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3−7 みずぎかい4

もる子さんの一撃が急さんを捉えます。


捉えた、はずでした。


確実に決まったであろうそこに立っていたのは、もる子さんと、急さんと、そしてもうひとり。



「お姉ちゃんさ。ちょっと隙アりすぎ」



それは急さんに瓜二つの女の子。

顔も背丈も髪型もまるで一緒。

違いと言えば、その髪色。

急さんと正反対に、スカイブルーに染まっていて、所々アクセントのように金色が混じっています。

毛先は彼女と一緒で真っ白でした。

どこからともなく突然表れたその子は、もる子さんの渾身の一撃を片手で難なく受け止めたのです。


「ひ、ひえ〜...。たすかったわ〜」


「お姉ちゃん、ずっと見てたけどさ。手間取りすぎ。なんなん?」


「ご、ごめんちゃ〜い」


「...ま、いいよ。たまには海もアりかもって思ってたし。アんまし日焼けはしたくないけど...」


お腹の前で阻まれたもる子さんの手が少しだけ捻られて、きらりと瞬きがあったと思えば次の瞬間、彼女の姿はそこから消えていました。

私たちの後方で、バシャンと海面に何かが落ちた音が聞こえました。


私はそれが何だったのか、確認することは出来ませんでした。

したくはありませんでした。

持さんが展開していた、もる子さんの背後にあった花盛をすり抜けたことを認めたくなかったのです。


「江戸鮭さん」


「ほ、蛍日和さん...」


「かなりマズイですわ」


「わ、わかってます...!えと、あれも急さんの...」


「あの青髪の方」


「は、はい...?」


「青髪の方、アノ方の名前は振羽禾ふるぱわあ ゆるり。私も実体はよく知りませんわ。ただ、第一軽音部のメンバーとして存在はしている急さんの妹...。ステージ以外では初めて見ましたわ...」


「ど、どういうことですか...?」


「登校しているのかすら分からないんでしてよ。鍍金めっきそうですわよね」


「はい。ゆるりちゃんは私と同じクラスなんです...。はずなんですけれど、その、一回も見たことなくって...。ホントにっ!部活動や文化祭なんかのステージにだけ表れる人ってことしか...」


