「おいサリア、皿洗いは俺たちがやるよ。まだ万全じゃないだろ」
「沢山寝たから全然平気。座ってコーヒーでも入れておいて。――あ、私のにはミルクも入れておいてね」
いつもはジャンケン制の皿洗いだが、今夜は私がすることにした。晩ごはんを作ってくれたことへの、せめてものお返しだ。
「――それで? リオの秘密って何なの?」
皿洗いを終え、私もテーブルについた。私が眠っている間に、レクトがリオから色々と聞き出したそうだ。
「そ、そんな……秘密ってほどではありませんよ……」
「何言ってんだ、俺は驚きの連続だったぞ。サリアもきっと驚くと思う」
私はゴクリと喉をならす。確かに、今日のリオには気になることが幾つもあった。
「どこから話せばいいかな……そうそう、オルマーシャ孤児院にいた時、アレンが大火傷を負ったことは憶えているよな?」
もちろん憶えている。アレンの大火傷は、当時大騒ぎになったからだ。
オルマーシャ孤児院の中でも、ずば抜けて量術の成績が良かったアレン。そのアレンがクライメアの練習中に、自らの量術で負傷してしまったのだ。当分の間、個人で量術の練習をすることを禁止された記憶がある。
「もちろん、忘れてないよ。アレンの左頬に大きな火傷痕が出来たのも、それが原因だったよね。――それとリオに何か関係があるの?」
「関係があるどころの話じゃない。あの火傷の本当の原因は、リオとアレンの兄弟喧嘩だ。怒ったリオが、アレンに向けてクライメアを放ったんだ」
うそっ……! 私は思わず、両手で口を抑えた。
「げ、厳密には違うんだ、レクトくん。兄さんへの怒りのあまり、自然発火というか、気がついたら兄さんが燃えてたというか……」
「な、なんだそれ、余計に怖いじゃねぇか……ちなみに、何がそんなにリオを怒らせたんだ」
「そ、それは……兄さんが……」
ん……? 言い淀むリオの顔を、私たちはジッと見る。
「レ……レクトくんといると、バカがうつるから遊ぶなって……」
「な、なんだと、アレンの野郎!!」
「い、いや、その言葉が引き金になっただけなんです。日頃から、兄さんはレクトくんとサリアさんの悪口を言うことが多かったから。きっと、僕の中で色々と溜まっていたんだと思います。――そして、その事故が起きてからです。エアコン程度のクライメアしか放てなくなったのは」
その日放ったリオのクライメアは、兄弟二人にトラウマを植え付けてしまったようだ。アレンはリオのクライメアに怯え、リオは心地よいと思えるクライメアしか放てなくなったのだから。