「リオが芝生を焼いてくれたおかげで、境界の目安が出来たね。とりあえず奴らが来たら、この円形の芝生に入ってきておくれ。この面積なら、私の右手一本でも十分に守りきれるだろう。——ただし、お前たちが量術を使う場合は、絶対にアブソルヴェールの領域外で行うこと。さっきのクライメアをアブソルヴェール内で発動させたら、私たちは一瞬で丸焼きになるぞ」
「は、はいっ! 気をつけます」
「――そういや、先生。もしサリアがアブソルヴェールに向けてイレイズを放ったらどうなるんだ?」
レクトに問われたミレルは、顎に手を添え首を傾げた。
「完全防御と、完全消去と化したイレイズか……そこまでいくと、あとは使い手の力量の差になるね」
「ハハハ、それなら先生の勝ちだ。どっちにしても、私がアブソルヴェールを消すことはないけど」
「それはどうかな? 若い頃の私なら負ける気はしないけど、今なら分からないよ。――今回のことが落ち着いたら、一度試してみようかサリア」
ミレルはそう言って笑った。
今回のことが落ち着いたら……ミレルはヴェルミラ統律院に勝てると思っているのだろうか。それとも、私たちの不安を少しでも和らげるためだろうか。
***
「奴らが俺の誘いにのる前提なら、そろそろ到着してもいい時間だ。お前たち、ヴェルミラ統律院の兵器に関して、ある程度の把握は出来ているな?」
「もちろんです。無人の量産機、VA−01Gが主力機です。通称名は確か、グリムかと」
「ああ、そうだ。そいつは今リオが言ったように無人機だ。見つけたら気兼ねなく撃ち落としていい。まずはこいつらの処理をすることで、俺たちの力を知らしめていく」
「む、無人機なら何も気負うことはないな。了解だアレン」
「ただ、先生も言っていたように、量術を放つ時はアブソルヴェールの外からだ。グリムは量産機と言えど、
「と、ところで、兄さん……もし、有人兵器が現れたら、それも倒さないといけませんよね?」
リオがそう問いかけると、皆がミレルを見た。
「そんな質問が出てくるだなんて、やはり私たちはエルシア人なんだね。そう、私たちエルシア人は戦いを好まない。それ故、先の大戦では敗北してしまったんだ。その戦争までは、圧倒的な防御力でヴァルムートに力の差を見せつけていたんだけどね。——だけど、ヴァルムートの量術兵器の登場でそれは覆されてしまった。要するに、人を殺せなかったエルシア人は戦争に負けたんだ」
「そっ、それじゃ、僕たちは勝てないって事じゃ……」
「でも、昔と今では変わったことがある。昔のエルシア人にはほとんどいなかった、クライメアや
「せ……先生の言う通りだ……俺やリオがクライメアを使えるのも、サリアがイレイズを使えるのも、この日のためだったに違いない。俺は今回のことで先生に再会するまで、ヴァルムートが教えてきた歴史を信じていた。憧れだったヴェルミラ統律院に入ることも叶い、ヴァルムートのためなら死ねるとまで思っていた。だが、真実を知ってしまった今、俺は絶対にヴァルムートを許すことは出来ない。――俺はやるよ、先生。これ以上エルシアを侮辱することは、絶対に許さない……」
アレンは拳を握りしめ、力強くそう言った。