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しゅくせいっ!

風紀委員室の前まで来ると、中から声が聞こえてくる。

「しゅくせいっ! しゅくせいっ!」

ララの声だ! だが物騒なことを言っている。

部屋の戸を開き風紀委員室へ飛び込むと、リアンとエリンがララに向かい合っていた。

「まだだ! 風紀の道はその志から!」

「はいっ! はいぃっ!」

「ちょっと! 何やらせてるんですか!」

「お、帰ったか。ララ様は私が責任を持ってお預かりしているぞ。立派な風紀委員にして送り出せるように稽古をだな……」

「頼んでた内容と違う!」

「先輩の指導が受けられるのだぞ! ありがたいと思え!」

「ララは望んでないっての。なぁララ?」

「あたし、あくを、ゆるさない」

「こう言っているようだが?」

「洗脳だーっ!」

俺はララを抱えてすぐに部屋から出ようとした。が、目の前にエリンが立ち塞がる。

「こらっ! 勝手に連れていくな!」

「勝手じゃないから! うちの子なんです!」

「風紀委員のメンバーなんだからここにいていいだろ!」

「いつメンバーになりましたぁ!?」

「え、だって先輩が」

「騙されてるそれ!」

「えぇーっ!」

俺たちは揃ってリアンを見る。

「む、バレたか」

「あんたがややこしくしてるんですよ!」

「外堀を固めることが成功への近道だと……」

「そういうんじゃないですから! 子どもふたりを騙して罪悪感ないんですか?」

「子ども扱いするな!」

「するなっ!」

子ども二名の反論は放っておくとして、リアンの横暴は通してはならない。

「まあ待ってくれ。確かに無理やりやらそようとしたのは私が悪い。すまない。だが風紀を取り締まることは重要なことだと思わないか? 乱れた生徒たちで溢れては学業に専念できないだろう」

「それは一理ある……」

「どうだシエルくん。お前も風紀委員にならないか?」

「俺は死んでも風紀委員にはならん……ってのは言い過ぎですけど、さっきも言いましたがそんな余裕ないんですよ」

「別にメンバーになってくれるだけでいいんだぞ? 平和だから仕事なんほぼ無いし……」

「それ意味あります?」

「この腕章を見ろ。カッコイイだろ?」

そんなもののために風紀委員をやっているのか……?

「だがまぁ、志は一級だ。キミ自身学業に集中したいのなら志から固めるべきだと思わないか? それなら風紀委員がおすすめだ。気が引き締まって勉強にも身が入る! そんな事なんてないない!」

ヤバいこの人……イエスと言うまで永遠に選択肢を繰り返させてくるタイプだ……。

「どうだ! 風紀委員に入るか?」

「いいえ!」

「そんなこと言わずに! 風紀委員に入るか?」

「いいえ!」

「そんなこと言わずに! 風紀委員に入るか?」

あ、ループ入った。もうこれ無理だ。

「逃げるぞララ!」

だがエリンが戸の前に立ち塞がる。

「こらっ! 勝手に連れていくな!」

あ〜これもさっき見た!

「じゃあ、ララを連れてかなかったら俺は通してくれるのか?」

「……だめ」

「なんで!?」

「ララ様とお前はセットなのだと聞いたからだ!」

そこは強奪しようとしないんですね。

「さぁどうするんだ! 風紀委員に入るのか! 私は入って欲しくないけどな!」

「じゃあ徹してくれよぉ!」

「通しちゃだめよ、エリン」

「はっ! ほら! 通れないんだよお前は!」

ど、どうする? 風紀委員になってもやることは変わらなそうだが、このふたりと交流していくことになるわけだ。

んー……でもまぁ、エリンの事情もわかったし、最初ほど悪い気はしないか。

「わかったわかった! わかりましたよ! なんでそこまで俺を入れたいのかわかりませんけど、期待されるようなことなんもできませんからね!」

「よおおぉし! これでお前も家族だ!」

「そういうノリなんですか?」

「仲良くしろよエリン!」

「……先輩が言うなら、仕方ない。だが、まだ私はお前を認めたわけでは……」

「エリンちゃん! あたしともなかよくしてね!」

「……は、はい!」

「けーご、つかわなくていいんだよ?」

「そ、そうはいきません!」

「エリン。甘えたらいいんじゃないか?」

「こいつ、かたっくるしいのは苦手だからな。仲良くなるなら平等に接してやってくれ」

「じゃ、じゃあ……よろしく、ララちゃん」

「うん! よろしく! エリンちゃん!」

「うんうん……これが見たかったんだ私は……」

本当か……?

でもまぁ、ララも嬉しそうだし……いいか。

こうして俺はなかば強制的に風紀委員に所属することになった。

「はい、ではこの腕章をつけるといい」

リアンから受け取った風紀の腕章を肩につける。

「これはかっこいいんですよほんと」

「ふふ、そうだろう?」

ララにもつけてやると、嬉しそうに肩をぶん回している。

「にあう?」

「かっこいいよララちゃん!」

「えへへぇ!」

エリンとララは実際相性が良いかもしれない。

仲の良い友達が出来れば学校生活も楽しくなるだろう。

「もしかして、先輩はこのために風紀委員にスカウトしてくれたんですか?」

「…………もちろんだ」

多分違うなこれは。

「ま、エリンも楽しそうだし時たま顔を出してくれ。教室でも会うことになるだろうが、ここでなら気軽に話すことができるはずだ」

「ありがとうございます。そのお心遣いを頂けるだけでも風紀委員に入った意味があります」

「ふふ、そうだろう。これからも学びに遊びに一生懸命になると良い。仕事を頑張るのはそれからだ」

「はい!」

世話焼きなところは本当に助かるな。

正直ララとふたりで不安だったが、このふたりのおかげで学校生活が楽しくなるかもしれない。

「それでは今日は解散! また明日頑張ろう!」

俺たちは揃って下校した。

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