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なんてことない日のお祝い

「はぁいそれじゃあ! 乾杯しましょうかー!」

フレイが嬉しそうにみんなにコップを持たせる。

もう既に勝手に飲んでグデグデになってるやつもいるが……。

 「なん……なんれす? オレのコップ持ってっちゃやぁす……」

没収。

「はい。これフィーナの分。全く、手の届くところに置いたマークが悪いんだからね?」

フレイはフィーナにジュースの入ったコップを手渡して俺をひとにらみする。

『そ、そんなぁ……』

「じゃ、改めまして! かんぱーい!」

フレイの音頭で俺たちはコップをぶつけ合う。

「それにしても、こんな普通の日に集まるのもなんだか不思議な気分だなァ」

「マークが帰ってきたんだ。普通の日じゃない」

「んでもさ、それって別に示し合わせてたわけでもないし……あたしらだって偶然会ったから参加したわけでしょ? 偶然だけど、なんてことない日だったけど、でも楽しい日に変わったんだ。だから今日は、特別な日になったんだね」

『はは、そう考えるのはロマンチックだな』

「なによ? あたしがロマンチックで悪いってのー?」

『普段がなぁ〜』

「ははっ! それは否定できない」

フレイは高らかに笑った。

「なんかぁ……確かに今日は、特別なカンジがしますよぉ〜……なんでだろぉ……」

『さっきフレイが言ったろ? 特別じゃない日でも、偶然が重なれば特別になるんだって』

「そうれすけどぉ……そうじゃないっていうかぁ……なんか、お祝いしたくなっちゃうっていうかぁ……」

『酔いすぎだろ。なぁ?』

「でもフィーナの言うこともわからなくないよ。こうしてみんなで集まってるんだからさ、かんぱーい! なんて言うのもある意味お祝いの掛け声から生まれた言葉でしょ?」

「なんてことない日のお祝い……か。ふふ、それはそれで面白いな」

「でしょ? 逆に言えば、こんななんてことない日が来てくれる日を祝うんだ。これがなんてことない日で良かったって祝うんだ。あたしはそれができるだけ幸せだって、そう思うよ」

「お前も調理酒飲んだかァ?」

「茶化すなよっ!」

確かにフレイの言う通り。これが俺の目指すべき普通の日々なのかもしれない。

『……悪いな、フレイ。なんてことない日の中に、俺だけは普通じゃないからさ』

「何言ってんだよ! お前が来なかったら今日の集まりだってねェから!」

『そ、そうだけど……』

「そう思うんだったら、必ず戻って来い。それでまたみんなで集まってこうやって騒ごう! な!」

『……あぁ。必ず』

決意はより強固なものとなった。

仲間たちがいるから、俺は元に戻りたい。

普通になりたい。

俺だけじゃない、レベッカだけじゃない、俺にはみんながいてくれる。

だから必ず、秘宝を見つけるんだ。



作った料理たちも大半は無くなり、皆ふくらんだ腹をさすっている。

初めの盛り上がりとは打って変わって場は落ち着いた雰囲気に包まれていた。

「……そういえばフィーナは結局何を祝いたかったんだろうな」

『雰囲気でテンション上がっちゃったんじゃないか? こいつマジで酒癖悪くてさぁ。俺が寝てるうちに酔ったままダンジョン入っちゃって大変だったんだぜ』

「だからお前はフィーナから目を離すなって!」

『う……悪い』

当の本人は既に酔いつぶれて床に転がっている。

「でもこんな子がダンジョンのおともしてくれるのかァ。本当に大丈夫なのかァ?」

『これがね、こいつもなかなかやる時はやるんだよ。……今のところは割と捕まってばかりな気もするけど……』

「ちょっと! この子のことちゃんと護ってあげてないの!?」

それを聞いたフレイが俺に詰め寄る。

『そんな余裕があまりないんだよ……ガレフはなぁ、ほんとに常識の通じない場所で……』

「私、聞きたい。ガレフの話」

「おー! 確かに! 聞くなら全部聞きたいよなぁ。なぁ教えろよ! どんな冒険してきたんだよ!」

フレイは今度はまた先程の剣幕とは違った弾むような勢いで俺に詰め寄る。

『まぁ〜色々苦労があったわけよ……』

俺はみんなにガレフの話を聴かせることにした。

摩訶不思議な世界、危険な生物たち、多くの出会い。

話すのも聴くのも盛り上がり、夜は更けていった。

「むにゅ……ぅ……おいわい……ひゃ……かい……」

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