「先生は疑われなかったの? 何かしらの量術で、避難所を守っていたんじゃないかって」
「もちろん、疑われたさ。避難所に残っていた大人は三人だけ。全員がヒール系の量術使いで、子どもたちの健康を見守るために居たと言い続けたよ。あと、ここじゃ言えないような、酷い仕打ちも受けたもんだ。――でも結局、ヴァルムートは私のアブソルヴェールには気付けなかったんだ」
「で、その時の縁で、俺たちはミレル先生がいる孤児院に入ることが出来たのか……」
そう言ったレクトに対し、ミレルは「ハハハ」と笑った。
「なにを言ってるんだ、レクト。孤児院が出来たのは戦後のことだ。実は避難所にいた頃から、私はお前たちに目をつけていたんだ。あれだけ沢山の子どもたちがいた中から、お前たち四人をね。きっとこの子たちは良い量術師になる、逆に言えば命を狙われかねない量術師になると。私はお前たちを追って、オルマーシャ孤児院に先生として入ったんだよ」
「ぼ、僕たちを追って!?」
「そうさ。アレンは年が離れていたから仕方なかったけど、お前たち三人は同じ部屋になっただろう? それも私が手を回したからだ。だから、今日おまえたちとここにいるのは偶然ではなくて、必然なんだよ」
なんという事だ……私たちは物心ついたときから、ミレルの手のひらの上で踊らされていたという訳か……
「――ちなみに、孤児院に応募したってことは、それまでは別の仕事をしていたんですよね? 前職はヒーラー職だったんですか?」
「い、いや、違うな……ヒーラー職ではない」
「じゃ、他の量術ですか?」
「い、いや、それも違う。そもそも、私は量術は仕事にはしていなかった。親にも止められていたからな」
「じゃあ、量術以外の仕事をしてたってこと?」
レクトが振り返って、ミレルの顔を覗き込む。
「ま、まあ、そんなところだ」
「——煮えきりませんね、先生。言いにくい仕事なんですか?」
アレンも流石に気になってきたようだ。そういえば、こんなミレルは今までに見たことがない。
「——先生、私が当てようか。先生の前の仕事って……女優さんだよね?」
男子たちの歩みが、一斉に止まった。
「せ、先生……ホントなのか?」
ミレルは恥ずかしそうに、コクリと頷いた。
***
「いやー! ミレル先生が女優だったなんて、驚いたな!」
「ほんと、同感です! ――というか、なんでミレル先生が女優をやってたって分かったんですか? サリアさん」
「実は一度だけ、こっそり先生の部屋に入ったことがあったんだ。そしたら、とても綺麗な女性が写ってる映画のポスターが飾ってあってさ。で、その女性をよくよく見たら、先生だったってわけ」
「む、昔の写真だったのに、よく気づいたねサリア……まさか、アブソルヴェール以上の秘密を知られるとは思いもしなかったよ……わ、私だって可愛かったんだからね、昔は」
「何言ってんだ、先生。先生は今だって充分可愛いじゃないか」
レクトは振り返り、大真面目な顔でそう言った。
「レ、レクト! 大人をからかうのはいい加減にしなさい!」
ミレルはそう言うと、自転車を押すレクトをパタパタと叩いた。