「彼女ってどんな色のリップが似合うと思います?」
ミツキに連れられて、デパートの華やかなフロアにやってきた。いかにも高そうな化粧品ブランド店がひしめきあっている。
「こちらのお客様でしたら……うーん、凄くいい意味で迷いますね。本当にどれもお似合いになりそうですから」
リップ……? ああ、唇に色を入れるものか。普段は化粧っ気のないミツキだが、今日は薄っすらとメイクしているのが分かる。お出かけの時は、そうするもののようだ。
「では……こちらはいかがですか? パールをイメージしたもので、キラキラとしたテクスチャが上品な唇を演出してくれますよ。重ね付けをすれば、アクセントとしても使えます」
テ、テクスチャにアクセント……? ミツキは意味が分かっているのかいないのか、「お試しお願い出来ますか」と言っている。
スタッフはリップをヘラのようなもので削り取ると、ブラシを使って私の唇に塗り始めた。
初めての口紅……凄く、不思議な感じ……
「いい! いいじゃん、サリアちゃん! どこのセレブって感じ! めっちゃ似合ってる!!」
いつものように全力で褒めてくれるミツキ。販売スタッフも隣で大げさに褒めてくれている。
「じゃ、それください! あまり時間無いので、早めに包んでくれたら!」
「ミ、ミツキ、それ幾らするの? 私、あんまりお金持ってきてないよ」
「何言ってるの、私からのプレゼントだよ。以前、私に化粧教えてって言ったでしょ? ――その時に決めたの、絶対サリアちゃんにリップをプレゼントするんだって」
ミツキは、私の大好きな笑顔でそう言った。
***
「遅くなってごめんね! レクトくん、リオくん!」
ミツキと一緒に『出演者さま待機室』という部屋に入った。中にいたレクトとリオは、シルクハットに蝶ネクタイと、すっかりマジシャンの姿になっている。
「アハハ、レクトもリオも似合ってる似合ってる。それだけで凄いマジックが出来そうじゃん。――ん? 2人とも、どうした?」
「きょ、今日は雰囲気が違いますね。――と、とくにサリアさん」
「ミ、ミツキさんは、いつにもまして素敵なんだけど、サリア……お前は、何ていうか……」
「そうそう、今日のサリアちゃん、とっても素敵でしょ! お化粧して、こんな服着たら全然違っちゃうんだから」
ミツキがそう言った後も、レクトたちは口を開かずジロジロと私を見ている。
「な、なに!? 思ってることがあったら、ハッキリ言いなよ」
「い、いや、なんだその……お前も女なんだなって……あ。これ一応、褒めてんだからな!」
「レ、レクトくん! 開始三分前になりました、ステージ裏に移動しますよ!」
レクトとリオの二人はそそくさと待機室を出ると、入れ替わりにハルキが入ってきた。
「おう、遅かったなミツ……」
久しぶりに見たハルキの硬直は、今までで一番長い時間を記録した。