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再び店の扉を開き中に入る。

「んー? また来たのか」

再び冒険者たちがこちらを振り向くが、顔を見るなりすぐにまた顔を背けた。

『この人たちはいちいち来た人を見るんだな……』

「彼らなりの警戒に近いものでしょう。ここだって絶対安全地帯というわけではありませんから」

『酔っ払ってますけどね』

「そんなこといったら休む場所もありませんよ」

それはまぁ確かに……。

「それで、ギルドはビニィさんのいたカウンターと逆のカウンターが受付です」

『あぁ、あっちの方か』

酒場にはカウンターが三つあり、左がビニィさんの店、真ん中がおそらく酒場の注文口、そして右がそのギルドとなっている。

ビニィさんのいる方は商品の棚が並び、真ん中のカウンターでは調理場で忙しなく料理や酒が提供され、ギルドカウンター周辺には掲示板や書類が散見される。見た感じでもわかりやすいな。

「クラリスさん」

ルルーさんがカウンターにいる女性に向かっていき声をかける。

「あらあらぁ、ルルーさん!」

クラリスと呼ばれた女性はルルーさんに気づくと穏やかに微笑みかける。

「今日は新しい部下を連れてきました。マークさんです」

「へぇ〜! なんだか不思議な雰囲気の人ですね! 表情が伺えないというか……」

そう言いながらクラリスさんはメガネを押し上げる。

仮面つけてるからね……って何回目だよこのやり取りは……。

『クラリスさんこそ、なんだか不思議な雰囲気があるっていうか……』

ほんわかしてるというか警戒を解いてしまうような優しさがあるというか……。

「クラリスさんは天然なだけです」

「そんなことないですよぉ〜」

にこにこしながら否定するけれどその言葉に説得力はないな。

「じゃあマークさん、ノーフを見せてくださいね」

促されるままにノーフを差し出す。

「ふむふむふむ……」

それをまじまじと見ながら唸っている。

口に出しちゃうとこなんかもイイよね……。

「なるほどわかりましたよぉっ!」

画面から顔を上げるといきなり大声を上げるのでびっくりした。

「はいはいはいはい、それでは……っと」

カウンターにある業務用っぽいノーフに何やら打ち込んでいく。

「はぁいこれで完了ですっ! これでマークさんも冒険者ですね!」

にっこり笑いながら俺にパスのようなものを渡してきた。

『これは?』

「冒険者の証ですね。これがあればギルドのサービスを利用できますよ」

『ギルドのサービスってなにができるんですか?』

「お答えしますよっ! まずはこちら! ノーフを開いてください!」

ノーフを開いて差し出すと何やら俺のノーフの画面にアイコンが追加された。

「ギルドアイコンです。これを開くと、ギルドのサービスにアクセスできますからね」

早速開いてみると、まずは俺のプロフィールが出てくる。そこには新人冒険者……という称号が添えられていた。

『なんですかこの……新人冒険者って?』

「それははじめから設定されてるやつですね。身の丈に合わないものをつける人もいれば明らかにおかしいものをつける人もいて面白いですよ」

『じゃあ俺は……』

「"最愛のご主人様"にしましょうよ!」

『誰視点だよ……』

「では"仮面と外套"で……」

『まぁ間違ってはいないですけど……』

「"骨と皮"、とかどうですかぁ?」

『え〜でもそれじゃあ俺の正体バレちゃうじゃないですか〜』

つっこんでから気づいたが……今それを言ったのはクラリスさんだった。

『あ、あっ! そのっ!!』

「ふふ、その見た目で隠してるつもりだったんですか?」

くすくす笑いながらそう言うけれど、これ大丈夫なのか?

「安心してください。冒険者になる方は色々と事情がありますから。そこの人狼ちゃんも、カワイイおミミとシッポでバレバレですよぉ?」

「あう……」

指摘されてフィーナは恥ずかしそうに耳とシッポをおさえる。

『ル、ルルーさぁん……どうしましょうか……』

「別にいいんじゃないですか」

『え、いいんですか?』

「周りを見てみればわかると思いますが、ヒトじゃない冒険者は意外といますよ」

そう言われて酒場を見てみると、確かにちらほらと肌の色の違う者や異様に背丈が人間離れした者、身体の部位がヒトと違う者など多種多様な姿をした者たちがちらほらいた。

『え、いいんですか?』

それを見てもなお納得出来ずに再度同じことをきいてしまった。

「大丈夫ですよぉ。ヒトと違う特殊な能力を持っているなら戦闘の幅も広がりますからね! みんなで力を合わせればガレフの探索も進みます!」

『でも魔法生物ってガレフを荒らしたくないんじゃ……』

「そんなことないですよ。オレだってべつにそういう、しめいみたいなのがあるとおもったことはないですし」

「ヒトだって自分の住んでいる場所以外を護ろうとは思わないでしょう。それどころか未知の場所には何があるのか、知りたくて仕方がないはずです。魔法生物の中にもそんな冒険ヤロウがいるわけですね。アンシェローでも魔法生物を雇うくらいですし、保護しようという活動家も現れているくらいです。ヒト以外が全て魔法生物ならば共存していくしかないでしょう……」

