レベッカたちのいる学校についた。
もう下校している生徒もちらほらいるので、レベッカたちもここに居るはずだが……。
「あれ? マーク?」
「なんか最近見なかったけど、遠くに行っちゃったんじゃなかったの?」
俺を知る人々が群がって来た。
残念ながらこの顔ぶれには大した印象もないのであちらも物珍しさから集まってきているだけだろう。構うことはない。
「ごめん通して。事情があったんだ」
「まぁ待てよ待てよ」
ウザったいやつらに絡まれちまった……。
「……なにしてんの?」
そんな中で、聞き覚えのある声がした。
「いやそれがさぁ」
周囲の連中が伝える間もなく、俺はその声の許へと飛び出した。
「レベッカァァァ!」
叫びながら姿を現した俺を見て、一瞬レベッカが硬直する。
しかし次の瞬間には目を見開いて俺を見つめた。
「マ……マーク!!」
「……ただいま」
レベッカはそのまま俺の方へ駆けてきて、飛びついてきた。
「うわあああぁぁぁ! マーク! 戻ったんだね!!」
「そうだよ。もう戦う必要はないんだ」
「よかったぁ! よかったよおおぉ!」
レベッカの普段とのギャップに周囲がザワついている。
しかしそんなことも構うこともなくレベッカは泣きじゃくった。
「悪かったな。色々と。でも今日からは、俺はこの村で暮らすよ。だから安心してくれ」
「……本当?」
「あぁ。本当だ」
ぐすりと鼻をすすりながらレベッカはこちらを見つめる。
「家に料理を用意してあるんだ。一緒に食べないか?」
「……行く! 絶対行く!」
「決まりだ。行こう」
周囲も空気を読んだのか道を開けてくれた。
「あっ……あれって!」
「しっ……レベッカに気づかれないうちに行くぞォ」
トォルが遠くの方に見えたが、フレイを押さえながら俺に目配せした。
……あいつらも空気を読んでくれたのかな。
「しかし驚いたぞ。まさかこんなに早く元に戻るなんて」
道中、レベッカが話しかけてきた。
「俺もびっくりだよ。目当ての秘宝が割と早めに見つかったんだ。それ自体はニンゲンに戻るものではなかったんだけど、アミィがそれと引き換えに俺をニンゲンに戻してくれたんだ」
「へぇ……がんばったんだね」
「ほんとになぁ……これ以上に過酷になるとこだったらしくて覚悟してたんだが……そこまで行くことにならなくてよかったよ」
「無事でよかった。危険なところにはあまり行って欲しくなかったから……」
「こうしてニンゲンに戻れたんだ。行ったかいもあったな」
「もう行かないよね?」
「いや……」
「え!?」
「ギルドにはたまに……」
「危なくないの!? 大丈夫なの!?」
「そこは安全なんだ。よかったらレベッカも一緒に行こう」
「ほんとか……ほんとに……」
まぁ簡単には信じられないよな……俺だってガレフのことは禁忌の存在だと思っていたし。
「とにかく今は俺たちの料理を食べてくれよ。せっかく帰ってきたんだし」
「俺……たち?」
あ。
「そういえば……マーク、服になんか毛がついてるよね? この毛、見覚えあるなぁ。すごく見覚えがある。ニンゲンの毛じゃないふわふわした感じの茶色い毛……」
「あ、あぁそりゃ……」
「フィーナも連れてきたの? だって、ここで暮らすんでしょ? もしかしてあの子と一緒に暮らすの? そんなの健全じゃなくない!?」
「おお、落ち着けって。大丈夫だ。あいつは確かに今いるけど一緒に暮らすわけじゃない」
「そうだよね。誰か別の人の家か、或いは新しいお家を借りるか……」
「いや、あいつはガレフに帰す」
「え?」
「それがあいつの幸せのためなんだ」
「いや……え? それは、その……わ、私だって別にそこまでしろとは言ってないぞ。そんな、地獄に放り出すみたいなこと……」
「だからそれは……あぁ〜」
ガレフに関する認識が違うのであまり噛み合わない。
「ガレフにはな、人が暮らしてる場所があるんだよ。そこでフィーナに惚れたやつがいるからそいつと一緒に暮らしてもらうんだよ」
「そうか! そうかそうか! なるほどね……」
「あからさまに嬉しそうじゃん」
「ご、誤解するなよ! 別にあいつのことが嫌いだからではない。……まぁ、ライバルがいなくなったことは喜ぶべき事実だが……やはり、あいつには幸せになって欲しかったから。それは正直な気持ちだよ」
「ふ、お前もあいつのこと好きなんだな」
「好きっていうか……悪いことしたし……」
「初めて会った時、お前のことめちゃくちゃ怖がってたからな」
「うぅ……し、しかしあいつと一緒になるなんてどんなやつなんだ? 軽薄なやつに騙されて欲しくはないが」
「軽薄……ではないが真摯でもないアンニュイなやつだよ」
「そんなやつが……」
「フィーナの明るい性格が合ったんだろ」
「そうか。私も会ってみたいなぁ」
「なんだよ急に」
「……ふふ、嫉妬するかなって思って」
「しないっての」
「なんで? 私が別の男に会いたいって言ってるんだよ?」
「あぁ、そいつ女の子だし」
「……えぇ?」
案の定レベッカは固まる。
「逆に大丈夫なの?」
「大丈夫だろ。愛のカタチってのは色々だ」
「ほんとに会いたくなってきちゃった……」
「な。じゃあ今度一緒に行こうぜ」
「あ、あぁ……」
そうこうしているうちに家に着いた。
「よし、レベッカ! スペシャルなディナーがお前を待ってるぜ!」
「ふ、そんなにハードル上げてもいいのか?」
「自信があるからな!」
「見せてもらおうかね」
正直自信はある。料理上手なフィーナに教わりつつ一緒に作ったし、何より大切な想いを込めた。
必ず美味いと言わせてやるぜ!