「に、兄さんっ!!」
「すまんな、こんな所にまで顔を出して。早速で悪いが、お前たちに話がある」
「リ、リオくんのお兄さん? 良かったらどうぞ、上がっていってください! 私たちも今からご飯を食べるところだったんです!」
「ああ、それがいい! お兄さん、上がっていってください。俺たち兄妹、こいつらにはとても世話になってるんです。お礼も言いたいし」
ミツキとハルキは、アレンに家に上がっていくよう促した。それはアレンに気を使っているのではなく、心の底から歓迎したい気持ちでいっぱいのようだ。
「何を言ってるんですか、ハルキさん。お世話になっているのは、僕たちの方じゃないですか……兄さん、今日だってご馳走に呼んでいただいたんです」
「そうか……リオのことはもちろん、レクトとサリアも世話になっているようで、心より感謝する。――ただ今日は、一刻を争う事情があって、こいつらをすぐに連れて帰りたい。――申し訳ない」
アレンはハルキとミツキに頭を下げた。
そういえば、初めてかもしれない。頭を下げるアレンを見るのは。
「そ、そうか。それなら仕方ないな。レクトの話は、今度ゆっくり聞こう。――それより、リオ。兄さんに会うのは久しぶりなんだろ? いっぱい話してこい」
ハルキはそう言うと、リオの背中をポンと叩いた。
私たちは用意してもらった食事を取れなかったことを詫び、ハルキたちの家を出た。
***
「ど、どういうことですか兄さん!? も、もう、ヴェルミラ本隊の侵略が始まってるって事ですか? 死ぬ前に最後のチャンスを与えるつもりで来てくれたんですか!?」
玄関を出ると、リオは声を潜めながらも詰め寄った。
「慌てるなリオ。話はお前たちの家でする。――それと、先ほど勝手に家に入らせてもらった。来客に驚くと思うが、覚悟しておいてくれ」
来客……? 鍵をかけていたはずの玄関を、アレンがガラガラと開ける。靴置きに、ヴェルミラ製の小さな靴が見えた。——子ども用? もしくは小柄な女性用だろうか。
そして、先にリビングに入ったレクトが悲鳴を上げた。
「せ、先生……? ミレル先生っ!? 生きてたのかよ!!」
「おお、お前たち大きくなったね。私が最後に見たのは、お前たちが十六歳の頃だったかな。いや、本当に立派になった……さあ、こっちにおいで」
レクトとリオはミレルに抱き寄せられると、子どものように泣きじゃくった。そんな二人を見て、私も涙が溢れてくる。
「なにをしてるの、サリア。あんたもおいで」
彼女に包まれた瞬間、私も先生の名前を呼んで泣いた。
***
「あまり時間がないから簡潔に話すぞ、よく聞いてくれ。――ああ、その前にサリア。このあいだは、加減したとはいえブレアを放ってすまなかった。申し訳ない」
ブレアとはアレンが放った衝撃波のことだ。——というか、あれで加減していたというのか……本気で撃たれていたら死んでいたのかもしれない。
「まず最初に、俺もヴェルミラ統律院から追われる身となった。もう俺は敵ではないから安心してくれ」
「ど、どうして兄さんが統律院から……? そ、それって、僕たちのせい!?」
「ま、まあ……そうだとしても、それは気にするな。結局俺は、お前たちは地球で死んでいたと報告をした。セレスタも機能障害を起こして、使いものにならなくなっていたとな。だが、ノクシアの……ああ、俺が乗っていた宇宙船の名前だ。ノクシアのフライトレコーダーに、お前たちとの最後の会話が残っていてな。――それが理由で、お前たち共々、国家転覆罪って罪に問われたってわけだ」
「ア、アレン……俺たちを救おうと、嘘をついてくれたのか……?」
「俺の一言に、お前たちの生死が掛かってたんだ。死なせるわけにはいかんだろう」
すまない、アレン……
「どちらにしろ、アレン。お前もいずれ、ヴェルミラ統律院とは対立する運命だったんだ。早かったか遅かったかだけの話だよ」
「どっ、どういうことだよ先生!? アレンがいずれは対立するとか、死んでたと思ってた先生が生きてるとか、俺たち分かんないことだらけじゃないか!」
「ハハハ、そうだねレクト。まずは、私がなぜ生きているかの説明をした方が早いかもしれないね」
ミレルは「よいしょ」と姿勢を変えると、私たちの目を見て話し始めた。