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ep39:挑戦状

「では、そろそろ出ましょうか先生。お前たちも準備してくれ、セレスタで降り立った場所まで移動するぞ」


「ど、どういうことですか兄さん? もしかして、その場所にヴェルミラの本隊が来るっていうんですか!?」


「ああ、そうだ。最短では三時間程で到着する可能性もある。その理由は、移動中に話す」


「――ちょ、ちょっと待ってくれアレン」


「どうした? 怖気づいたかレクト」


「い、いや……その前に、飯を食わせてくれ……」


 アレンは両目を見開いたかと思うと、大口を開けて笑った。



***



「な、なんだ、リオ。これは……」


「インスタントのご飯と、レトルトカレーです。みんなの分があって良かったです、さあ食べましょう」


 アレンは見た目が苦手なのか、スプーンでカレーのルーをカチャカチャとかき回している。


「なんですかアレン、お行儀の悪い。――ああ、この香りはスパイスというものなのね。私は好きになるかも……この香り」


 ミレルはカレーに鼻を近づけて、クンクンと匂いを嗅いだ。


「急いでるんだろ、アレン? 食わないなら、俺が代わりに食うぞ」


 レクトがアレンのカレーを取り上げる仕草をすると、アレンはサッと自分の元へと引き寄せた。


 ハハハ、なんだか懐かしい。アレンとレクトとのやりとりはいつもこんな感じだった。


「く、食えばいいんだろ。大仕事の前だし、腹ごしらえは必要だからな」


 アレンはそう言うと、恐る恐るスプーンを口元へと運んだ。


「……な、なんだこれは」


「美味しいでしょ? 兄さん」


「あ、ああ……なんていうか、ヴェルミラでは経験したことのない感じだ」


 そう言った後、アレンは休む間もなくスプーンを口に運び続けた。


「実はなアレン。このカレーはレトルトカレーって言って、気軽に食べられるのがウリなんだ。世の中には、もっと本格的なカレーがゴロゴロしてるんだぜ」


「な、なに? これより美味いカレーがあるのか?」


「もちろんさ。しかも、カレーだけじゃないぞ。焼肉にお好み焼き、地球は美味いものだらけだ。もしさ……もし、地球に平和が続くようだったら、地球の美味い食い物、俺がアレンに教えてやるよ」


「そうか……それは頑張ってみる価値があるな」


 アレンはフッと笑うと、再びスプーンを口に運び始めた。



***



「よし、みんなヴェルミラの服に着替えてくれたな。それではミレル先生、また長距離ですが、もうひと頑張りしてください」


 セレスタが降り立った場所までは、徒歩で一時間ほどかかる。私たちはともかく、アレンとミレルは歩いてこちらに来たばかりだ。


「じゃ、先生はこれの後ろに乗ればいい。自転車っていうんだ、俺が手で押してってやる」


「ハハハ、相変わらずレクトは気の利く子だね。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうか」


 ミレルはそう言うと、自転車の荷台にちょこんと座った。



 レクトが押す自転車を先頭に、残り三人が徒歩で続く。


「兄さん。ヴェルミラ本隊が、僕たちがいる場所に来るという確証はあるんですか?」


 リオが尋ねるのも当然だ。これから地球を侵略しようとするのに、わざわざ私たちを相手にする必要はない。地球人もろとも、攻撃すればいいだけの話だ。


「確証か……確証ではないが、高い確率で来ると考えている。俺の挑戦状に応えるつもりならばな」


「ちょ、挑戦状……? 量術で対決しようと、書き置きでもしたのか? そんなの相手にされないだろ。——なあ、先生」


「いや、レクト。私も必ず来ると思っているよ。今までずっと秘密にしていたことを、アレンが書き残してきたからね」


「い、今まで秘密にしてきたこと? も、もうっ、何だよ! 俺たちって、知らねえことばかりじゃないか!!」


「ハハハ、そうむくれるなレクト。俺だって、今回ミレル先生に会うまでは、知らなかったことばかりだ。――俺から話しましょうか? 先生」


 アレンが言うと、「そうだね」とミレルは頷いた。

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