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ep33:涙

「確かその頃って、私たちが七歳でアレンは十歳……それくらいだったよね? アレン、本当は寂しかったんじゃないかな……私たちはいつも一緒だったけど、アレンは一人でいることが多かったから」


「そのとおりです、サリアさん。当時の僕は、兄さんが寂しがっているなんて、これっぽちも思いませんでした。――兄さんは強いから、一人でも平気なんだって本気で思ってたくらいです」


 リオは両手に挟んだマグカップをじっと見つめている。そして、一息つくと再び話し始めた。


「火傷を負った兄さんは、僕とともにミレル先生の元へと駆け込みました。先生がすぐに処置をしてくれたこともあって、命に別状はありませんでした。確か、兄さんにはクライメアの耐性があったから、これで済んだとも言っていた気がします。――そして、僕たちが落ち着いた頃、先生は火傷の理由を聞いたんです」


「——正直に言わなかったんだな? アレンは」


「ええ……兄さんは自分のクライメアで火傷を負ったと言いました。隣にいた僕も、それを否定しませんでした。僕が火傷を負わせたとなると、叱られるのは分かっていましたから。――だけど、先生に嘘は通じませんでした。もちろん、僕は酷く叱られました。だけど、兄さんも叱られたんです。『どうして、リオをそこまで怒らせたの?』って」


「で……? アレンは、なんて言ったの……?」


「兄さんは……『リオが羨ましかったから』って泣いたんです。『俺にはリオみたいな友だちがいない』って……」


 テーブルにポタリとリオの涙が落ちた。レクトがリオの背中を優しくさする。


「ハハハ……ごめんなさい。こんな話をするなんて思ってもいませんでしたから。それでも結局、兄さんは自分のクライメアで負傷したという話で落ち着きました。僕に火傷を負わされたなんて、兄さんのプライドが許さなかったんでしょうね。ミレル先生も最後は、『自分たちで決めなさい』と言って、この話は終わりました」


「――よく今まで黙っていたなリオ。アレンのためだったんだな」


 リオは無言で頷いた。



***



「昔話はこれくらいにしましょう。最短では明後日にでも、ヴェルミラ統律院の本隊がくる可能性があります。まあ、準備期間などを考えると、明後日に来ることはまず無いとは思いますが」


 ヴェルミラの宇宙船は、ワープと量術の充填を繰り返しながら地球にやってくる。セレスタでは移動に丸一日掛かったが、最新鋭の船なら半日でやってくることも可能だそうだ。


「正直な話、俺たちに出来ることってあるか? 色々と考えてみたけど、何ひとつ浮かばない」


「確かに。私もそう思う。――ねえ、リオ。地球の軍隊が本気を出せば、少しはヴェルミラに対抗できたりするの?」


「――いえ、ヴェルミラの前では無力に等しいと思います。戦うよりは話し合いだと思いますが、そんな時間をヴェルミラが与えるとも思いません」


 アレンが乗っていた最新鋭の船は、半日でヴェルミラにたどり着くという。


 私たちに残された時間は、ごく僅かだ。

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