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ep22:七並べ

 お好み焼き――


 またもや私たちが初めて出会う料理だ。ハルキが勧めてくれたもので、美味しくなかったものは一つもない。


 キャベツがたっぷりと入った生地を、ハルキがホットプレートの上で広げる。ジューッという音と、白い煙が立ち上がった。


「おおお、いい音!」


 レクトがテーブルに乗り出して、ホットプレートに顔を近づける。生地が固まっていく様子をじっと見ているレクトは、まるで子どものようだ。


 そうそう、お好み焼きは調理したものをその場で食べるらしい。こんなライブ感のある料理、ヴェルミラには存在しない。


「次は豚バラを乗せるぞ、脂が飛ぶから離れてろよ」


 豚バラの焼けた香ばしい匂いが漂ってくると、「我慢できん!」とレクトは声を上げた。



 そして、待ちに待った最初の一枚が焼ける。みんなの視線を感じながら、火傷しないよう慎重に一口目を運んだ。


「――ど、どうだ、サリア!?」


 お好み焼きを頬張った私を、レクトが覗き込む。言葉より何より先に、笑みがこぼれてしまった。


「あーーーっ、すっげー美味いんだな! お前が美味しいもの食べた時の顔だもん! ハッ、ハルキさん、俺にも早く!!」


「分かった分かった、次はレクトとリオの分な。ほんとお前ら、飯の時はガキみたいだな。作り甲斐あるよ俺も、ハハハ!」


 ハルキはすぐさま、新しい生地をホットプレートに乗せる。再び、ジューッという音がリビングに響いた。



***



「やばい、お好み焼き美味すぎた……ビールとのコンビネーションも最高だった……」


 レクトは座椅子にもたれ、満足気にお腹をさすっている。焼肉に続き、カレーライスの座を脅かすものがまた登場してしまった。


「ねえねえ、まだ時間あるしトランプでもしない?」


「お、いいなミツキ。じゃ、俺の得意な七並べでもやるか!」


 今のところ、昼間の事故の話は一度も出てこない。もう忘れてしまっているのだろうか。それとも、あえて避けているのだろうか。


 ――それより今は、七並べのルールチェックだ……レクトとリオは目を閉じている。私と同様、トランプと七並べの情報にアクセスしているのだろう。


「よしっ、やろうぜ七並べ! 全く負ける気がしない!!」


「いや、これはきっと僕の得意分野です。自信があります」


「ハハハ、お前ら口だけは達者だな。負けたら皿洗いだからな!」



***



「はい、こっちがサリアちゃんのカフェオレ、こっちがリオくんのココアね」


 ミツキがキッチンから飲み物を持ってきてくれた。ミツキも座って、いつものブラックコーヒーを飲む。


「ねえ、ミツキ。ハルキっていつもあんなにトランプ弱いの?」


「プッ。もう、サリアちゃんったらハッキリ言うんだから。よく負けるくせに、自分では得意だと思ってるんだから不思議よね」


「自分がパスしてでも誰かを止めたいみたいですね、ハルキさんは。ことごとく、レクトくんが止められていましたが」


 十ゲームやった七並べの結果は、一位がリオ、同率二位が私とミツキ、四位がハルキで最下位がレクトだった。いま、ハルキとレクトは皿洗いをしている。


「そういやさ、今日事故あったよね? サリアちゃんが向かった近くじゃなかったっけ?」


 その話題は突然放たれた。リオの顔に緊張が走る。


「――そ、そうだね、近くだった。すごい人混みだったからビックリした」


「それで、電柱? いや、鉄骨だっけ? 急に消えたとかなんとか。そんな事、あるわけないじゃんねぇ。今はAIとかでフェイク動画とか簡単に作れちゃうんでしょ?」


「え、ええ、確かに流行ってますねフェイク動画。僕もじっくり見たわけじゃないんで、よく分からないですが」


「――まあ何より、サリアちゃんが巻き込まれないで良かったよ。お兄ちゃんとも言ってたんだ、無事で良かったって」


 ミツキは本当はなにかに気づいているのだろうか。


 少なくとも、私はミツキが何かを隠しているようには見えなかった。

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