこれは……」

ビニィが慌てて指摘しようとする。当然ながらこれは人間の食べるものではない。

「あ……」

『あ〜……あれだよな! ペットにあげるんだよな!』

「そ、そう〜。そうなのぉ! えへへ」

「見た感じガレフに来るような年齢にも見えないですし、連れてこられちゃったクチですか。冒険者ギルドの周囲は安全とはいえ迷宮では何が起こるかわからないですからね。ルルーさんがいるとはいえ十分お気を付けて!」

初対面のフィーナのことさえ気にしてくれているようだ。

『まぁとりあえずこの骨ガムひとつもらいます』

「はい! じゃあノーフをこちらへ」

促されるままにレジ付近にノーフを向けると軽快な音が鳴る。

「ではまたのお越しを!」

キャッシュレス決済までできるんだな……。

とりあえず俺たちは店から出て近くのベンチに腰掛ける。

『そんなんで良かったのか?』

「ぎゃくにこんなところでみつかってよかったですよぉ」

「獣に向かって投げて囮にするものですが、素で食べようとする方は初めて見ましたよ」

ルルーさんがくすりと笑う。

『ま、まぁこの子はヒトじゃないですから』

「それもそうですね」

「ほ、ほんとうはぁ……もっとすごいほねがあるかもしれないんですけどねぇ〜……」

『ん? そんなのあるのか?』

「おもったよりちかくにあるかもしれないですけど……」

その言葉通りに周囲を見回すも見当たらない。

『……ないよ?』

「そ、そうでしたか。はは……」

少し残念そうにフィーナがため息をついた。

「あ、そうそう。ギルドへの登録もしておかなければなりませんね。もう一度中に入りましょうか」

そう言ってルルーさんが立ち上がる。

『登録するとどうなるんですか?』

「ノーフの情報が同期されるんです。何かあれば簡単に救助依頼も出せますし他の人の迷宮に救助しに行くことも容易ですよ」

『迷宮に?』

「常に場所や内容が変わるうえに一度入ると入口が閉じてしまうため人の入っている迷宮に行くのは難しいですがこの同期機能を使えばその人が入っている迷宮に入ることができるのです。しかも例の転移方法を使うのでここからでも一瞬ですよ」

『なんかめちゃくちゃこっち有利じゃないですか?』

「だからこそ、ガレフには何か大きな意思のようなものを感じるんですよね……」

ルルーさんは思案顔で呟く。

「ま、とりあえず行きましょうか」

『あ、はい』

ぱっと顔を上げたルルーさんとともに再びその建物の中へ入った。

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