お好み焼き――
またもや私たちが初めて出会う料理だ。ハルキが勧めてくれたもので、美味しくなかったものは一つもない。
キャベツがたっぷりと入った生地を、ハルキがホットプレートの上で広げる。ジューッという音と、白い煙が立ち上がった。
「おおお、いい音!」
レクトがテーブルに乗り出して、ホットプレートに顔を近づける。生地が固まっていく様子をじっと見ているレクトは、まるで子どものようだ。
そうそう、お好み焼きは調理したものをその場で食べるらしい。こんなライブ感のある料理、ヴェルミラには存在しない。
「次は豚バラを乗せるぞ、脂が飛ぶから離れてろよ」
豚バラの焼けた香ばしい匂いが漂ってくると、「我慢できん!」とレクトは声を上げた。
そして、待ちに待った最初の一枚が焼ける。みんなの視線を感じながら、火傷しないよう慎重に一口目を運んだ。
「――ど、どうだ、サリア!?」
お好み焼きを頬張った私を、レクトが覗き込む。言葉より何より先に、笑みがこぼれてしまった。
「あーーーっ、すっげー美味いんだな! お前が美味しいもの食べた時の顔だもん! ハッ、ハルキさん、俺にも早く!!」
「分かった分かった、次はレクトとリオの分な。ほんとお前ら、飯の時はガキみたいだな。作り甲斐あるよ俺も、ハハハ!」
ハルキはすぐさま、新しい生地をホットプレートに乗せる。再び、ジューッという音がリビングに響いた。
***
「やばい、お好み焼き美味すぎた……ビールとのコンビネーションも最高だった……」
レクトは座椅子にもたれ、満足気にお腹をさすっている。焼肉に続き、カレーライスの座を脅かすものがまた登場してしまった。
「ねえねえ、まだ時間あるしトランプでもしない?」
「お、いいなミツキ。じゃ、俺の得意な七並べでもやるか!」
今のところ、昼間の事故の話は一度も出てこない。もう忘れてしまっているのだろうか。それとも、あえて避けているのだろうか。
――それより今は、七並べのルールチェックだ……レクトとリオは目を閉じている。私と同様、トランプと七並べの情報にアクセスしているのだろう。
「よしっ、やろうぜ七並べ! 全く負ける気がしない!!」
「いや、これはきっと僕の得意分野です。自信があります」
「ハハハ、お前ら口だけは達者だな。負けたら皿洗いだからな!」
***
「はい、こっちがサリアちゃんのカフェオレ、こっちがリオくんのココアね」
ミツキがキッチンから飲み物を持ってきてくれた。ミツキも座って、いつものブラックコーヒーを飲む。
「ねえ、ミツキ。ハルキっていつもあんなにトランプ弱いの?」
「プッ。もう、サリアちゃんったらハッキリ言うんだから。よく負けるくせに、自分では得意だと思ってるんだから不思議よね」
「自分がパスしてでも誰かを止めたいみたいですね、ハルキさんは。ことごとく、レクトくんが止められていましたが」
十ゲームやった七並べの結果は、一位がリオ、同率二位が私とミツキ、四位がハルキで最下位がレクトだった。いま、ハルキとレクトは皿洗いをしている。
「そういやさ、今日事故あったよね? サリアちゃんが向かった近くじゃなかったっけ?」
その話題は突然放たれた。リオの顔に緊張が走る。
「――そ、そうだね、近くだった。すごい人混みだったからビックリした」
「それで、電柱? いや、鉄骨だっけ? 急に消えたとかなんとか。そんな事、あるわけないじゃんねぇ。今はAIとかでフェイク動画とか簡単に作れちゃうんでしょ?」
「え、ええ、確かに流行ってますねフェイク動画。僕もじっくり見たわけじゃないんで、よく分からないですが」
「――まあ何より、サリアちゃんが巻き込まれないで良かったよ。お兄ちゃんとも言ってたんだ、無事で良かったって」
ミツキは本当はなにかに気づいているのだろうか。
少なくとも、私はミツキが何かを隠しているようには見えなかった。