「ですが、見る限りかなり...いえ姉のいそぎさんよりやると言っても過言ではなさそうですわ...」


「...。」


「...っ」


「これはかなり、絶体絶命ですわね」


「─まだ負けてないよ」


私たちの後方から声がしました。

沖まで飛ばされたであろう彼女がすぐそこにまでやってきていたのです。


「もる子さん...」


私の小さな声は、蛍日和さんにかき消されます。


「そうは言いますけれどね、もる子さん。急さん一人でもワタクシたちの手には余るんですのよ。それが二人、いえそれ以上厄介になって、そうしようっていうんですの」


「蛍日和ちゃん。一回読まれたくらいで喚いちゃ駄目だよ」


「そうは言いましても!」


「天下取るんでしょ?」


「うっ...」


「第一軽音部だかなんだか知らないけどさ。学園内のしかも後輩に負けてて何が天下なの?」


「そうですけれど...」


「まだ負けてないんだからさ。弱気になるには勝手だよ。だけどそれは一人でやっててよね」


「...申し訳ありませんわ」


「江戸鮭ちゃん。どう思う。二人の能力」


「...いそぎさんもゆるりさんも、何かを移動させることができるのだとは思いますが...」


「そうだね」


「ですが、性質が違います...。いそぎさんは壁があったら遮れますが、ゆるりさんはそうではない」


「うん。それも思った。じゃあどうする」


「...まだ考えさせてください」


「わかった」


もる子さんはそれだけいうと、桃色と青色の姉妹へと足を向けました。


「どうするんですの!?」


「やるしかないっしょ」


彼女は振り向くことも、歩みを止めることもありませんでした。


「蛍先輩っ!私行きますからっ!」


「ですが鍍金めっき、あなたではおいつけませんでしてよ」


「わかっていますけどっ!でもっ」


「ここはワタクシがやってやりますわ」


「蛍先輩っそれはっ、」


「言ってる場合ではありませんわよ。もる子さんの言った通り、天下を取ると言っているワタクシたちが、それも部長のワタクシが何もしないでいてはカッコつきませんわ」


「でもっ...」


「大丈夫ですわ。きっと、アナタ方のことは」


「お二人とも、私がいきます」


二人の会話を遮って、私はそう提案しました。


「な、何言ってらっしゃるんですの!?」


「わかりません。でも私がやらなきゃいけないって思うんです...。だから、いかせてください」


「鮭ちゃんさん...」


高鳴っていた心音も、震えていた手も、いつの間にかいつも通りに戻っていました。

むしろどこかいつもよりも洗練されているというか、静かで、澄んでいます。

どうしてそうなったのかは私にもわかりません。

ただ私はもる子さんや蛍日和さんたちに全部を任せて、後ろでただただ見守っているというのが嫌だったのです。


「持さんはさっきまでと同じように、動きがあったらすぐにお願いします」


私は小走りでもる子さんに合流しました。


「来てくれたんだ」


「ええ」


「どう、まとまった?」


「まだです。でもやらせてください」


「ふふ、いいよ。夜久巴やぐはみちゃんも強かったけど、比較にならないよ」


「わかってますよ。あわさんと一緒、いやそれより...」


「どうだろ。私的にはあわちゃんが上かな。今んとこは、あわちゃん、あの二人、夜久巴やぐはみちゃんって感じ。対策もできないし」


「それもそうですね...」


「で、どうしたらいい?」


「そうですね...じゃあ───」


「...江戸鮭ちゃんさぁ、なんか最近、私の扱い雑じゃない!?」


「...それだけ信頼してるってことで」


「ならいっか」


私を残してもる子さんは二人のもとにかけていきます。

きっと二人のどちらか、とくに妹のゆるりさんの方に吹き飛ばされるのは確実でしょう。

ですがこうやって見つけるしかないのです。


「作戦会議終わった感かナ〜?今度は二対二?それとも二対一?少なくなったら負けちゃうんじゃナ〜い?」


「お姉ちゃん。なんでもいいからさっさと終わりにしちゃおうよ。で、遊んでからゆっくり帰るのとかアりじゃない?」


私の、私たちの絶対に負けられない戦いの第二ラウンドが始まりました。




もる子さんは勢いのままに立ち向かっていくものの、それだけではいけないということは重々承知。

一定の間合いを取りながら、相手の隙を伺って、一撃にかける他はありません。

てでらさんのおかげで遠くまで飛ばされることはありませんが、戦いにくいこともこの上なし。


二人の戦い方はおいそぐさんが攻め、ゆるりさんが守りと、完全に分担されています。

もる子さんの一発を軽々と掌で受け止めるいもうとさんと、その手を掴みとったおねえさんが弾き飛ばすといった戦法。

なんどか吹き飛ばされながらも、その度にてでらさんのエフェクトに背中を預けて距離はなるべく保ったまま。

もる子さんも攻め手を変えません。

持さんは攻めとタイミングを合わせて、もる子さんの背後スレスレと姉妹二人を囲む口のあいた立方体をエフェクトで作り出しましたが、ゆるりさんがいてはこれは全く意味をなしませんでした。

先程のようにわざわざ拳を遮ることもなく、囲むエフェクト自体に触れると、彼女たちをすり抜けて全く別の場所へと移動させてしまいます。


攻めに守りが、何度も何度もルーティンのように同じ光景が繰り返されました。


二人を観察して最低限わかったことは、姉のいそぎさんも、妹のゆるりさんも対象に触れなければ能力が発動しないということ、触れた相手を吹き飛ばす、移動させるということ。

