目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

ep25:マジックショー

「何よ、黙りこくって。今日のサリアちゃんいつもと違うでしょ? どう?」


「ど、どうって……い、良いんじゃないかな、凄く……」


「もう……ホントに女子のこと、上手に褒めたり出来ないんだから。そんなだから、ずっと彼女出来ないんだよ。ね、サリアちゃん」


 そっか。ハルキは彼女いないんだ。何故か、いないものだと勝手に決めつけていたが。


「そ、それより、そろそろ行こうか。もうすぐ始まるぞ、レクトたちのステージ」



 それほど大きくない会場に入ると、私たちは出来るだけ後ろの席に掛けた。前方の席は、すでに子どもたちで埋まっている。


「案外人気あるんだね、マジックショー」


「まあね。他の出し物といえば、おじさんバンドとか、おばあさんたちのフラダンスだったりするから。今年はお兄ちゃんじゃないから、ビックリするんじゃないかな。――あ、始まるよ」


 ステージが暗転すると、中央にスポットライトが当てられた。そこに司会者らしき女性が現れる。


「みなさん、こんばんはー! 毎年恒例のマジックショー、今年はなんと、新人さんが登場しますよ! 毎年マジックをしてくれていた鳥居さんのお隣に越してきた、イケメンお兄さんの二人組み、レクト&リオです! それでは、ステージへどうぞ!」


 大きな拍手の中、女性と入れ替わりにレクトとリオが入ってきた。


 っていうか、イケメン二人組……?


「こんばんは! 俺がマジシャンのレクト! で、こっちが!」


「――ア、アシッ、アシスタントのリオです」


「ハハハ、アシスタントの方が緊張してどうするの! リオくーん、頑張れー!!」


 ミツキは手を振り、エールを送った。


「じゃ、挨拶代わりに皆さんのリクエストでもお聞きしましょうかね? さて、取り出したのは、この白い箱。なんでも言ってみて? この箱から出してみせましょう」


 レクトはどういう場所でも物怖じしない。数少ないレクトの尊敬できるところだ。だが、子どもたちの反応は芳しくないようだ。


「――なんか、子どもたちの反応良くないね。どうして?」


「まだレクトくんを信用してないんじゃない? ここからよ、きっと」


 ボソッと呟いた子どもを見つけたのだろうか、レクトは指差して「大きな声でもう一度」と言った。


「ゾ、ゾウ……」


 会場がドッと沸く。


 ――さあ、どうするレクト。


「オッケー、ゾウさんだね! さあ、この箱に注目! ワン……ツー……スリー!」


 次の瞬間、『パオーン』という大音量の鳴き声が会場に響いた。


「アハハ、ごめんね! 箱より大きいものは声だけの出演になるから!」


 会場が子どもたちの笑い声であふれかえる。こうなったらレクトのものだ、次々にリクエストが飛んできた。


「なになに? 次はヘビだって? オッケー、ワン……ツー……スリー!」


 今度は白い箱から本物のヘビが飛び出した、しかも猛毒のコブラだ。レクトはコブラのしっぼをつかみ、放り投げる仕草をすると、会場から「キャー!!」という悲鳴が上がった。


「なんてね。この子は俺の帽子に戻ってもらいましょう。はい、おかえり」


 レクトは器用にコブラをシルクハットに戻すと、深々とお辞儀をした。


「さあ、本番はこれから! 今日は楽しんでいってくれよ!!」


 会場は大歓声に包まれた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?