翌朝、暗いうちから私たちは家を出た。アレンに従うつもりは無かったが、念の為ヴェルミラの服を着用している。
「ヴェルミラの服を着るのは、サリアが一番嫌がりそうだったのにな」
「どうしてかな……この服を着ていく方が、いい気がしたから」
私たちは二台の自転車で目的地へと向かっている。一台はリオ、もう一台はレクトと私で二人乗りだ。地球に降り立った日に会った、警察官の大木に出会わないよう私は密かに願った。
「結局、夜中まで話し合いましたが、良いアイデアは出ませんでしたね……」
「仕方ないさ。無駄だろうけど、最後までアレンを説得するしかない。俺たちに残されているのは、それだけだ」
レクトがそう言ったきり、会話は途切れてしまった。私たちが降り立ったあの地まで、キコキコという自転車の音だけが響き続ける。
「――あそこだな」
先に見える茂みの奥から、うっすらと光が漏れている。きっと、アレンの宇宙船から出ているものだろう。私たちは茂みの手前で自転車を降り、その奥の広場へと足を踏み入れた。
「おお、ちゃんと時間通りに来たな。それと、俺が言ったとおりヴェルミラの服を着てきたのか。それは、お前たちの気が変わったと思っていいのか?」
アレンの左手側にはセレスタ、右手側にはアレンが乗ってきた宇宙船が停泊している。どちらもスリープ中なのか、灯している光は淡い。
「いや、俺たちもアレン同様、考えを変える気はない。――そこでだ、アレン。俺たちヴェルミラ人は、遠く離れた地球というこの星を見つけることが出来た。まだ残り二百年もある。頑張ればまた見つかるんじゃないのか? 地球に代わる星が」
「バカを言うな。この地球という星を見つけられたことが、どれだけの奇跡だと思ってるんだ。生命維持装置はおろか、体を順応させる必要さえないんだぞ。お前たちにはそれが分からないのか」
「って言っても、二百年だよ? せめて、百年前くらいまでは探す努力をしてもいいんじゃないの?」
私が言うと、アレンはやれやれとため息をついた。
「この星を手に入れてからも、やることは山ほどある。例えば、俺たちに敵わないと分かっても、地球人はそれなりに反撃をしてくるだろう。核を攻撃に使ってくる可能性だってある。その場合、放射能の除去にもかなりの年数を要するんだ。たとえ、ヴェルミラの技術を使ったとしてもな。——お前たちが考えるほど、甘くはないんだよ」
「で、でも兄さん……ヴェルミラの人間はそれでいいんですか? これから生まれてくる子どもたちに、今住んでいる場所は同じ人間から奪った土地だって、胸を張って言えるんですか? ――どうなんです、兄さん!?」
「だっ、黙れリオ! 昨日言ったはずだ、俺は話し合うつもりはないと。――ところで、お前たちをそんな風にさせる地球人っていうのは、どんな奴らなんだ」
「俺たちの家の隣に住んでる、ハルキさんって人とミツキさんって人だ。俺はこんな優しい人たち――」
「分かったレクト、それで十分だ。――セレスタ、起動しろ」
アレンが言うと、セレスタは「キューン」という甲高い音を立てて、スリープを解除した。淡く発光していた箇所が、少しずつ光度をあげていく。
「なっ、何をするつもりだ、アレン」
「お前たちの未練を無くしてやるだけだ。――セレスタ! こいつらの家と、周り半径一キロメートルを焼き尽くせ!!」
セレスタは静かに地面から宙に浮き、上空に飛び上がろうとした。
「さ、させるかっ! イレイズ!!」
私は右の手のひらをめいいっぱい開き、セレスタへと向けた。直後、空間を大きく歪めながらセレスタは消滅した。
「サ、サリア、貴様っ!!」
アレンは右手を向けると、「ドンッ」という大音響とともに、私を激しく吹き飛ばした。
しょ、衝撃波……アレンはクライメア以外も使えるのか……
「サリアーーーっ!!」
レクトが私の元へ駆けてきて、上半身を抱き起こした。
「だっ、大丈夫か!?」
「あ、ああ……なんとか……あっ、熱いっ!!」
今度は激しい熱風が襲ってくる。アレンはクライメアで、私たちにトドメをさすつもりなのかもしれない。
「サ、サリア……! リオを見ろ!!」
リオが低い姿勢でアレンと対峙している。
この熱風の源は、アレンじゃない……
リオだ……