そして対象物には制限があるのではないかということです。


離れた場所から能力を行使できるなら、急さんを追い詰めた時点で突撃してくるもる子さんを跳ね飛ばせたはずですから、触れるということは確定。

吹き飛ばす、移動させるという性質はふたりとも違っていて、急さんの場合は壁に阻まれればそこで移動は止まる。

緩さんは途中に壁があろうが貫通するということです。

考えるに、お姉さんは線を引くように移動させる能力、妹さんはある地点から別の地点へと移動させるものだと思いました。

要するに急さんはドラッグアンドドロップのようなもので、移動経路が確保されて無ければいけない。

ゆるりさんはカットアンドペーストのようにある一定の場所で切り取った物体を別の場所に転送しているのではないかと。

確証はありません。ありませんが、軌道を見る限りはそうであろうと、そうであってほしいと思いました。

最後に対象物の制限。

急さんは瞬間移動じみた移動を駆使して蛍日和さんの目の前に移動しました。

それはきっと吹き飛ばす能力の応用で、移動させるという点を自身に作用させているに違いありません。

対して緩さんは自身に作用させる素振りを見せません。

急さんのようにごく短い距離でも能力で移動するわけでもなく、必ず足を使った移動をしていて、もる子さんの攻撃をガードする際にも必ず目視。

一度、フェイントをかけたもる子さんが急さんではなく緩さんに狙いを変えた時、彼女は移動ではなく、手を伸ばして物理的にガードをしようと試みました。

ですが姉の急さんに触れられたことで、緩さんは即座に移動、拳は空を切りました。

もしも自身に能力の使用が可能なら、確実にそちらの能力で避けたはずですが彼女はそうしなかったのです。

発動までのラグがあるのか、それとも何か別に理由があるのかはわかりません。

それでも自身に能力を発動できない理由があるのではないかと思いました。


以上が今わかる最低限の条件。


急さんの方はてでらさんでなんとかなるとしても、問題はゆるりさん。

性質の違う移動方法を妨げる手段は未だに思いつきません。

しかし、何故か彼女はもる子さん自身を対象として物を通り過ぎながら移動させると言う手段を使いませんでした。

直接作用させるのはお姉さんの能力だけ。

直線上に移動させる能力は、簡単にもる子さんの背後に展開したエフェクトで行き先までの道程を遮ることで無効化。

決して対処法がわかるからと言って容易く対処できるものではありませんが、何とかはなっています。

それと代わって妹のゆるりさんは、襲い来るもる子さんの一発一発をその手で確実に防ぎ切るという離れ業をやってのけています。

やはり今現在厄介なのは明らかに青髪の妹。

もる子さんも防がれるのを承知で攻勢に出ます。

ですが触れられるてしまえば体はいつの間にか海の上ということになりかねませんから、狙うはお姉さん一点集中。防がれたとわかったらすぐさま距離を取ります。


妹さんに攻撃を防がれ、一瞬の隙をつかれたもる子さん。まるで扉をノックするかのように急さんが手首に触れたことで強制的に引き離されます。

後方に展開されたお花で勢いを殺して、もる子さんは空に静止したそれにぶら下がりました。

姉妹は追撃に出ることもなく、二人でおしゃべりなんかをしています。


ゆるりちゃんや。そろそろパシッと決めちゃってもいいんじゃナい?」


「そうだね。準備運動はこの辺にしよっか。そろそろ思いっきり動くのもアりよりのアりかもね」


「っちゅ〜ワケで〜、もる子ちゃ〜ん!ぶら下がってるところ悪いけど、終わりにしちゃうからナ〜!」


二人は圧倒的に有利な戦況を保っていましたが、決して二人一緒に攻めてくるという訳ではありません。

むしろお二人が防戦一方といったところ。

一点集中で狙われる急さんへの攻撃を緩さんがガードして、隙があるときだけ急さんが攻勢に。

二対一といいつつも、実質は一対一と同じような状況です。

ですが、彼女たちの口ぶりからするとここからが本番のようでした。


二人はまっすぐもる子さんを見つめると、にっと口角を上げました。

