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ep37:秘密の鍵

「じゃ、まずはリオからだ」


 リオは緊張の面持ちで、ミレルの前に座っている。ミレルはリオに目を閉じさせると、リオの頭にスッと右手を乗せた。


「――ああ、やっぱり鍵が外れかけている。この子だけだからね、私が掛けた鍵を自分で外してしまったのは」


 鍵……? 鍵とは一体、何のことだ……?


 ミレルはリオの頭の上で手をすべらせていく。まるで、リオの頭の中を覗いているかのように……


「よし……では、鍵を外すよ……リオ、少しの間息を止めて……」


 ミレルが手のひらに力を入れた瞬間、リオの髪の毛がブワッと逆立った。何かが開放された……? 私にはそんな風に見えた。


「これでお前のクライメアはアレンと同等……いや、リオの方が少し上かもしれないね。これで、お前のクライメアは対人領域にまで昇華した。——でもね、迂闊に人に放つんじゃないよ。一瞬で灰になってしまうから」


 リオは自分の両手をマジマジと見つめている。


「ぼ、僕が兄さんより上のクライメア使い……? ま、まさか……先生が僕の力を引き上げてくれたんですか?」


「いや、そうじゃない。力を引き上げたのではなくて、閉じ込めていたものを開放しただけだ。アレンと兄弟喧嘩を起こした時、私は既にリオに鍵をかけていたんだよ。なのに、この子ったら私の鍵を外しちゃったんだから。ハハハ、恐ろしい子だよ。――じゃ、次はレクトだ。こっちにおいで」


「せ、先生。もしかして俺も、閉じ込められていた力があるのか?」


「ハハハ。開放してから教えてあげるよ。さあ、目を閉じてごらん」


 ミレルはリオの時と同じように、レクトの頭上で手のひらをすべらせていく。


「――見つけた。じゃあいくよ……息を止めて」


 レクトは緊張した表情のまま、息を止める。ミレルが力を入れた瞬間、リオの時と同じようにレクトの髪の毛も勢いよく逆立った。


「こ、これで、何か変わったのか、先生?」


 レクトは右の手のひらをクルクルと回しながら見つめている。


「私がいつも、お前のイメイジョンを褒めていたのを憶えているかい? 生成する物質の解像度の高さ、それを生成するスピード、お前はどちらも群を抜いて秀でていた。そもそも、イメイジョン自体、使える者は少ないがな。――そして今日から、お前はもう一つの量術が使えるようになる。ジェネヴィオンだ」


「ジェ、ジェネヴィオンだと……!?」


「に、兄さん、何なんですか、ジェネヴィオンとは?」


 アレンは信じられないという表情で首をふる。


「簡単に言えば、イメイジョンの実体化出来るバージョンってやつだ。――で、でも先生、レクトと言えどイメイジョンで出来るものとは、解像度のレベルは違いますよね? ヴェルミラ統律院のエースでも、ジェネヴィオンで生成出来るものと言えば、小さな球体や立方体くらいのものだ」


「さあ、どうだろうねぇ。レクトならイメイジョンと変わらないレベルで生成してしまうんじゃないかな」


「ま、まさか、そんな……」


「ハハハ、アレンがそんなに驚くんなら、相当すごい量術ってことなんだな。で、先生、これはどうやって使うんだ?」


「イメイジョンと同じやり方で大丈夫だ。生成させる時に実体化させるか、させないかを、お前が決めればいい」


 レクトは「分かった!」と言って、テーブルに右手を向けた。次の瞬間、テーブルの上に2枚の一万円札が出現した。


「片方はイメイジョン、もう片方はジェネヴィオンで生成してみた。どっちがどっちか分かるか?」


 私たちはテーブルに顔を近づけて、両方を見比べる。正直、どちらがジェネヴィオンで生成されたものなのか、全く分からない。


「ど、どっちもイメイジョンってことだろ、どうだ」


 両方のお札をアレンが手で払うと、一枚は消えずにスーッとテーブルの端まですべっていった。


「よっ、よし成功だ! ジェネヴィオン最高じゃねーか! これで仕事せずに食っていけるぞ!」


 そっ、それだけはダメだぞレクト、通貨偽造罪は大罪も大罪だ。

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