その後も授業は続いたが、ララは大人しくしていた。とはいえ黙っているだけではなく、しっかり内容を聴いている様子だった。
「はい、じゃあ今日はここまで。みんなおつかれさん。……あ、シエルくんはこのあと僕のとこまで来てな」
そう言い残してシンク先生は教室から出ていった。
そういえば呼ばれてたんだったな。
「おにいちゃん……あたしもいかなきゃだめなのかな?」
「ん?」
「めんだん!」
「あぁ、名指しされたのは俺だけだしいいだろ」
「ほ……」
早速先生に会いたくなくなったらしいな。
「じゃあ俺は行ってくるから。あぁ……先輩に見ててもらうかな」
「呼んだか?」
「先輩!?」
いつの間にか隣にリアンが立っていた。
「今から先生のとこに行かなきゃならないからララを預かって欲しいんですけど、いいですか?」
「もちろんだとも! さ、ララ様。私とともに風紀委員室へ……」
「な、なんでつれだそうとするの?」
「何も怪しくなんてないでしょう? さ、さ」
「おにいちゃ〜ん!」
「悪い人じゃないのはわかったんだけどたまにアプローチが過激になるっぽいんだよな」
「ふふ、そんなことまで見抜いてくれたか。どうだ、君も風紀委員に」
「それさっきもききました」
この間風紀委員室を訪れた時にも思ったけどあんまりメンバーいないんだろうな。スカウト方法のせいかもしれないけど。
「じゃあ俺行くんで、あとは先輩におまかせしますよ」
「うむ! ではララ様、行きましょうね……」
「やあああ〜!」
教室の外へ連れていかれるララを見送ってから俺も先生の部屋へと向かった。
「シンク先生。シエルです」
シンク先生の部屋の戸をノックして名乗る。
「あぁ、入り」
「失礼します」
許可を得て室内に入る。
こじんまりとした個室には教材や資料が溢れていた。
「狭くてごめんなぁ。まぁここ座ってや」
先生が物を退かすとようやくそれが椅子だったとわかる。その椅子を持ち上げると俺の前に置き、先生も近くにあった自分の席にかけた。
それに続いて俺も椅子に座ると、先生は話し始める。
「えぇと、まずなんで呼ばれたか、わかる?」
「ジュダストロのことについて教えてくれる、と……」
「うん。そやね。でもそれは一つ目の目的。もう一つ目的があってなぁ」
「は、はい……」
「まぁまぁそう固くならず! ね! そんじゃ一つ目からいきましょか!」
二つ目気になるんすけど……とりあえずツッコむ勇気はなかった。
「ジュダストロについて、ね。キミ、転生補佐官でしょ? 話は聞いとるよ。もう一件仕事こなしたんだって? やるやん」
「あ、ありがとうございます」
「んで、転生先のジュダストロの様子を見て聞いた話とちゃうやん〜って、そういうアレやろ?」
「は、はい! そうです! 俺が見たのは明らかに人が暮らしている場所でした!」
「結論から言えば、アレは過去のジュダストロね。別の世界で死んだ者を召喚して過去のジュダストロに送り込む、と」
「か、過去? そんなことが可能なんですか?」
「うん。だってそれをやるのは女神様やもん。キミ自身別の世界の人でしょ? せやからあんまり言ってもわからんと思うけど、要するに大天使様なのよ。大天使様って言ったら、そりゃあすごいで。万物の理を無視するようなえらいチカラを持った天使様なんやから」
「そ、そんな? じゃあララも?」
「ララ様も女神様の子なんでその素質はあるって感じやね。ただ、それを活かすも殺すも指導者次第……キミもそれには大きく関わるんやからね? 中途半端なことしたら、ヴェイフは終わりやから」
「めちゃくちゃ責任重大じゃないですか……」
「まぁ〜それはちと言い過ぎかな。実は同じような役割を持つ者はララ様以外にもまだ何人かいてな。その人たちが過去に送り込んだ転生者たちに今ジュダストロがあぁなってる原因をなんとかしてもらおうっちゅう魂胆や」
「ララ以外にも……っていうか、そんなことして大丈夫なんですか?」
「バタフライエフェクトで世界が変わってしまう、ってのは確かやね。でもな、このヴェイフの、時の防壁はそれすらも超越してしまう。転生者を送り出してジュダストロが変わってたら防壁解いてこの計画はおしまいってことね」
「そんな単純なもんなんですか」
「単純そうで単純じゃない、でもちょっと単純な作戦やね」
食べるアレじゃないんだから……。
「でもな、この防壁の外も動いていないわけではないから、この防壁が破られるようなことになったらぜぇんぶおしまいってわけ。それがタイムリミットで、それまでに世界を変えましょ〜言うてね。どう? できそ?」
「いや……その、そもそも何したらいいんですか? ジュダストロが滅びてるのもなんでかわからないですし……」
「その謎の解明と原因の根絶こそが転生者の使命! ってわけ。キミはそれをしっかり転生者に指示しなくちゃならないんやけど、メリアちゃん教えてくれなかったん?」
「あ、メリアさんとお知り合いなんですか?」
「知り合いっちゅうか……まぁそうやね。あの子結構ジコチューっしょ。ちゃんと言わんとならん事言わんのよね」
先生も結構ジコチュータイプな気がするけど……とはとても言えない。
「多分あの子は僕に教わることまで全部含めて成長の一環にさせるつもりやったんとちゃうかな。そしたら全部あの子の計画通りで腹立つなー」
「張り合ったりしないでくださいよ?」
「いいや! するね! そしたら僕はあの子の計画以上にキミのこと成長させたる! 覚悟しとってや!」
思ったより熱血なのか知らんが変なとこで火がついたみたいだ……。
でもこれは逆にチャンスかも? メリアさんはあまり教えてくれないけどシンク先生はしっかり教えてくれそうな気がする!
「是非! よろしくお願いします!」
「お! いいねぇ! 素直な子は大好きや。……まぁ、かといって授業を頑張るくらいしか今んとこなんもできんけどね。わかんないことあったらなんでも訊いてや。個別指導でもなんでもしたるからなぁ」
シンク先生は優しく笑う。
イヤミな人かと思ったけど真っ直ぐな人なんだなってようやくわかった。
「じゃ、今日はこんくらいにして帰ろか。ララ様んとこ、早く行ったげてな」
「あ、そうでした」
「多分今頃風紀委員室で……」
「えっ!?」
「ま、がんばってや〜」
それだけ言うと先生は俺を部屋から送り出した。
ララに一体何が!? 俺は風紀委員室へと急いだ。