そして小さく手を上げるとお互いの指を絡ませて、まるで恋人同士が手をつなぐようにぎゅっと握り合いました。


「ひとりじゃないよ」


妹さんが呟くようにそう言うと、お姉さんの急ぐさんはまたたく間にもる子さんの目の前に移動。

持さんはエフェクトで遮ろうとするも一瞬遅かったのか、二人を隔てるものは何もありません。

急さんは、もる子さんの頭に手をかざすようにして、親指で彼女の額を叩こうとします。

飛ばされると思ったもる子さんは仰け反りながらエフェクトを離してそれを避けきりました。

ついでに、お花を蹴り飛ばして速度をつけて海面へと自ら落下。

凪のギリギリへと、体勢を変えながら着地するもる子さんでしたが、足をついた場所の目の前には既にゆるりさんが回り込んでいました。

自身に能力をかけられるはずのない彼女がいつの間に移動していたのか、どうやって移動したのかはわかりません。

しかしもる子さんは既にガッチリと腕を掴まれていました。

ですがそのまま終わるわけにはいかないと、掴まれた緩さんの手を返して逆に掴み取ります。

ハッとした緩さんは、カットアンドペーストを発動させません。

やはり想像通り、自分には使えない。それどころか対象に自分が含まれた場合も発動は不可能のようでした。

それを見た急さんは顔を顰めながら即座に移動。

反撃を食らうならば、と妹さんもろとも海面上空へと場所を移します。

空でダマになった三人でしたが、もう一発の急さんの一撃でもる子さんと、緩さんは姿を消し大きな水しぶきが上がりました。


次に声が聞こえた場所は私の後方。

振り返ると、既に蛍日和さんと持さんの間に割り込んだ急さんの姿がありました。


「は〜い、決着決着ぅ。勝負ありって感じじゃナ〜い?」


固まってしまった二人は何も答えませんでした。


もる子さんは海の中、蛍日和さんと持さんの間にには急さん。

絶対的なピンチです。

ここからもる子さんと同様に投げ捨てられてはどうしようもありません。

ですが私は負けたとは思っていませんでした。

まさに今この状況が、私がもっていきたかった状況だったのですから。


てでらさん!」


「──っ!」


私の声とともに、持さんは大勢を低くしました。

それと同時に花のエフェクトで急さんの全面を覆います。


二人に歩みを進めた時、私がもる子さんに言った言葉は「急さんと緩さんを分断してほしい」ということでした。

それにできれば、急さんだけを残してほしいと。


対処法が確立されていない緩さんよりも、一度は追い詰めたの急さんの方が勝機はありますし、それに彼女には大きな油断があったように見えたのです。

自分よりも格下で、能力も分かりきっている私たちに負けるはずがないという慢心。

勝利したという思い込みを得た時に彼女は一番の隙を晒すと。

持さんが私の意図をくんでくれて本当に良かったと思いました。

全身を囲んでしまえば、こちらからの攻撃が通らなくとも負けることはありませんから。


「あらら〜...。まいったナこりゃ」


「持さん!ナイス!」


私は今度こそ策が通用したことに舞い上がりました。


「鮭ちゃん!やった!やったよ!」


彼女が駆け寄ってきて、私達は互いに手を握り合いました。

喜ぶ私たちをよそ目に、蛍日和さんは急ぎさんと距離を詰めました。


「おっほっほ!どうですこと〜?いそぐさん!一度にならず二度までも同じ手段で捕まって恥ずかしくありませんこと〜?これはワタクシたちが第一を名乗るのもそう遠くないのではないですかしら〜!」


勝ったとみるや一転攻勢な蛍日和さんですが、まだ完全勝利というわけではありません。

いまごろもる子さんと海を漂っている妹さんがいるわけですから、彼女たちが戻る前に次の一手を考えなければいけません。


ですが蛍日和さんはやっぱりそんな事はもうすっかり頭から抜けているようで、煽りが止まりません。


「どうですの〜急さん?どんな気持ちですの〜?第二軽音部、いえそれ以下の実力、まだできたばかりの部活、それも低学年の一年生で能力もない転校したてのヒヨッコに負けた気分ってどんな味ですの〜?苦いですの〜?甘いですの〜?それとも涙の味ですの〜?」


