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ep36:雲隠れ

「ヴェルミラは長い年月をかけて小国同士が統合を繰り返し、十七年前の内戦時には二つの国にまで絞られていた。一つが戦勝国である大国ヴァルムート、もう一つが私たちの祖国エルシアだ。そして今、併合された私たちはヴァルムートの民となっている。——ここまでは分かるね?」


「先生、流石に俺たちでもそれくらいは分かるよ。それで、どうして先生は死んだってことになってたんだ?」


「ハハハ、そうだね。率直に言うとだね、エルシアの民は今でも迫害されているってことさ。特に力を持っているものはね。周りにいた腕の良い量術使いは、みんな殺されてしまったよ」


「も、もしかして、先生も狙われていたのか? それで雲隠れしていたとか?」


「それに関しては、俺のせいでもあるんだ。すまん……」


 黙って聞いていたアレンが口を挟んだ。


「に、兄さんのせい、っていうのはどういうことなんですか?」


「ミレル先生は徹底して、攻撃性のある量術を教えようとしなかった。それは二度とヴァルムートに逆らう人間は育てないという、意志の表れでもあった。だが俺は、対人量術にまで高めたクライメアを引っ提げて、ヴェルミラ統律院の試験を受けにいったんだ……それがキッカケで、先生は……」


「そ、それって、兄さんを育てたミレル先生が、危険人物って扱いになったって事!?」


「ああ、そうだ……俺は能天気にヴェルミラ統律院の試験を受けたことを、ミレル先生に報告しに行ったんだ。こんなことになるとは知らずに……」


「それはもう言うなと言っただろうアレン。あの時、お前の報告が遅れていたら私は逃げるタイミングを逃していたんだ。そして、お前だけには私の本当の居場所を伝えておくことが出来た。これで十分じゃないか」


 報告を受けたミレルはすぐさま、死んだことにして身を隠したという。今回の件でアレンとミレルが会ったのは、その日以来だそうだ。


「ちっ、なんだよ……アレンだけは、ミレル先生が生きてたって知ってたのかよ。ひどい話だぜ、全く……」


「すまないね、レクト。絶対に口外するなというのを、アレンが守っていただけなんだ。——まあ、アレンのことがあろうとなかろうと、どのみち私は狙われる運命にあったんだけどね。ヴァルムートに殺されても仕方がないことをやっていたんだよ、私は」


「こ、殺されても仕方がない事!? な、なんです、先生それは?」


「ああ……これはまだ、アレンにも言っていなかったね。いや、アレンだけじゃない、今の今まで誰にも言っていなかったことさ。——それでは今から見せよう、私がオルマーシャ孤児院で密かにやっていたことを」


 ミレルはそう言うと、彼女の前にリオを座らせた。

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