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ep35:先生

「に、兄さんっ!!」


「すまんな、こんな所にまで顔を出して。早速で悪いが、お前たちに話がある」


「リ、リオくんのお兄さん? 良かったらどうぞ、上がっていってください! 私たちも今からご飯を食べるところだったんです!」


「ああ、それがいい! お兄さん、上がっていってください。俺たち兄妹、こいつらにはとても世話になってるんです。お礼も言いたいし」


 ミツキとハルキは、アレンに家に上がっていくよう促した。それはアレンに気を使っているのではなく、心の底から歓迎したい気持ちでいっぱいのようだ。


「何を言ってるんですか、ハルキさん。お世話になっているのは、僕たちの方じゃないですか……兄さん、今日だってご馳走に呼んでいただいたんです」


「そうか……リオのことはもちろん、レクトとサリアも世話になっているようで、心より感謝する。――ただ今日は、一刻を争う事情があって、こいつらをすぐに連れて帰りたい。――申し訳ない」


 アレンはハルキとミツキに頭を下げた。


 そういえば、初めてかもしれない。頭を下げるアレンを見るのは。


「そ、そうか。それなら仕方ないな。レクトの話は、今度ゆっくり聞こう。――それより、リオ。兄さんに会うのは久しぶりなんだろ? いっぱい話してこい」


 ハルキはそう言うと、リオの背中をポンと叩いた。


 私たちは用意してもらった食事を取れなかったことを詫び、ハルキたちの家を出た。



***



「ど、どういうことですか兄さん!? も、もう、ヴェルミラ本隊の侵略が始まってるって事ですか? 死ぬ前に最後のチャンスを与えるつもりで来てくれたんですか!?」


 玄関を出ると、リオは声を潜めながらも詰め寄った。


「慌てるなリオ。話はお前たちの家でする。――それと、先ほど勝手に家に入らせてもらった。来客に驚くと思うが、覚悟しておいてくれ」


 来客……? 鍵をかけていたはずの玄関を、アレンがガラガラと開ける。靴置きに、ヴェルミラ製の小さな靴が見えた。——子ども用? もしくは小柄な女性用だろうか。


 そして、先にリビングに入ったレクトが悲鳴を上げた。


「せ、先生……? ミレル先生っ!? 生きてたのかよ!!」


「おお、お前たち大きくなったね。私が最後に見たのは、お前たちが十六歳の頃だったかな。いや、本当に立派になった……さあ、こっちにおいで」


 レクトとリオはミレルに抱き寄せられると、子どものように泣きじゃくった。そんな二人を見て、私も涙が溢れてくる。


「なにをしてるの、サリア。あんたもおいで」


 彼女に包まれた瞬間、私も先生の名前を呼んで泣いた。



***



「あまり時間がないから簡潔に話すぞ、よく聞いてくれ。――ああ、その前にサリア。このあいだは、加減したとはいえブレアを放ってすまなかった。申し訳ない」


 ブレアとはアレンが放った衝撃波のことだ。——というか、あれで加減していたというのか……本気で撃たれていたら死んでいたのかもしれない。


「まず最初に、俺もヴェルミラ統律院から追われる身となった。もう俺は敵ではないから安心してくれ」


「ど、どうして兄さんが統律院から……? そ、それって、僕たちのせい!?」


「ま、まあ……そうだとしても、それは気にするな。結局俺は、お前たちは地球で死んでいたと報告をした。セレスタも機能障害を起こして、使いものにならなくなっていたとな。だが、ノクシアの……ああ、俺が乗っていた宇宙船の名前だ。ノクシアのフライトレコーダーに、お前たちとの最後の会話が残っていてな。――それが理由で、お前たち共々、国家転覆罪って罪に問われたってわけだ」


「ア、アレン……俺たちを救おうと、嘘をついてくれたのか……?」


「俺の一言に、お前たちの生死が掛かってたんだ。死なせるわけにはいかんだろう」


 すまない、アレン……


「どちらにしろ、アレン。お前もいずれ、ヴェルミラ統律院とは対立する運命だったんだ。早かったか遅かったかだけの話だよ」


「どっ、どういうことだよ先生!? アレンがいずれは対立するとか、死んでたと思ってた先生が生きてるとか、俺たち分かんないことだらけじゃないか!」


「ハハハ、そうだねレクト。まずは、私がなぜ生きているかの説明をした方が早いかもしれないね」


 ミレルは「よいしょ」と姿勢を変えると、私たちの目を見て話し始めた。

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