「何よ、黙りこくって。今日のサリアちゃんいつもと違うでしょ? どう?」
「ど、どうって……い、良いんじゃないかな、凄く……」
「もう……ホントに女子のこと、上手に褒めたり出来ないんだから。そんなだから、ずっと彼女出来ないんだよ。ね、サリアちゃん」
そっか。ハルキは彼女いないんだ。何故か、いないものだと勝手に決めつけていたが。
「そ、それより、そろそろ行こうか。もうすぐ始まるぞ、レクトたちのステージ」
それほど大きくない会場に入ると、私たちは出来るだけ後ろの席に掛けた。前方の席は、すでに子どもたちで埋まっている。
「案外人気あるんだね、マジックショー」
「まあね。他の出し物といえば、おじさんバンドとか、おばあさんたちのフラダンスだったりするから。今年はお兄ちゃんじゃないから、ビックリするんじゃないかな。――あ、始まるよ」
ステージが暗転すると、中央にスポットライトが当てられた。そこに司会者らしき女性が現れる。
「みなさん、こんばんはー! 毎年恒例のマジックショー、今年はなんと、新人さんが登場しますよ! 毎年マジックをしてくれていた鳥居さんのお隣に越してきた、イケメンお兄さんの二人組み、レクト&リオです! それでは、ステージへどうぞ!」
大きな拍手の中、女性と入れ替わりにレクトとリオが入ってきた。
っていうか、イケメン二人組……?
「こんばんは! 俺がマジシャンのレクト! で、こっちが!」
「――ア、アシッ、アシスタントのリオです」
「ハハハ、アシスタントの方が緊張してどうするの! リオくーん、頑張れー!!」
ミツキは手を振り、エールを送った。
「じゃ、挨拶代わりに皆さんのリクエストでもお聞きしましょうかね? さて、取り出したのは、この白い箱。なんでも言ってみて? この箱から出してみせましょう」
レクトはどういう場所でも物怖じしない。数少ないレクトの尊敬できるところだ。だが、子どもたちの反応は芳しくないようだ。
「――なんか、子どもたちの反応良くないね。どうして?」
「まだレクトくんを信用してないんじゃない? ここからよ、きっと」
ボソッと呟いた子どもを見つけたのだろうか、レクトは指差して「大きな声でもう一度」と言った。
「ゾ、ゾウ……」
会場がドッと沸く。
――さあ、どうするレクト。
「オッケー、ゾウさんだね! さあ、この箱に注目! ワン……ツー……スリー!」
次の瞬間、『パオーン』という大音量の鳴き声が会場に響いた。
「アハハ、ごめんね! 箱より大きいものは声だけの出演になるから!」
会場が子どもたちの笑い声であふれかえる。こうなったらレクトのものだ、次々にリクエストが飛んできた。
「なになに? 次はヘビだって? オッケー、ワン……ツー……スリー!」
今度は白い箱から本物のヘビが飛び出した、しかも猛毒のコブラだ。レクトはコブラのしっぼをつかみ、放り投げる仕草をすると、会場から「キャー!!」という悲鳴が上がった。
「なんてね。この子は俺の帽子に戻ってもらいましょう。はい、おかえり」
レクトは器用にコブラをシルクハットに戻すと、深々とお辞儀をした。
「さあ、本番はこれから! 今日は楽しんでいってくれよ!!」
会場は大歓声に包まれた。