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ep16:聞いてみますか?

「ごちそうさま。ふう、美味かったぁ……」


 買ってきたばかりの炊飯器でご飯を炊き、スーパーで買ったレトルトカレーをかけて食べた。ハルキが買ってきてくれたカレーには敵わなかったが、このカレーも十分に私たちを唸らせた。


「地球の食事は本当にヤバいですね。こと食事のレベルに関しては、ヴェルミラは何百年も遅れている気がします」


「全くもって、リオの言う通りだ。食の力だけでヴェルミラが侵略されてもおかしくないくらいに……あ、どうだった? 頼んでおいた件」


 頼んでいた件とは、ヴェルミラが地球から手を引く作戦は無いだろうかと、リオに考えてもらっていたのだ。子供の頃から、この手のアイデアはリオに出してもらうことが多かった。


「一番現実的なのは、僕たち全員が病気になることでしょうね。僕たち三人の体調が悪いイコール、ヴェルミラ人の体質は地球に合わないって事ですから。ただ難しいのは、皆が同じ病気になるのが好ましいってことと、簡単に病気にはなれないってことでしょうか」


「感染症なんかはどうだ? それなら、俺たち同じ病気になれるだろ?」


「地球の感染症に関しては、セレスタでの移動中に抗体を打ち込まれているようです。なので、まだ見つかっていない感染症を探すか、これから発生する感染症を見つけるか。――どちらにしても、全くもって現実的ではありませんが」


 リオが言うには、万一新たな感染症に罹ったとしても、ヴェルミラでの身体検査で一時的な症状とみなされるだろうとのことだった。


「究極、僕たちが死んでしまっていたら、流石にヴェルミラ統律院も地球を諦めるでしょうけどね、ハハハ……」


 自虐的に笑うリオに、レクトが「それだ!」と声を上げた。


「俺たちは死んでしまったことに出来ないか? 幸い、ヴェルミラは地球から遠すぎて、俺たちと通信出来ない。期日になっても帰ってこない俺たちを探しに来ると、死んでたってオチだ。どうだ、リオ?」


「まあ……それなら、出来るかもしれませんね。ハルキさんたちに協力してもらって、『やつらは越してきて数日で死んだ』なんて言ってもらう感じですかね。――ハルキさんたちに、なんて説明するかが悩むところですが」


「ハハハ、そこは、悪の組織に追われている! なんて言っておけばいいじゃん。――うん、いけるぞ、これならいける!」


「……ア、アンタたちさ、それって一生ヴェルミラには帰れないってことになるけど、ちゃんと分かってる? 特にリオ、アレンともう会えなくなるんだよ?」


 アレンとはリオの兄貴だ。私たちが育ったオルマーシャ孤児院から出た、初めての量術試験合格者だった。


「そりゃ、会えなくなるのは寂しいです。だけど、地球の人々を見殺しにするくらいなら、僕はヴェルミラに帰れないという選択肢もあると思っています。――実はですね、今回の件にあたって、何故僕たちが任命されたのか改めて考えてみたんです。聞いてみますか?」


 久しぶりに聞いた、リオの「聞いてみますか?」


 リオが自信のある時によく使う言葉だ。

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