「じゃサリアちゃん、車で送ってやれなくて申し訳ないけど、ゴミ屋敷清掃頼むな!」
レクトとリオ、そしてハルキの三人は、引っ越しの現場へとトラックで出発した。
「それじゃ、私も行ってくるね。何かあったらLINEしてよ。すぐに駆けつけるから!」
同じ現場に行くミツキも、原チャリとやらでハルキたちのトラックを追う。
さあ、私も行くか。初めての一人仕事。
***
ゴミ屋敷の現場までは、自転車で十五分ほど。リサイクルショップで買った、この自転車を私は気に入っている。
今日は雲一つ無い快晴、少しだけ強い風が心地いい。
見通しの良い通りを抜け、街中に入ったところで大きな人だかりがあった。少し煙も立っている、何かあったのだろうか。
「何かあったの――?」
少し離れたところから、スマートフォンで撮影している男子学生に声をかけた。
「建設中の現場から、鉄骨が倒れてきたらしくって。下敷きになった車に乗ってる人が、出てこれないみたいなんです」
私は彼に礼を言い、現場に近づいてみた。助手席は完全に潰れ、運転席にまで鉄骨がめり込んでいる。今も重さでミシミシと音を立てており、下手に刺激を与えると一気に車が潰れてしまいそうだ。運転席の彼女は、周りの静止も聞かず窓ガラスを叩き続けていた。
イレイズを使えば……
だけど今、こんなところで発動させたら大騒ぎになるのは間違いない。しかも、さっきの学生のようにスマートフォンで撮影している者も多くいる。一体、どうすれば……
ビシッ!!
その時、彼女が叩き続けいていた窓ガラスに大きなヒビが走った。私は咄嗟にイレイズを発動させていた。
ガヤガヤと騒がしかった周囲が、一瞬で静まりかえる。
眼の前の大きな鉄骨が忽然と姿を消したのだ、驚くのも無理は無い。
「な、なにが起こったの……?」
「てっ、鉄骨が消えた!? き、消えたよな!?」
何人かが騒ぎ出した途端、嵐のような大騒ぎになった。私は自転車を押して人混みを抜けると、ゴミ屋敷へと自転車を走らせた。
***
「サ、サリア!! 鉄骨事故の件、お前だよな!?」
仕事を終えたばかりのレクトが、ドタドタとリビングに入ってきた。すぐ後ろには、リオもいる。先に仕事を終えた私は、味噌汁の味見をしているところだった。
「――そ、そう。やるかどうか、一応迷ったんだけど」
「し、仕方なかったんですよね、サリアさん」
私は「ごめん」と頭を下げた。
「ちなみに、どんな状況だったんだ?」
車体がミシミシと軋んでいたこと、更にガラスにヒビが入ったことがキッカケで、咄嗟にイレイズを発動してしまったと説明した。
「――そうか、それは仕方ない。俺もイレイズを使えたなら、きっと同じ行動を取ったよ。助かって良かったじゃないか、その女性も」
「偉いですよ、サリアさん。その場にいたのが、サリアさんで本当に良かったと思います」
「――で、見たか? この動画?」
レクトはテレビ局公式のニュース動画を再生した。
そこにはハッキリと、鉄骨に右手を向ける私が映っていた。