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ep52:ドレイク

「お、おい……どういう事だ……」


 上空を見上げ、アレンが呟いた。


 敵方の戦闘機がグリムを撃墜したのだ、アレンが驚くのも無理はない。無人機であるグリムは、味方機を迎撃出来ないようプログラムされているのか、面白いように撃ち落とされていく。


「だっ、誰だ!! ゼルクに乗っているのは!?」


 ロウゲンの怒りに満ちた声が響く。グリムと違い、ゼルクという戦闘機は有人機だ。全てのグリムを撃ち落とすと、こちらに向かって降下してきた。


「アレン! 聞こえるか!? ドレイクだ! 私は味方だ、攻撃してくるな!!」


「ド、ドレイク大佐!? サリア! イレイズは放つな!!」


 ドレイク大佐……


 ああ……そういえば、すれ違いざまに声をかけられたことがある。こんな一兵卒にまで声をかけてくれるのかと、驚いたことを憶えている。


 ドレイクは近くに着陸すると、攻撃はしないという意思表示なのか、両手を上げてこちらに歩いてきた。


「念の為、アブソルヴェールを張る……みんな、気を抜くんじゃないよ……」


 ミレルはドレイクを敵と見ているのだろう。リオへのソルフィスを止めて、アブソルヴェールに切り替えた。私にイレイズを放つなと言ったアレンも、いつでも量術を放てるよう低い姿勢を取っている。


「アレン、私は敵じゃない。お前たちの味方だ、構えを解いてくれ。――そして、ミレルさん。私の声に聞き覚えはありませんか?」


 ん……? エルシアなまり……? もしかして、ドレイクはエルシア人なのだろうか……だがドレイクの顔は、鼻と耳の先が尖った、典型的なヴァルムート人の顔だ。


「その声……もしかしてエリオンなのかい……? ――私とどこで会ったか、何をしたか、言うことは出来るかい?」


 エリオン……? ドレイクという名前は本名ではないということか。確かにドレイクの声は、一度聞いたら忘れそうにない特徴的な声質をしていた。


「もちろんです。アストリアの避難所で共に過ごしました。今の貴方のように、子どもたちをソルフィスで治療しながら。――信じてもらえるなら、私はあなたたちを救いたい。特に、その彼が手遅れにならないように」


「ほ、本当にエリオンなんだね! じゃ、この子……リオにソルフィスをお願い、私はレクトにソルフィスをかける」


 ドレイク……いや、エリオンはリオの胸に手を当て、ソルフィスを発動させた。疲れ切っているミレルより、明らかに強いソルフィスを放っているように見える。


「ド、ドレイク大佐! い、一体、どういう事なんですか!?」


「アレン、これからはドレイクではなく、エリオンと呼んでくれ。それと、詳しい説明は後にしよう。――現状について、先に報告をする。レヴァナント攻撃空母は地球に至るまでの度重なるワープと、アレスレイ対地上レーザーを使ったことで、ほぼほぼ量術を使い切っている。ジェネヴィオンで生成されたドームに、対空レーザーを放てなかったほどにだ。だが、しばらくで量術も充填されてしまうだろう。——叩くなら今がチャンスだ」


「た、叩くといっても、どうやって……あっ!! 別のゼルクが出てきました! ……三……六……九機です!」


「九機か。これでレヴァナントに搭載されていた戦闘機は、無人有人合わせて全て出てきたことになる。まずは、こいつらを始末しよう。お前たちだけで、なんとか出来そうか?」


 九機だけなら、私とアレンがいればなんとかなりそうだ。だが、ゼルクは一向に降下してこない。


「エリオンさん……ゼルクが攻撃してきません。何かの作戦なんでしょうか……?」


「いや……きっと作戦なんかじゃない。他人を傷つける事を恐れるエルシア人とは反対に、ヴァルムートの人間は自分自身が傷つくことを酷く恐れる。今までお前たちの量術を見ていたから、怯んで向かってこれないのだろう」


 エリオンはリオにソルフィスを施しながら、話を続けた。


「ところで……対人相手に量術を使うのは初めてだろう。どうだ、やれそうか?」


 アレンと私は、「はい!」と声を張り上げた。

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