「ん〜? ポポ、面識があるのかい?」
「え、えっと……その……」
少女は俺の方をちらりと見てまたあの赤面を浮かべる。
「いやその……」
「なんだなんだふたりして。仲間はずれにしないでほしいな〜」
「なんでもないですってば! もうっ!」
ポポと呼ばれた少女は男をはたく。
「あてっ! やったなお前ェ」
「先輩しつこいんですもんっ!」
「おほんっ! ではここらで私たちは失礼する。反省文の提出は明後日まで。魔術室の管理は徹底しろ。では」
エリンは忠告して部屋を出ていった。
「あの人お堅いよね。でもそれでこそ風紀委員! キミもあれくらい厳格な態度を目指すべきなのかもしれないね」
「自分ではあまりそうなりたいと思わないですけどね。仕事だと思って割り切るべきなんでしょうけど」
「そうそう! ワタシだって部長っていう重〜い責を担っている訳で、そりゃあもう自分の意見を押し殺しながら役割を果たしているわけで……」
「どの口が言ってるんですか……」
少女が呆れたようにツッコミを入れる。
「おっと、あの子を待たせたらまた怒られるんじゃないかい?」
「あっ! そうだ! すみません、じゃあ俺はここで……」
「シ、シエルくんっ……!」
「え?」
帰ろうとしたところで少女が声をかけてきた。
「もしよかったら……入部、考えてみて?」
上目遣いでそんなお願いをされるとかなり有効だぞ。
「か、考えておくよ」
内心かなり入りたかったけれどここはクールに去るぜ。
俺はエリンを追うように部室を出た。
すると、廊下のすぐのところでエリンは待ってくれていた。
「……なにをしているんだ。行くぞ」
「へぇ、待っててくれたんだ」
「休んでただけだ!」
意地っ張りなエリンは指摘されたことをはぐらかすように歩き始めた。
三階の巡回は終わりにして校舎二階へ降りてきた。ここは俺たちの教室がある他に、複数の空き教室がありそれも部室として使われている。
廊下を歩いても特に変わったところはなさそうだ。
「ここから校庭が見えるな」
運動部の子たちがトラックを走っている。
空を翔んでいる子たちもいるが、それもこの世界での部活動のひとつなのだろうか……。
「あ、新入生〜〜」
空を翔んでいる天使のひとりが声をかけてくる。……が、かけながら翔んでいってしまうため返事をすることもできなかった。
「な、なんだよ……」
「新入生クンっ!」
目を離した途端、窓の下から声をかけてきた人物が顔を出した。
「どわあっ!」
「あっはは! 驚いた?」
「なんだ一体!」
俺の声をきいてエリンが飛んでくる。
「飛翔競技部のウィン! また何か悪事を企んでいるのか!」
「悪事って……新入生クンの前でそういうこと言うのやめてよね」
「それはお前が普段から」
「はいはい! 小言は聞き飽きたっての! ……んで、新入生クンはこのガンコちゃんに連れられてなにしてんの? まさか早速風紀執行されちゃってるカンジ?」
「あ、いやその……」
軽薄なノリは正直合わせずらいなぁ〜! 俺はバリバリの陰キャなんだぞ!
「彼は風紀委員になった。お前に対して風紀を執行する側だな」
「え〜。せっかく仲良くしようと思ったのに敵かよ〜」
「お前が大人しくすれば敵ではないんだがな」
「大人しくしてんのに捕まえようとするじゃんかぁ」
「お前は自分が校舎の備品をどれだけ損壊させたか覚えているのか?」
「……二個くらい?」
「桁が違うわバカモノめっ!」
「あっははは! そうだっけ〜?」
これはなかなかの不良だぞ……。
エリンも手を焼いているようだしあまり関わらない方がいいかも……。
「あ、そうだ。飛翔競技部入らない?」
「唐突だなー!」
「え? だめ?」
「今のとこ印象悪いですし」
「おいおいおい! オレのことはいいんだけど飛翔競技部のことを知りもしないでそんなこと言うのは許さないぜ!」
素っ気ない態度が気に障ったのか、ウィンは窓に張り付いて俺への説得を開始する。
「お前も翼を持つ天使なんだ! 翔ぶことができる利点を最大限に活かすには日頃からの訓練が必要! 飛翔競技部は空を跳ぶことから空中戦の極意まで追求する! それは天使が最も輝ける瞬間を追い求めることでもある! さぁ、お前もオレたちと共に翼をはためかせアツい汗を流そうぜ!!」
はいこれもう……もうだめです。
チャラと熱血組み合わさったらもうヘッチャラどころじゃないです。
「……なになに? あまりのコーフンに言葉失っちゃったカンジ?」
「俺そういうノリはちょっと……」
「え〜ノリとか関係ないっしょ〜! 空を翔ぶことを楽しむことができればオレたちみんなダチっしょ〜?」
ぐわあああぁ! 致死量のチャラだ!
こんな部活絶対に入りたくないぞ!
「ねぇガンコちゃん。この子借りてってもいーい?」
まずい。エリンのことだから喜んで俺を差し出すだろう。
ここは戦略的撤退を……。
「断る」
「なっ……?」
「今忙しいんだ。私は不本意ではあるがこいつと共に巡回することを義務付けられた。お前に渡すわけにはいかないな」
「……ふーん。相変わらずのガンコちゃんだねぇ」
「余計なお世話だ」
「ま、いいや。もしヒマんなってオレらと遊びたくなったらいつでもおいでよ」
そう言ってウインクすると、ウィンはまた空へと翔かけていった。
「……騒がしいやつめ」
「あいつは風紀委員的には要注意人物って感じ?」
「騒ぐあまりに備品を損壊すること多数だからな。……まぁ、ムードメーカーとして一役買っていることは否定できないがな」
「底抜けに明るそうだったもんな」
「飛翔競技自体は授業でも行う。お前も参加することになるだろう。それに興味が湧いたら入部するのも悪くはないかもな」
「あのノリは無理かなぁ……」
「まあ考えておくといい。あとは一階の巡回だな」
俺たちは残る校舎一階の巡回へと向かった。