『なるほど……じゃあ別に慌てる必要はなかったんですね』

「あ、でも村に戻る時はバレないようにしてくださいね。冒険者さんたちは別に気にしないでしょうけどフレイさんの時みたいに一般の方には刺激が強いですから」

「わかりました」

「あのあの〜それで、オレにはそのとうろくしてくれないんですか?」

「ノーフがないとちょっと……」

「ルルーさ〜ん!」

フィーナは縋るように甘ったるい声を出すがルルーさんは無視している。

「さ、説明を続けてください」

「い、いいんですか? では……称号は後で変えてもらうとして、そのプロフィール以外にもいくつか項目があるはずです。クエストってところ、みてください」

『クエスト……いい響きだ』

「そこには救援要請のあった迷宮のリストが出ます」

『ここ、ルルーさんに教えてもらったとこだ……!』

「あ、ききました?」

「ざっくりした説明だったんで続けてください」

「わかりました! えっと、それでですね。迷宮のフィールド的な特徴や生息する魔法生物の種類なんかが軽く書いてあるんです。メインなのは救援を要請した理由ですね。重傷を負って動けないとか、ちょっとひと狩り行きたいとか……みんなそれを見て自分に行けると判断したなら選んで転移魔法で飛んでいくんです。ただし迷宮には入れる人数に制限があるので緊急性の高いもの、冒険者としての活動履歴なんかに応じた依頼が表示されやすくなっているようです」

『なるほど。これがあれば参加は簡単なんだな』

「迷宮を見つけたら登録しておくことで自分が入るまで他者に入らせたり内部構造を変えたりできなくすることもできるのでそれから募集をかけることもありますね。中には冒険者を外部からサポートするナビゲーターの仕事をする人までいるのだとか。もし冒険に行き詰まったら依頼するのも手ですね!」

「ほぇ。そんなのまであるんですね。オレがいれば安心ですけどね! 森だけは!」

森だけなら自信満々に言うなよ……。

「その他にも活動に応じたミッションなんかが設定されてて達成すると二ーディやその他の報酬があるのでやって損はないですよ! これも魔素がやってるみたいなんで自動でカウントや達成報酬の付与をしてくれますね」

『魔素が?』

「不思議なことに目の前に報酬の入った包みが現れるんですよ……」

それはまた不思議な……。

「細かいことは良いですよね! トクですし!」

いいのかな……。

「まぁ大まかな説明はこれくらいですね! あとはまぁ色々と試してみてください!」

『ありがとうございますクラリスさん!』

「ノーフがあればあまりここに来る必要も無いわけですが……いつでも会いに来てくださいね」

そう言ってクラリスさんは照れたように笑う。

ファンになっちゃいそうだ……。

「……む」

なぜかフィーナがクラリスさんを睨みながら俺の足に絡みついてくる。

『なんだよ』

「なんでもないですよっ!」

舌を出しながらそう言うとフィーナは離れていった。

『あぁ、そういえばさっきルルーさんにもらったお金があったな。フィーナ、ご飯でも食べよう』

「あっ! たべたいです!」

俺が提案するとフィーナはすぐにシッポを振って戻ってきた。

「ふふ。かわいらしいですねぇ、フィーナちゃん。それではまた、何かわからないことがあればいつでも訊きに来てくださいね」

クラリスさんは手を振って俺たちを送り出した。



『良い人でしたね、クラリスさんも』

「こんなところまで来て商いをする方たちです。みなさん素晴らしい方たちばかりですよ」

「……くやしいですけど、オレにはかてません」

何がだよ……。

『フィーナには誰も勝てねぇよ。ほら、あっちで飯食おうぜ。なんでも好きなもん食えよな』

「わあはぁ〜」

嬉しそうな声を出しながらフィーナが中央のカウンターへ駆けていく。

「さて、私はそろそろ戻りますよ」

フィーナさんが唐突にそう言う。

『え、どこへ?』

「マロンの村ですよ。夜にはいっくんと一緒に寝なければならないので」

『別にそれは良いのでは……』

「良くないですよ。これは死活問題です。もうすぐ日が暮れてしまいますので急いで村に帰らないと……」

『数十キロありますけど!?』

「転移魔法を使って穴の淵に行けるんですけど、そこで魔導車を出してくれる店があるんですよ。転移魔法は世界のどこにいてもガレフに移動出来るうえに任意の物体まで一緒に転移させられます。なので魔道車は片道だけ出せばすぐ帰ってこられるので実に良い商売ですね……。しかもなんと燃料は魔素……あのいくらでも補充できる魔素です……ほんっと、良い商売です……」

そんなにお金取られるのイヤなら帰らなきゃいいのに……。

「じゃあまた何かあれば呼んでください。いつでも飛んでいきますので。このギルドは階段を登れば宿にもなっているのであなたたちはそこで泊まると良いでしょう。今回は冒険者登録をしてもらうことが主目的だったので目的は果たせましたが……村のことはしばらく気にしなくても良いですのでガレフでの探索をすると良いでしょう」

『いいんですか?』

「一週間程度は自由にしていいですよ。これからのためにもしっかり学びつつ鍛錬してくださいね」

『はいっ!』

俺の返事を聞き終えると、ルルーさんは転移魔法を使って帰っていった。

「おーい! なにはなしてるんですか〜っ! ……あれ? ルルーさんは?」

『帰ったよ』

「えー!? ごはんはたべないんですか!?」

『ジェイクがいるからってさ』

「それは……仕方ないですね!」

『これから一週間はここにいるから。お前もしっかり食って明日に備えろよ』

「わかりましたっ!」

フィーナはびしりと敬礼してカウンターへ再び向かっていった。

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