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ep44:時代が変わる前触れ

「リオが芝生を焼いてくれたおかげで、境界の目安が出来たね。とりあえず奴らが来たら、この円形の芝生に入ってきておくれ。この面積なら、私の右手一本でも十分に守りきれるだろう。——ただし、お前たちが量術を使う場合は、絶対にアブソルヴェールの領域外で行うこと。さっきのクライメアをアブソルヴェール内で発動させたら、私たちは一瞬で丸焼きになるぞ」


「は、はいっ! 気をつけます」


「――そういや、先生。もしサリアがアブソルヴェールに向けてイレイズを放ったらどうなるんだ?」


 レクトに問われたミレルは、顎に手を添え首を傾げた。


「完全防御と、完全消去と化したイレイズか……そこまでいくと、あとは使い手の力量の差になるね」


「ハハハ、それなら先生の勝ちだ。どっちにしても、私がアブソルヴェールを消すことはないけど」


「それはどうかな? 若い頃の私なら負ける気はしないけど、今なら分からないよ。――今回のことが落ち着いたら、一度試してみようかサリア」


 ミレルはそう言って笑った。


 今回のことが落ち着いたら……ミレルはヴェルミラ統律院に勝てると思っているのだろうか。それとも、私たちの不安を少しでも和らげるためだろうか。



***



「奴らが俺の誘いにのる前提なら、そろそろ到着してもいい時間だ。お前たち、ヴェルミラ統律院の兵器に関して、ある程度の把握は出来ているな?」


「もちろんです。無人の量産機、VA−01Gが主力機です。通称名は確か、グリムかと」


「ああ、そうだ。そいつは今リオが言ったように無人機だ。見つけたら気兼ねなく撃ち落としていい。まずはこいつらの処理をすることで、俺たちの力を知らしめていく」


「む、無人機なら何も気負うことはないな。了解だアレン」


「ただ、先生も言っていたように、量術を放つ時はアブソルヴェールの外からだ。グリムは量産機と言えど、ルクスレーザー系量術を放ってくる。それには充分に気をつけろ」


「と、ところで、兄さん……もし、有人兵器が現れたら、それも倒さないといけませんよね?」


 リオがそう問いかけると、皆がミレルを見た。


「そんな質問が出てくるだなんて、やはり私たちはエルシア人なんだね。そう、私たちエルシア人は戦いを好まない。それ故、先の大戦では敗北してしまったんだ。その戦争までは、圧倒的な防御力でヴァルムートに力の差を見せつけていたんだけどね。——だけど、ヴァルムートの量術兵器の登場でそれは覆されてしまった。要するに、人を殺せなかったエルシア人は戦争に負けたんだ」


「そっ、それじゃ、僕たちは勝てないって事じゃ……」


「でも、昔と今では変わったことがある。昔のエルシア人にはほとんどいなかった、クライメアやイレイズ完全消去を使えるお前たちが出てきたってことだ。——もしや、時代が変わる前触れなのかと、私は思っている」


「せ……先生の言う通りだ……俺やリオがクライメアを使えるのも、サリアがイレイズを使えるのも、この日のためだったに違いない。俺は今回のことで先生に再会するまで、ヴァルムートが教えてきた歴史を信じていた。憧れだったヴェルミラ統律院に入ることも叶い、ヴァルムートのためなら死ねるとまで思っていた。だが、真実を知ってしまった今、俺は絶対にヴァルムートを許すことは出来ない。――俺はやるよ、先生。これ以上エルシアを侮辱することは、絶対に許さない……」


 アレンは拳を握りしめ、力強くそう言った。

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