「...蛍日和さん、そのへんに...」


「そうですよ蛍先輩っ!まだゆるりちゃんがいるんですからっ!」


「そうですよ...」


「煽るのはふたりともやっつけてからにしましょうっ!」


「あ、煽るのは煽るんですね...」


「それでもほぼ勝ちは決まったも同然ですわ〜!あとはもる子さんのパワーと江戸鮭さんのブレインでゴリ押し安定ですわ!」


「そんな他人任せな...。第一、まだ勝ちも決まってませんし...」


「ホントだよね〜。勝ちも決まってナいのに、勝った気でいるナんて、ありえナいって蛍日和パイセ〜ン」


「あら?あらあらあら〜?負け惜しみですの急さん?負け惜しみですの〜?一人じゃバッチシ攻略法見つけられちゃってますのに〜、負け惜しみですの〜?」


閉じ込められて不機嫌そうにしている急さんをよそ目に、エフェクトの正面をコツコツ叩きながら、蛍日和さんのお喋りは止まりませんでした。

そんな蛍日和さんを見かねたのか、急さんは腕を組んで言いました。


「あ〜...じゃあ二人にナるね。それなら言うのもアりでしょ?」


「へ...?二人ですの...?」


「そうだけど?」


確実に全面をエフェクトで取り囲んだはずの急さんの後ろ、エフェクトの内部に、彼女と正反対な色の髪が姿を見せました。

スカイブルーに染まっていて、所々アクセントのように金色が混じっています。

毛先は彼女と一緒で真っ白で...。


「勝ちっていうのは、思いアがりも甚だしいよ」


どこからどう見ても急さんの妹、振羽禾ふるぱわあゆるりさんでした。


彼女はエフェクトに手を触れると、あっという間に拘束は解除されます。

目の前には、先程まで戦っていたもる子さんはいません。

いるのは持さんと、私と、ヘイトを集めまくった蛍日和さんだけ。


二人はゆっくりと歩みを進めると、同時に蛍日和さんの頭を撫でました。

それの意味するところは、もちろんナデナデしたいなんてカワイイ感情ではないのは当然で...。


「「じゃ〜ね」」


どちらの能力が発動したのかは分かりませんが、また遠くで水しぶきが上がりました。


「お姉ちゃんさ。さっきも言ったけど油断しすぎ。何回同じ手に引っかかってんの?アりかなしかで言ったらなしすぎるよ」


「ごめ〜。でもまあ、一緒だったからいっかナ〜って」


「妹がいないと何もできない姉をもって、緩はとても情けない」


「酷いこといわナいでよ〜。頼りにしてる〜」


「じゃァ、せめて朝は自分で起きて」


「その提案はナしで」


「アりだよ」


呑気な会話をする二人とは正反対。

私と持さんにはもう、どうしようもありませんでした。


エフェクト内には確実に急さんしかいなかった。

でも私達の目の前で、妹の緩さんが姿を見せた。

それも急さんの背後に伸びた影の中から、影がまるで隠れ家であるかのように、そこから立ち上がるように現れて。

よくよく考えれば最初に現れたときも、そしてさっきもる子さんの腕を掴んだときも緩さんは突然出てきました。

そのトリックは、急さんの影に緩さんが潜んでいるという荒唐無稽なもの。

ドラッグアンドドロップやカットアンドペーストだけでも厄介この上ないのに、彼女たちにはまだ隠している能力があったのです。


確かに誰も能力は一人一つだとは言っていません。

思い返せば担任である叙城ヶ崎先生と相まみえたときも、手から白線出しながら、もる子さんの攻撃を防いだ際には花盛のエフェクトが見えていました。


迂闊でした。

能力ひとつだけ、という思い込みが私を、私たちの首を絞めました。

慢心していたのは私だったのかもしれません。

戦える人は、もういない。


「形勢逆転だけど、どする?持鍍金てでらめっきちゃんや?煽ってごめんナさいしたら許すよ多分、多少は、ちょっとナら」


「お姉ちゃん、煽り耐性なさすぎ」


「どっかの妹みたいにゲームやってキレ散らかすより良いと思うナ」


「は?キレてねえし。私がいつキレたの?ねえ?アりえんし」


「もうそれがキレてるんだよ我が妹ぉ...。ま、いいや、さっさと終わりにしてビーチでのんびりしましょうや〜」


「それアり」


二人がだんだんと近づきます。

もう駄目だとは思ったのか、持さんは私の腕に顔を寄せました。

私は彼女たちを見つめて唇を噛むことしかできませんでした。


ですがそのとき、二人の後ろから聞き慣れた声がしました。


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