「マークはまだ食べられないんだよな?」
村の商店で食材を眺めながらレベッカが尋ねてくる。
『残念ながらな。ガレフに行けば食べられるんだが……』
「それに関しては先程言った通りだな。その時が来るまではお前に飯を食わせてやることはできないということか」
『なんか悪いな』
「いや、むしろこちらこそだ……他のみんなには振る舞えるのに、肝心のお前に食わせてやれないってのはな……」
レベッカは悲しそうに肩を落とす。
『ま、まぁまぁ! 楽しみが増えるってことでさ!』
「それならいいが……」
話していると、後ろから聞き覚えのある声がきこえた。
「あれっ? マーク? マークじゃん?」
この騒がしい感じ……フレイだな。
『久しぶりだな』
振り向くと、こちらを覗き込むように身体を曲げたフレイと目が合った。
「なんか仕事もらってガレフに行ってんだよね? 大変だなぁ……」
『向こうも案外悪くはなかった。危険はいっぱいだけどな』
「……ていうか、その子、ダレ?」
フレイはフィーナを見て訝しげな顔をする。
「ん……ん? んん〜?」
そしてその直後、何かを思い出したかのように唸り声を上げる。
「お、お前はー!」
「あ、お久しぶりス……」
「スじゃないよー! ちょ、おま……こんなんレベッカに見つかったら……っていうか隣歩いてたよね!?」
フレイには説明していなかったので軽くパニックになっている。
彼女もまたかつてフィーナと出会い駆逐した村人のひとりなのだ。
「和解したのよ。魔法生物へのイメージが悪いのは確かで、あなたもそうでしょうけど……この子はヒトを襲わない。それどころかこの村を護ってくれていた。それは確かに事実で、この子が報われるべきだと思ったのよ」
「こいつをあそこまで嫌っていたレベッカがそこまで言うんじゃあ……信じないわけにいかないよなぁ。あたしも悪かったよ。ごめん。カントリカントの……」
「フィーナよ」
「フィーナ! 許してくれなんて図々しいことは言えないけどさ……レベッカと仲良くなったなら、あたしとも仲良くしてほしい」
フレイは謝罪と同時にフィーナに手を差し出す。
「……もちろんです。オレは何も恨んでなんかいないんですから」
その手を取り、フィーナはフレイに笑いかける。
「そうか! よかった〜!」
「おいおぉい、またぼくが除け者になってないかァ?」
その様子を見てか、のそのそと歩いてくる影がひとつ。
「トォル。あんたが勝手に精肉コーナーに吸い寄せられてたからでしょー?」
どうやらトォルもフレイとともに買い物に来ていたようだ。
「おふたりは、そういうことなんですか?」
「そういうことってなによ!」
「いや、恋仲かと……」
「はっきり言わないでもいいわよ! ち、違うしね……」
そう言って目を逸らしたフレイからは図星っぽさが見えていたが……。
「え? 何君ィ。マークの彼女ォ?」
「そ、そそそんな……おそれおおい……」
フィーナはレベッカをちらりと見ながらそれを否定した。
「トォルは知らないかもね。この子は昔マークが勝ってたペット……の正体よ」
「あぁ、あの小型のルヴ……え、このヒトがァ!?」
「ヒトじゃなくてカントリカントっていうの。獣の姿とヒトの姿を使い分ける種族」
「ほえぇ……知らなかったなァ」
トォルはフィーナが語った事件には関与していないらしいな。
こいつらしいといえばこいつらしい。もし関与していたらフィーナの運命はまた違ったかもしれないな。
……いや、むしろそれ故に俺の能力がトォルのいない日にそれを選んだのかもしれないが。
『仲良くしてやってくれ。すごく良い子なんだ』
「えへへ……照れますねぇ」
「……私は?」
張り合うなよ。
「それで? マークとフィーナは今になってなんで一緒にいるのさ?」
『あぁ、一緒に冒険してるんだよ』
「冒険って……あのガレフを? すごいなぁ」
「お前そろそろ学校来ないと単位取れなくなるぞォ」
やめてくれ、現実を突きつけるのは。
『ま……まぁ、フリディリアに就職してるようなもんだしそこはいいってことで……』
「ずるいよねぇ〜。あたしらは必死こいて勉強しなきゃ入れもしないのにさ〜」
「その分大変だろォ? フレイだってマークの立場だったら絶対辞退してるゾ」
「お、よくわかるねェ」
やっぱりこいつらといると楽しいな……。
この日常に帰れたとしても、学校生活には戻れないかもしれない。それを思うと少し悲しいけれど……こいつらなら卒業しても一緒に居てくれるに違いない。
『なぁ、お前らも来ないか?』
「ん?」
「今からマークの家でご飯作るの。一緒にどう?」
「あぁ、いいね!」
「ぼくたちも適当になんか作ろうとしてただけだからねェ」
「な、なぁに言ってんのよ! あたしとあんたはたまたま会った。……そうでしょ?」
「……そ、そうだったなァ」
わかりやす……。
「よし、じゃあ五人パーティ! 色々買おうぜェ!」
フレイが拳を上げると、俺のスカーフの中からシゲルがもぞもぞと顔を出した。
「あの、ワタクシも自己紹介してもよろしいでしょうか……」
「うわわ! な、なにこの子!?」
「あぁ、シゲルだ」
「シゲル!?」
「シゲルです。よろしくお願いします」
「シゲル……」
「あ、サンプルウィードという魔法生物です。……特技は隠れることです。よろしくお願いします……」
「よ、よろしくお願いします……」
フレイとトォルは呆気にとられたような顔をしてシゲルに挨拶を返す。
「な……なんでこの子とは一緒に?」
『お前らなぁ! シゲルはすごいんだぞ! こいつがいなかったら俺たちは死んでたかもしれない! それくらいすごいんだ!』
「ダ、ダンナァ……」
「へェ! そうなのかァ! シゲル、お前はマークの恩人なんだな!」
「マークの恩人ってことはあたしらの恩人だ。へへ、一緒に飯食おーぜ」
「ありがとうございます……!」
良かった。どうやら認められたらしい。
「んじゃ六人分! ここで準備してパーティしようぜ!」
今度こそとばかりにフレイは高く拳を上げた。